「…… おい」
「んー?」
嬉しいなとか思った矢先、背後に先程までは当たっていなかった異物が当たり始めた。
「お前…… 勃ってね?」
「全裸の充を前にしてるからな。まぁ、当然の流れだろう?」
「いや待て。全裸の男なんか見たって、勃たんだろ!」
俺みたいな元ぽっちゃりの、筋肉も足らんのっぺりした体を見て、どこにそうなる要素がある?清一の引き締まった、筋肉質の体ならば話は別……
(——おい待て、別か⁈んな訳っ!…… んな、わけが…… )
「…… いいや、充はとっても魅力的なスタイルをしているよ。…… 美味しいしそうだ」
つうぅ…… っと、うなじを舐められ、ぞくっと背中に電気が走った。
(まさか、こんな場所でまでスル気なのか?そりゃマズイだろ!)
「き、清一…… 俺、体洗いたいっ」
気を逸らす為、俺が慌てて風呂の中から立ち上がり、縁に手をつく。そんな俺の動作を目で追っていた清一が「…… 眼福だな」と呟いた一言は、スルーする事にした。
そそくさと洗い場に出てバスチェアに座る。顔や髪を洗い始めたのだが、ずっとその間視線を感じ続け、居た堪れない気持ちになった。
(どうしてこうも清一は俺の一挙手一投足をじっと見てくる⁈何が楽しいってんだよ)
ボディタオルを手に取り、ボディソープをそれに出して泡立てる。清一からよく香る柑橘系の匂いにちょっと口元が緩んだ。
さて洗おうかとボディタオルを肌に当てようとした時、清一が湯船から立ち上がって、おもむろに俺の背後へと立った。
「洗うの手伝うよ、貸して」
「え?いや、自分でできるよ、子供じゃあるまいし」
断ったのに、手からボディタオルを取られて背中を擦られる。自分でやる時よりもかなり優しくて、ちょっとくすぐったい。
「最長筋…… 僧帽筋…… 背広筋…… 」
「…… おい」
「脊柱起立…… 筋…… 」
ボソボソと背後で呟き、背中を洗われる。どこの部位を言ってんだかわからんが、筋肉の事を言っているのだろう。だが、今何故ソレを言う⁈
「おい!」
「なんだ?」
「さっきからブツブツと何言ってんだ?お前」
「…… 何か言ってたか?」
「脊柱がどうとか、背広筋がなんだとか」
「…… あぁ、落ちつこうかと思って」
「そういう時って、素数とか数えないか?」
「んなもん数えて楽しいか?」
疑問に疑問で返され、返答に困った。
(いや、確かに素数を数えたからって楽しいとは思わんが、だからって筋肉の部位名とか言ったからって落ち着くもんか?そっちの方がオカシイだろ)
「まぁ…… 楽しくは無いかもだけど、筋肉よかは落ち着くんじゃね?」
「俺達はどっちも理系じゃ無いから、よくわからんな」
「あぁ、そうな」
そう言いながら、どちらからともなく笑い出す。一通り笑って満足すると、ギュッと清一が俺の体を抱き締めてきた。
「…… 充と居ると、ホント楽しいや」
「改まってどうしたんだよ」
「お前以外と話してると…… ちょっと疲れるんだ。圭吾と琉成は…… まぁ、流石に別だけどな、友達だし」
(放課後は清一も呼び出されていたし、また告白をされて疲れたんだろうな)
そう察した俺は、抱き着く清一の腕にそっと手を置き、『お疲れ様』の意を込めてポンポンと軽く叩いた。
「…… 充」
熱っぽい声が背後に聞こえ、心が騒ついた。何でコイツはこうも、どう受け止めていいか反応に困る事を俺にしてくるんだ?
