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カウンターから店を留守にする時の張り紙を取り出して入口に掛けていた。『御用の方は下記連絡先へお電話、もしくは隣の大吉酒場までお越しください』と記載してある。金さんは自由だ。この商売のスタイル、大丈夫なのかな。
連れだって大吉へ行くと、すでに定位置に航大さんが座っていた。
――早速ですから、試しにカメラを使ってみましょう。
金さんが私に耳打ちした。
あ、そっか!
RPGの基本は『装備をする』だね。装備しなきゃせっかく道具を持っていても使用できずに意味がない。
私は早速教えてもらったとおり、スマートウォッチを装備してボタンを押した。これで回しっぱなし・撮りっぱなし、約40時間は電池が持つ限り動画音声が撮れるみたい。よし。これで建真のモラハラ具合を録るぞ!!
その他装備品:カメラ付きスマートウォッチ
私(勇者ノリミ)のステータスが変わった。人や仲間に話しかけてイベント発動前に装備するのはRPGのセオリー。
「紀美さん、連日お呼び立ててしまい申し訳ございません。実はお伝えしたいことがありまして」
「はい、なんでしょうか」
「この方、紀美さんのご主人ですよね?」
航大さんが懐からなにやら出してきた。それは建真の名刺。そしてどこかの会社で撮影された画像。それが航大さんのスマートフォンに読みだされていた。
映っているのは確かに建真だ。
「航大さんのおっしゃる通り、うちの主人です。五代建真で間違いありません」
なんで航大さんのスマホに建真が映っているんだろう?
「実は今日、ご主人にお会いしました。うちの社内で」
「エッ!!??」
どーいうこと!?
「なになに~面白そうな話じゃな~い」
北都さんがおしぼりをもってきてくれた。「飲み物、なににする?」
「あ…今日はお茶にしておきます。残金が900円しかないので、すぐ帰ります」
「紀美さん。一杯くらいお付き合いくださいよ。僕がおごりますから」
「いやそんな…申しわけない――」
「えーめちゃくちゃ嬉しいですね! 紀美さん、ここは航大さんにおごってもらいましょう! 俺は生大!」
「金ちゃんにおごるなんてコウは言ってないし。自分で払いな」
姉さん口調になっている北都さんは、金さんにだけ厳しい。
それを聞いていた無口ないかつい容姿の坊主頭のマスターが、早速ビールの大ジョッキを持ってきて、伝票ごと金さんの前に置いて行ったから噴き出した。
マスター、いい仕事するぅ!
彼は無口で見た目は怖そうだけれど、話すと優しい人だった。
「くそ…航大君が払ってくれると思ったから生大を頼んだのに!!」
金さんはぶちぶち文句を言っている。さすがステータスの性格:がめつい、だわ。『復讐クエスト』のゲームネタにしよう。
「金ちゃんはお金いっぱいあるでしょ~? ため込まずに使いなよ。うちなんか安い店だよ?」
確かに北都さんのお店は良心的だ。ドリンクも500円以下が多いし、飲み放題や食べ放題プランも他の店よりずっと安い。
「お金が減ると言うことは、すなわち神経がすり減るということだ」
「そうは言っても、守銭奴すぎると身を滅ぼすから。ほどほどにしておきなよ、金ちゃん」
ふん、と金さんは鼻を鳴らした。「北都に説教される日が来るとはな」
どうも二人は仲がいいのか悪いのかわからない節がある。
「あの~…紀美さんと話を続けてもいいでしょうか?」おずおずと航大さんが言った。「今日、紀美さんの旦那さんに会ったのは、彼が僕の会社に営業へ来たからなのです」