テラーノベル
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西端の町、グイトゥという町の事である。
見るからに若い男女の集団が、並んで押し合いながら大きな建物の中に吸い込まれる様に走り込んで行く。
ガヤガヤと賑やかで普段と変わらないであろう風景に溶け込む様に、一人の青年も又、若者たちの後を追って目前の建物、校舎の中へと歩を進めている姿が見える。
校舎に入った若者、生徒たちは足早に各々の教室へと向かい、自分の席へと腰を下ろして今日の授業の準備をし始めている。
皆、揃って緊張を浮かべた表情で今日の授業を待っている様だ。
この場所の名は、『魔術師修練所』、判り易く言えば魔術師になろうとする者達が集う場所、皆さんに馴染み深い言葉で言えば学校、つまり学び舎である。
次代を担う魔術師足らんと願う優秀な者達が術と強さを競い合い、互いを更なる高みへと至らせる場所、それがここ、修練所であった。
とは言え、ここ修練所の歴史は浅い。
ほんの四年に過ぎないのである。
この世界には、ここ数千年の間、魔術師や獣奴(じゅうど)、闘竜に教育を施す施設、機関の類は存在してこなかった。
闘技や戦術、鍛錬は師匠である魔術師のスリーマンセルが口伝によって伝えるべきである、それが少しだけ前のこの時代の常識であり唯一の手段であったからだ。
世界の認識が大きな変革を受け入れる切欠(きっかけ)は、悲劇的な七年前の大事件が端緒(たんしょ)となった。
七年前、世界中を震撼させる、とは言っても、皆さんから言えば、ユーラシア大陸の北部から中西部に掛かる範囲に過ぎないのだが、この時代の知恵と力ある者達にとっての大事件が起きてしまった。
それは、当時、歴史上最強の呼び声の高かった数人の魔術師達が、自慢の獣奴、闘竜と共に世界から消えてしまった、そんなショックな出来事に端を発したのである。
塩湖の魔術師バウロと平原の魔術師クラン、それに南の魔術師テムリ、湖沼(こしょう)の魔術師ソラン、それに西の魔術師のフランチェスカ、彼女の夫であり歴代最強と呼ばれた北の魔術師、『魔王』とまで称された大魔術師、かのバストロまでも、ハタンガの除染作業に赴いたまま、帰らぬ人となってしまった、所謂(いわゆる)、『嘆きの日』である。
有力な魔術師を失った世界で、残された実力者たちは、互いに抱いていた拘(こだわ)りやわだかまりを捨てて、共同で世界を守ることを選択したのである。
ユーカーキラー、アキザーキラー、タンバーキラーの融通や、タリスマンとアミュレットを大量に製造するためにそれぞれの得意分野で分業する事で効率化、合理化を図る事に移行して行ったのだ。
その試みが幸運にも成功した事により、更なる効率を求めて三年後に産み出された仕組みが、この場所、『魔術師修練所』なのであった。
当初、仕方無さそうな顔をしながら、屈託を堪え捲って集まった各地の魔術を引き継ぐ者達は揃って唸りを上げた。
今まで関わる事無かった他地域の魔術や秘伝の技に、これまでに自分達が知ろうともしなかった合理性や、論理的帰結を感じてしまったからである。
彼らは躊躇する事無く自分にのみ伝えられた秘伝やコツを周囲に披露し合ってお互いに高め合う道を選んだのである。
こうして『魔術師修練所』で次代の魔術師に教えられる技術や鍛錬法は徐々に時代が経る毎に画一化されて行き、今も尚、更なる効率を求めて研究が続けられる事となったのである。
因みに、周辺の魔術師や野良の野獣とも積極的に関わる事でその名を上げた今は無き『魔王』、彼の名を冠したこの修練所の名称は、『聖バストロ学院』、そう名付けられている。
就学期間は基本的に四年間だ。
各地の魔術師、獣奴、闘竜やそれらに準じる者達の推薦が入学の条件であったが、ごく稀にではあるが、自ら志願した者の編入試験も受け入れている様である。
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