人様の家のお風呂だというのに、のんびりとくつろげてしまう自分の神経の図太さに呆れつつも、『慣れって怖いなぁ』と思いながら手足を伸ばす。芯から冷えた体にお湯の温かさがじんわりと染み込む感じがとても心地いい。
ぼけーっとお湯に浸かっていると、風呂場の扉がガラッと開き、全裸の清一が入ってきた。
「んお⁈」
(お前も入るのか⁈俺が出るまで、少しくらい待てなかったのかよ!)
そうは思うも、ここは清一の家で。風呂を借りいてるだけの身では言葉には出せなかった。
清一が室内にある白いバスチェアに座り、頭からシャワーを浴びる。ザックリと体を洗ったかと思うと、一般家庭向けの広さしかない浴槽だっていうのに、図体のデカイ清一が「充、ちょっとこっちにずれて」と言いながらお湯の中へ入ってきた。
「は⁈待て!狭いだろ!」
「入れなくはない」
「いやいやいや!」
俺の否定する言葉を全く聞く事無く、清一が俺の背中側に無理矢理入ってきて、大量のお湯が浴槽から流れ出てしまった。配置のせいか背後から俺の体を抱き込み、清一が肩に顎を乗せ、腰に腕を回してがっちりと抱きついてくる。狭い中でのスペース節約というよりは、触れ方的に、ただ抱きつきたいからやっているって感じだ。
「…… 今日は、待っていてくれなかったんだな」
「圭吾達から聞いてないのか?」
がっかりした声で問われ、少し驚いた。『清一には言っておく』と圭吾は話していたのに、どういう事だ?
「『急用が出来て先に帰った』って聞いて、充のスマホに連絡したり、家に行ったりしたのに全然連絡つかないし、桜庭のおばさんも行き先は知らないって言うしで…… すごく焦った」
俺の腰に抱きつく清一の腕に力が入る。
「約束はしてなかっただろう?なら、俺が先に帰っていても平気じゃん」
「充は、いつも俺に連絡してから行動する」
「…… そうだったか?」
「そうだよ。先に帰るなら『帰る』って入れるし、用事が出来たなら出来たで教えてくれるし、それが無理でも、俺が電話をしたら出てくれる。…… でも、今日はソレが全部無かった」
己の事だというのに、自分がそんなにマメだったとは思わなかった。
家が隣な割にはこまめに連絡している事は確かに多かった自覚があったが、そこまでだったか。こりゃやり過ぎだな。彼女じゃあるまいし、今度から気を付けよう。
「今度からちょっと控えるわ」
「何でそっちになる⁈」
清一に驚かれたが、その事にこそ驚いてしまう。
「いや、だって…… ウザいだろ、明らかに」
「んなわけ無い。むしろ、無いと不安になる」
「何でだよ。…… 変な奴」
親友とは思えぬ距離感を引き続き要求され、思わず俺がクスクス笑うと、清一の方からもちょっと楽しそうな声が聞こえてきた。清一の不安が解消出来たのなら、正直すんげぇ嬉しい。
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