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Never, Forever

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Never, Forever

2 - 待ちあわせ#1〈Blue×Yellow〉

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2023年02月24日

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Side 黄


そっと、ドアを開ける。入った空間も静かだ。

窓から柔らかな陽光が降り注ぎ、室内を明るく照らしている。

外には中庭があり、桜の木が植えられている。でもまだ満開には少し時間がかかる。

一人分の居室としてはいささか広すぎる部屋には、一つのベッド、そこに横たわる人間を生かすための装置が並んでいる。

点滴や心電図、酸素投与の機械……分かるのはそれくらいだ。

「樹」

そのベッドに向かって、声を掛ける。すぐに返事が来なくなったのはいつからだろうか。

顔をのぞき込むと、目を閉じている。でも息をしているのが、緑色のマスクが曇るのでわかる。

「樹」

耳元でもう一度呼ぶと、ゆっくりまぶたを開けた。

「……こーち」

痩せた頬で微笑する。そうだよ、とうなずいた。

荷物を置き、丸椅子を取り出して座る。

今日の体調はどうかと気になったが、もう問われるのも嫌だろうと思い黙っておく。

樹の場合、酸素ボンベの流量がそれを物語っている。今は、少し多い。

「……あのね」

うん、と向き直る。「どうした」

「…窓、開けてほしい…」

わかった、と立ち上がる。

中庭に面した窓を開けると、人々の笑声が聞こえてくる。もしかしたらそれが耳に入るのは辛いかな、と思ったが樹は言った。

「気持ちいい…」

その穏やかな表情を見て、安心した。

「寒くない?」

まだ少し風は冷たい。樹は小さくうなずいた。

「…桜、まだ?」

ベッドの上からだと見えないのだろう。後ろを振り返り、

「まだかな。つぼみがね、だんだん膨らんでる」

「そっか。…俺、満開のときに見れるかな」

急に飛び出てきた現実的な言葉に、身を固くする。

樹の身体をむしばむ腫瘍という名の病魔は、確実に彼の時間を奪っていった。

もはや限界には近い。いや、とっくに限界なんて超えてしまっているのかもしれない。

それでも精一杯の希望を込めて、

「一緒に見ようね、桜」

うん、と笑ったが、次の瞬間には咳き込んでいる。苦しそうに胸をつかむ樹の手に、自分の手のひらを重ねる。

エールの言葉よりも、そばにいるという温かみのほうが特効薬になるのを、俺は知っている。

だから今日も、自分の温かさを樹に届けたい。

いつかいらなくなる日まで。


続く

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