テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
影猫パーカー@最低週1投稿目標
64
第七話〜刃を磨け〜
「この人数だ。誰かがまとめ役にならなければ当然成り立たない。誰がこの国の王になる?」
コウルはいつにも増して冷静であった。
「下っ端一人の意見だが……俺はリョウがいいと思う。あいつの知恵と指示は本物だ。 現に、神憑の熊を倒した実績もある。サカさん、あんたはどう思う?」
ヤソガはでしゃばらないように注意しながら、しかし確かな熱を込めて声を発する。
「私は一人の老人として暮らそうと思う。異論はない、皆はどうだ」
サカの静かな言葉が呼び水となった。
各村の民たちが、泥に塗れた膝を次々と地面につき、リョウを見上げた。その瞳には、期待の光が宿っている。
「決まりだな」と、コウルが告げた。
「待てよ、僕は…….!」
リョウが困惑し、後退りしようとする。
しかし、ヤソガがその背中を力強く支え、フウゴとハクトが静かに頷いた。
三つの村の絶望を背負い、「国」を口にした男が、いまさらただの旅人に戻ることなど許されない。
「頼む。この混沌を、俺たちを、お前が導いてくれ」
若頭が差し出したのは、武村の長が身につけていたという、渡来人の作った赤い首飾り。
それがリョウの首にかけられた瞬間、誰も見たことのない巨大な共同体、大和の初代王が誕生した。
立ち止まっている時間はなかった。
「あいつらが、武村の壊滅を確認しに戻ってくるか、他の村を襲う前に…..こちらから仕掛ける。そのためにはここにいち早く拠点を作ろう!」
コウルの冷徹な進言により、大和は即座に動き出した。
ーそれからのことー
「そっちの丸太、もっと深く埋めてください! 根元を石で固めないと倒されてしまいます!」
焼け焦げた大地に、タカの声が響き渡る。
黄稲村の若手だったタカは、短弓を背負ったまま、禍日村の屈強な男たちを怒鳴りつけ、巨木を立ち上げるロープを自ら力強く引っ張った。
それに応じるように、武村のものを率いるコウルが、大粒の汗を拭いながら指示を飛ばす。
「武村のものは力仕事に回れ!
職人が地面に打った杭の通りに、丸太を並べるんだ、隙間なく組めばそう簡単には破られない!ついでに堀も作るぞ」
ただ丸太を突き立てるだけの従来の囲いとは違う。木々を精巧に噛み合わせた強固な防壁。
バラバラだった三つの村の人間が、タカの圧倒的な現場の熱量と、コウルの正確な技術的指示によって、見事な歯車となって動かされていく。
わずか数日のうちに、村の周囲をぐるりと囲む頑強な木壁とその外側の堀が完成する。
稲作は時間が足りないため、食料は果実を採取し、シカや猪狩りをすることで賄った。
その夜。
新設された粗末な大幕の中、大和の首脳陣が集結し、即席の軍議が開かれていた。パチパチと爆ぜる中央の焚き火を囲むのは、リョウ、コウル、武村の若頭オロシカ、隠居したサカ、そして禍日村の副村長である巨漢バオウだ。
コウルが地面の泥に石槍の先で、武村の残党から得た地形をなぞる。
「奴らの根城は、ここから1つ山を越えた、植物の生えぬ岩山だ。大和とそう距離は離れていないから、もはや我々の存在はバレていると考えていい。 奇襲は望めない。 岩山は要塞化されているだろうし、 力任せに突っ込めば、上から狙い撃ちにされる」
「ハッ、関係ねえ!」バオウが太い腕を組み、鼻を鳴らした。
「禍日の戦士を舐めるなよ。あんな小汚い人間どもは、俺の斧で一人残らず叩き潰す。正面から攻めればいい! 」
「まともに思考できないならここを去れ、迷惑だ」オロシカが低く、冷ややかな声を漏らした。その目の中には怒りの炎が灯っている。
「武村は奴らの奇襲で灰にされたんだぞ!
それも一夜でだ。どんなに惨めであったか。
精密な射撃と統率……一筋縄ではいかない!」
「なんだと?!おい腰抜け、てめえ俺に殺されたいのか?」
ーーパァンン!!
重みのある破裂音が幕舎の空気を震わせ、男たちの怒号をまたたく間に吸い込んでいく。
サカが静かに目を閉じたまま言った。
「皆静かに。リョウ、大和の王よ。お前はどう動く。皆、お前の言葉を待っている」
オロシカの燃えるような瞳も、バオウの不満げな視線も、コウルの冷徹な目も、すべてがリョウを「王」として見つめている。
大和の重みが、リョウにのしかかる。
(……いやいや、もう逃げ出したいよ!
買い被りすぎだって!今更やめますとか
だめかな?ありかな。ねえ助けてーー )
心臓が嫌な音を立てて跳ねる。人面熊を仕留めたのは完全なまぐれだし、技術ならコウルやタカだって知ってる。元の世界じゃただの一般常識に過ぎない。だが、いまさら「やっぱりやめます」なんて言える空気ではなかった。言えば、大和は一瞬で空中分解する。
リョウはごくりと唾を飲み込み、地面にかかれた地図を見つめた。
敵の拠点は岩山。要塞化されており、正面突破は自殺行為。
(戦国時代ではどうしてたっけ。要塞を攻める時の鉄則は?水攻め?いや、標高が高すぎる。じゃあ兵糧攻め? いやいや、こっちにそんな時間の猶予はない。なら、敵を引っ張り出して罠に嵌めればいいのか)
リョウはゆっくり息を吸い込む。
「僕たちがやるべきなのは、岩山を攻めることじゃない。岩山の敵を誘い出して罠に嵌めるんだ」
コウルの目が何かを感じ取ったように大きく見開く。
「奴らははよく敵の観察をする。怪しい動きを事前に見られていたら、まず岩山から出てこない。だから、負けたふりをして罠まで誘い出すのはどうだ?」
「なるほど。落とし穴に敵を落とし、上から弓で一斉に射る。さらに、そこに枯れ木を仕込んでおけば、火を放って一網打尽にできる」なるほど」サカが感銘を受けたように細い目を見開いた。
「向こうから首を差し出しに来るってわけか。悪くねえ」 バオウが獰猛な笑みを浮かべ、巨大な斧の柄をトントンと叩く。
オロシカも満足そうに頷く。「名案かと!あとは実行あるのみ」
リョウは内心、助かったと大きく胸をなでおろした。
「みんな、力を貸してくれてありがとう。大和の、最初の戦いだ。さっそく作戦を皆に知らせてくる。決行は明日の早朝だ」
大幕の外に出ると、夜の冷気の中に、静まり返った闇が広がっていた。
しかし、その静寂の奥から、シャリ……シャリ……という冷たい音が絶え間なく聞こえてくる。
焚き火の微かな赤光に照らされ、何百もの大和の兵たちが、黙々と座り込んで石剣や槍を研いでいた。
暗闇に響くのは、害虫を駆除するための、復讐の刃を磨く音だけだった。
コメント
2件
第7話、めっちゃよかったわ!リョウが王に押し上げられる流れ、内心のパニックとのギャップがたまらん。コウルとタカのリーダーシップで拠点が一気に整ってく描写も熱い。作戦も「負けたふりして誘い出す」っていう現実的な知恵で、脳筋じゃないのがいい。ラストの、暗闇で黙々と刃を研ぐ音—あれで一気に臨戦ムードになった。次が待ち遠しい🔥