泡のついた手で俺を頰に触れ、清一の顔が近づいてくる。
いくら端正な顔立ちだとはいえ、男の顔が迫ってきているってのに拒否するどころか自分から瞼を閉じてしまう。松島さんには、触れられるだけでも違和感を覚えたっていうのに、この差は…… 一体なんなんだ。
『慣れた』
——そんな言葉で片付ける程単純では無い気がするのに、既の所で答えが掴めない。
「ん…… っ」
互いの唇が重なり、薄く開いた隙間から舌が侵入してくる。控えめに、こちらの反応を伺いながら清一が俺の舌先を舐めてきた。最初のキスとは違い、苦味は無いせいで、つい自分からも舌を突き出し求めてしまう。
(気持ちいい…… 。キスって、誰としようがこんなに気持ちがいいものなんだろうか)
「んあっ」
泡のついた清一の手が俺の肌の上を滑っていく。背中を撫で、二の腕をなぞり、手が前へと向かってきた。胸の先を指先が掠めた時、艶っぽい声が口から出て浴室内に響く。
「あぁ、ホント食べちゃいたいな」
うっとりした顔で清一がより深く舌を絡めてきた。互いの息が乱れ、体を撫でる清一の手つきが乱暴になる。
「充…… みつ…… 」
口付けの合間合間に俺の名前を呼び、清一の手が下腹部に伸びてくる。興奮によりとっくに勃起していたモノを清一の大きな手で掴まれ、俺は意図的に脚を少し開いてしまった。
掴みやすくなったからか、清一の動きが大胆になっていく。強弱をつけた巧みな扱きに腰が浮いた。
「きよ…… だ、ダメだ。出る…… やめっ」
熱い吐息をこぼし、後ろから伸びる清一の腕にしがみ付く。必死に、達してしまいそうになるのを耐えようとするが、そんなの出来そうに無い。
「出していいよ。見たいな、こんな明るい所で…… 充がいやらしい顔をして、イッちゃうところ」
興奮した清一が俺の耳元で囁き、耳を甘噛みする。
「や、やだ…… 恥ずかしいだろ!こ、こんな…… うあぁっ!」
切っ先を指で撫でられ、背中が反れた。零れ出る蜜が泡に混じり、清一が嬉しそうに口元を綻ばせた。
「——だ、充…… 」
小声で何かを言ったみたいだが、聞き取れない。
頭の中は真っ白で、音が入ってきても頭で処理出来る気がしなかった。自慰とは違い、無理矢理追い立てられる感じがたまらなく気持ちいい。この快楽の深さは他の何にも変えられぬものがあり、男同士で、しかも親友相手だというのに逃げ出す気になれない。この行為が意図的なものであり、俺をはめた罠だというのなら、清一はかなりの策士だといえよう。
「い…… いくっ…… んあぁぁ!」
嬌声をあげ、自身の怒張する陰茎部が質量を増す。勢いよく白濁液が噴き出し、浴室内の壁と清一の手を汚してしまった。
「そんなに気持ち良かったのか?すごいな…… 顔も、ココも、すっかりトロトロだ…… 」
達したばかりのモノを愛おしげに撫で、嬉しそうに清一が俺の唇にキスをしてくる。チュッ、チュッと繰り返し、小鳥が啄ばむような口付けはまるで事後の恋人同士みたいだ。
「くすぐったいよ」
漂う甘い雰囲気に、つい呑まれてしまう。
(あぁ…… いいな。なんて言っていいのかわからないけど、この感じは何か…… すごくいい)
全裸同士だなんて状況を忘れ、体を清一の方へと向ける。向かい合う清一の額に額をつけ、瞼を閉じて微笑むと、奴も微笑んでくれたのが雰囲気でわかった。
「清一は…… いいのか?」
チラッと下腹部に視線をやると、相変わらず嫉妬するレベルのモノを力強く勃起させたままの清一が、苦笑いを浮かべた。
「充もしてくれるのか?」
「…… んー。手…… なら?まぁ、素股でもいいけど」
お互いに、用具室での一件以来ちょっと味を占めてしまっている素股を軽く提案してみる。陰部にモノがグジュグジュと擦れ、且つ最近じゃ清一が俺の陰茎部を手で扱いて刺激してくれるから二重に気持ちいい。
「じゃあお言葉に甘えて、後者にしようかな」
俺の側に膝をついて座っていた清一が立ち上がり、丁寧な所作で俺が立つのを手伝ってくれる。壁に両手をつき、少しだけ後ろを振り返ると、清一がボディソープを手に取って軽く泡立て、それを滾る陰茎に纏わせているのが見えた。その途端に ゾクッと体が震える。
(…… アレで、前立腺とやらを擦ったらどうなるんだろう?)
