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「ステラ嬢から、話をしたいだなんて言って貰えて……とても光栄です」
「あはは……そうですか。ブライト様は、とても格好いいお方だったので。一目見たとき、話したい……と」
「そんな……ありがとうございます。ステラ嬢」
表むきの、当たり障りのない、誰にでも優しい笑顔。それを向けられて、私はいい気がしなかった。この人はこうやって距離を作っているって知っているから。でも、これが出会った当初のブライトだったと思い出して、それはそれで新鮮だと思うことに下。
外は寒いし、談話室も使えなかったので、あいている客室に二人、向かい合うようにして座っていた。フィーバス卿にはああやって無理言って来ちゃったけれど、これで本当によかったのだろうか。
「ぶ、ブライト様は……お父様に、用があってきたんですよね。私が、口を挟んでしまって……その、話したくないのなら、今すぐお父様を呼んできますが」
「大丈夫です。ご心配なさらず……少し聞きたいことがあったんですが……いえ、協力を申し込みたくきたのですが、門前払いされてしまって」
「お、お父様は優しいので、しっかりいえば、きっと協力してくれるはずです」
「いいえ。フィーバス卿がこの領地から出れないことを知っての頼みでしたから……断られるのも当然です」
それは、当然かもしれない。と聞いて納得した。そんな要望……いや、エトワール・ヴィアラッテアが動き始めて、リースがフィーバス卿を訪れたときともしかしたら状況は一緒かも知れないと思った。もし、ブライトのこのはなしが、エトワール・ヴィアラッテアと繋がっているのだとしたら、阻止するのは正解かも知れない。
にしても、簡単に私に話してくれたものだと、珍しいなと思った。ブライトってこういう感じの性格じゃないし……
「お茶、美味しいですか」
「ええ。僕の領地では取れない茶葉ですね。お菓子も美味しいです」
「そ、それはよかったです」
ぎこちない。ぎこちなさが、前面に押し出されている。これじゃ、場がもたないと分かっていても、そもそも、人と会話をするのが苦手だったことを思い出した。ダメだ、つんだ。ここにもう一人……それこそ、アルベドとかいてくれたらいいんだけど、あとアウローラとか。いや、アウローラはメイドだし、話しには、はいってこれないか、なんて色々考える。やっぱり、後先考えずに行動するのはダメだなと思った。もっと計画を練って。
(いやいや、計画練っても、今回のこれはイレギュラーなんですけど!?勝手に来て!?)
勝手にきたわけではないけれど、こんなの聞いていなかった。あの時、ブライトの可能性を考えていれば、もう少し心構えが出来たのかも知れないけれど、そもそも、フィーバス卿の客だったから、私が聞いたところで……という話だったかも知れない。どっちにしても、何だかよくないことだけは分かった。
「ステラ嬢」
「はい」
「つかぬことお聞きしますが、いつフィーバス卿の養子になったのですか」
「あっ……えっと」
「答えにくいのでしたら、大丈夫です。こちらも、デリカシーがなかったと思うので。ただ、あのフィーバス卿が養子を取ったこと……それは、社交界でも話題になっていまして」
「ブライトって、社交界でるの!?あ!」
口を塞ぐ。無礼だったのもそうだが、ブライトって馴れ馴れしかったかも知れない。ブライトは目を丸くして、私を見ている。立ち上がっちゃってもいた。恥ずかしい。恥ずかしいというか、やっぱり貴族は向いていないって思ってしまう。
私は着席し、咳払いをする。
「す、すみません。ブライト様は、侯爵家のことで忙しいと聞いていましたから。その災厄のことで色々と」
「そう、ですね。父上がいない今、侯爵家を支えるのは僕の仕事ですし……社交界、パーティーが苦手なのもそうです。ところで、それは何処で聞いたのですか?」
「ええっと、あう……侍女に。私、養子になってまだ日が浅いじゃないですか。でも、貴族として、そういう場に出た方がいいのかなって思って、色々聞いてまわって」
「そうでしたか。フィーバス卿と違って、アクティブな人なんですね」
「アクティブ」
「ああ、悪口ではありません。ただ、フィーバス卿が養子を取った……その人はどんな人物なのか気になっていて。もしかしたら、絆されたのかも知れませんね。ステラ嬢のその明るい性格に」
「あ、明るいですか」
「はい」
始めていわれた。いや、初めてじゃないかも知れないけれど。でも、初対面でこんな風に言って貰えるってことは、好感触。好感度が上がったんじゃないかと思ってみてみたが、1から動いていなかった。エクストラモードすぎる。
これも全部社交辞令って奴かも知れない。フィーバス卿と似ても似つかないというのはそう……正確はとくに。
(でも、髪の色とかそれなりに似てるんじゃない!?いや、白髪だから、違うかも……でもでも!)
