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「これ、タマ!起きなさい!」
ペシッと、小さな音がする。
「ああっ!守恵子《もりえこ》!いくらなんでも、鯨尺《ものさし》で、タマを叩くのは、良くないぞ!」
「でも、兄上!タマったら、起きないんですもの!私、気が付いたのです。これでは、そもそもの役目を果たせてませんでしょ!」
……確かに。と、守満《もりみつ》は、思う。
タマです。お守りします。などと、若人の姿になり、そして、結局、子犬に戻り、眠ってしまった僕《しもべ》は、何の役目で、ここに、いるのだろう。
「言われてみれば、そうです。しかし、寝込みを襲うのは、良くないと、思います!」
守恵子に、額を、ペシッとやられた子犬は、目を覚まし、抗議の言葉を口にした。
「あら、タマ、起きたのね?ごめんなさいね、守恵子が、無茶をして」
「わーん!お方様!ひどいですよねー!」
子犬は、嬉しそうに、徳子《なりこ》へ、駆け寄ると、その膝に飛び乗った。
「それで、タマ?もう、若人には、姿を変えないの?」
「うーん、どうしようかなあー、結構、あれ、窮屈なんです。それに、また、守恵子様の、稽古があったら、タマ、疲れてしまうし」
くうーん、と、徳子に甘える子犬に、守満と守恵子は、揃って、睨んだ。
「おい!タマ!お前、この状況がわかってるのか?!」
「そうですよ!何が、お守りします!ですかっ!何が、どーしよーかなあ、ですか!」
屋敷が、狙われているというのに、と、守満、守恵子は、タマを叱咤する。
皆があつまっている北の対屋《ついや》は、奥に備わるだけに、守りが手薄になりやすい。そして、女人の城である場所柄、元々、男手が無い所なのだ。
「つまり、だな、守る為には、人手不足なんだ!」
「かといって、場所を移すというのも、詰める女房達を、見捨てることになります!そのような、ことはできません!」
「まあまあ、守満も、守恵子も、落ちつきなさい。鬼の形相で、子犬を諭してどうする?」
守近が、クスクス笑っていた。
「そもそも、何が、原因だったかねぇ、どうして、タマを起こしていたのか?あれ?」
「あれ?じゃ、ないでしょう!父上!タマの太刀を私が、拝借して、皆をお守り致します、と、いうところから、でしょ!さすれば、タマに、借用の許可を取った方が、良いなどと、有らぬ方向へ、話が流れて!」
「えー!タマの太刀を勝手に、使うつもりだったのですか!守満様!」
「ほらー、だから父は、タマの許可をと、言ったのだよ。子犬が、すねてしまったぞ」
「守近様!タマは、子犬じゃありません!犬です!」
おや、これはまた、すまぬ、すまぬ、と、守近は、タマの頭を撫でて、機嫌をとり始める。
「ね、兄上、結局、これしかないのです!」
守恵子が、鯨尺を握りしめた。
「いや、守恵子、お前、それで、どう賊と、対抗しろと……」
常春《つねはる》よ、何処へ行った!早く戻って来てくれ!
守満は、一人では、手に終えないと、心の中で、叫んだ。
「もおー、兄妹《きょうだい》喧嘩は、ダメなんですよ!仕方ないですねー!タマが、猫をお呼びしますっ!」
言うと、タマは、徳子の膝から飛び降りて、縁へ向かって走り出した。
「守近様?なんでしょう?猫を、なぜ、犬が、呼ぶのですか?」
「さあ?私は、犬ではないので、犬の、考えは、分かり兼ねますが……」
「こうゆうときは、人手の為に、猫を、呼ぶのでしょ?」
タマは、答える。
皆は、訳がわからぬと、首を傾げ、ワオーーーンと、吠える、タマを見た。
「猫、呼びました。すぐ、来ますよ!」
と……彼方から、ニャーニャー、猫の鳴き声がする。
そして、わらわらと、猫が、集まって来た。