——何て考えて、俺は即座に首を横に振った。無理だ、あのサイズは入らない。…… でも、ちゃんと慣らしてからなら?ってぇぇぇ、違う違う違う!
脳内で葛藤する俺を気にする事なく、清一が俺のお尻を撫でてきた。荒い息遣いで、双丘を両手で揉み、親指が何度も蕾を撫でてくる。ソコへ挿れたいが為に慣らしているというよりは、必死に我慢している感じだ。
ギュッと一度だけ瞼を強く閉じ、気持ちを整えたのか、清一が蕾のあたりから指を離して俺の腰を持ち上げた。
「うわ!ちょっ下ろせって!」
足が浮き、不安定なせいで心許ない。今の体重は平均並みに落としたとはいえ、男の体をこうも容易く持ち上げられるとは驚きを隠せなかった。
「こっちの方が楽なんだよ」
太腿の間に清一の怒張した陰茎部が入り、ボディソープの助けを借りて遠慮なしに擦りつけてくる。必死に快楽を求める清一を横目に見ていると、持ち上げられているせいで怖いとかよりも、『くっそ、コイツ可愛いな!』と思う気持ちの方が強くなった。
「くっ…… あぁ…… 」
短い声をあげ、清一が痴態に耽る。貪欲に俺の体を貪り、擦れる刺激に俺のモノも元気を取り戻した。持ち上げられている状態のせいで自身の陰茎を扱く事は出来ないが、それでも充分気持ちがいい。
壁に縋り付き、嬌声を堪える。胸の尖りが冷たい壁でたまに擦れ、腰が騒ついた。
清一が俺の頭に顔を埋め、「…… 気持ちいい。充、——だ、みつる」と呟く声は、時々掠れて聞き取れない。
段々と動きが早まっていき、清一が俺の腰を掴む手に力が入った。
「みつ…… るっ」
脚の間で奴の陰茎部が膨らみ、清一のモノが弾けて白濁液が飛び散った。一、二度跳ね、残留分を全て出し切ると、雑な呼吸のまま俺を風呂場の床に下ろしてくれた。足裏がやっと下についた事でほっとし、ゆっくりと息を吐き出す。
「ごめん…… 俺だけなんて」
「違うだろ?順番だっただけだって」
深呼吸して気持ちを落ち着ける。早くこの意気軒昂なモノをどうにかしないと。
「また、してやろうか?」
ギュッと俺を抱き締めて、清一に指先で陰茎部を軽く弾かれた。
「んあ!」
突然の刺激に声があがる。でもこれ以上ここでこのまま二回戦は流石に勘弁して欲しい。
「…… ベッドに行こうか、充」
照れ臭さから俺が控えめに頷くと、清一がシャワーに手を伸ばし、互いの泡を流していく。その様子をじっと眺めていると、嬉しそうに微笑みながら清一が俺の頰にキスをしてきた。
(ちょっとくすぐったいけど、なんかいいな…… こういうの)
俺は頰を緩めると、顔を上げて清一の顔をじっと見詰めた。
「清一」
「ん?」
「『…… お願いだから、ある女性と付き合って欲しい』って、俺が頼んだら、お前はどうする?」
「——え?」
清一の動きが止まり、顔から表情が消える。
そんな顔を見て、希望通りだった反応に対し、俺は口元を綻ばせたのだった。
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