何かしら、理由をつけてみようとしたが、それをやるだけ無駄だということに気づき、私は心の中でも着席した。取り敢えず落ち着かなければ。
「始めていわれました。明るいとか。どっちかというと、根暗な方なので」
「そうですか?僕にはそう見えませんが」
「ブライト様こそ優しいですね。それが、社交辞令だったとしても」
「……っ、……」
「どうしました?」
「いえ……社交辞令……社交辞令、ではないです。それに、いえ、何も」
と、ブライトは歯切れ悪く言うと、俯いてしまった。ジジッと、彼の好感度が揺れ動く。ああ、記憶を取り戻しそうなのか、と私はそこだけ冷静になっていた。ここで、無理に話をすればまた私もダメージを喰らう。それに、きっと、今ここでいったところで、そこまで彼に思い出すヒントをあげられない。自然に思い出してくれなければならないと思った。
「私、ブライト様と初めて会った気がしないんですよね」
「……っ、そうですか。僕もそう思います」
「ですよね。やっぱり、何処かで――」
「ヘウンデウン教」
「はい?」
ちょっとだけなら、踏み込んでみても大丈夫なんじゃないかと思って踏み込んだ。すると、彼から返ってきた言葉は、そんな物騒なもので、私の笑顔は一瞬にして冷え固まった。
「以前、帝都に用事があっていったとき、僕の弟は知らぬ間に消えていました。そして、知らぬ女性と、ヘウンデウン教に囲まれていて……女性もヘウンデウン教の教徒かと思いましたが、僕達を逃がしてくれました」
「そ、そうだったんですねーそ、それは災難で。あ、あ、ブライト様って弟がいらっしゃったんですね」
「……」
「ぶ、無事でよかったです。お怪我はありませんでしたか?」
バレているんじゃないかと思った。もう、この雰囲気は絶対に。余計なことをいって、変なところから記憶を引っ張り出してきてしまった。そんな気がしたのだ。
ブライトは、膝の上で手を組み替えて、私の方をスッと見た。アメジストに瞳を向けられれば、もう嘘は言えないし、ごまかせないとすら思う。
「はい。おかげさまで……ステラ嬢は、先ほど僕と会ったことがあると仰いましたね」
「夢の中でとか」
「……あの時、僕達を助けてくれたのはステラ嬢じゃないですか。貴方の魔力と、あの時の女性の魔力が似ているんです」
「気のせいじゃないですか。私は、帝都に何ていってませんし」
「確かに、あの時つれていた女性は、闇魔法の魔力を感じましたから。でも、片方は、光魔法だった……」
「わ、私と似ても似つかないのでは!?」
「変身魔法をかけているという可能性も……いえ、間違いないでしょう。だから、気付くはずもない。それに、用心深く、顔も隠していましたし。魔力も、ほんの僅かしか感じ取れなかった」
と、ブライトは言うと息を吐いた。
核心を突いてくるし、もう私だって言えば良いのに。私はどう返そうか迷うけれど、二人きりになりたいといった時点で……いや、あっちもなりたいといってきた時点で詰んでいたのかも知れない。いったとして……もし、好感度が下がったらどうしよう。
「ステラ嬢。あの時、僕達を助けてくれたのは、ステラ嬢で間違いないですね」
「……はい。そうです。ブライト様の目はやっぱりごまかせませんね」
「何故ですか……それに、フィーバス卿の養子になったのも」
「何か勘違いしているようですが、別に何も企てていません。私を始めに拾ってくれたのは、フィーバス卿ではなく、アルベド・レイ公爵子息様だったという話です」
「……っ」
「聞きたいなら、質問どうぞ。でも、その代り私の質問にも答えて下さいね?」
私はそういって、作り笑みを浮べてみた。