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結構闇(病み)描写あり
「いらっしゃいませ~」
スーパーマーケット。
今日も深澤はレジに立ち”いつも通り”の笑顔で接客をしていた。
相手が誰であろうと、”変わらない”笑顔で。
口角は常に上げて、声のトーンは少し高めに弾ませて、適度な相槌、相手に関係してること、過去に話していたことにもしっかり触れて。
「ありがとうございました~」
今日も立っている。
「いらっしゃいませー」
そこに、岩本が来る。
(もう、お昼か…)
岩本が来るのは昼休憩の間。
深澤はレジに4時間立ちっぱなしだったことを思い出す。
「…お願いします。」
相変わらず、岩本は無愛想。
だが、それがルール。
「今日もお仕事お疲れ様でーす。聞きましたよ。岩本さんのおかげで助かった…って。」
深澤もあくまで”顔だけ知ってる消防士の岩本”として接する。
「……大丈夫か?」
「…..ぇ….」
手が止まる。
急に、”任務中と同じ岩本”に声をかけられて驚く深澤。
だが、すぐに動き出す。
「大丈夫ですよ?心配していただきありがとーございまーす。」
深澤は、レジ店員として接する。
それを岩本がどう感じたかは分からないが…
「…あんま無理すんなよ。」
とだけ言い残して、店から出た。
「………いらっしゃいませー!」
深澤はすぐに仕事モードに切り替える。
いつも以上に声を張り上げて。
「つか、れた…」
深澤は、1人夜道を歩いていた。
(今日は、いつも以上に疲れた…なんでだろ…?いつもこんな疲れないのに…)
ガチャ
鍵を開けて、荷物を適当に床に投げ、リビングのソファに倒れ込む。
異常なほどの倦怠感。
このまま泥のように眠ってしまいそうだ。
(だるい…身体重い…熱、あんのかな…?)
体温計を取るのも面倒くさい。
ソファから1歩も動けない。
(今日、任務なくて良かったなぁ…)
今日任務があったら行けてただろうか?
恐らく、この体調では…
(いや、ダメだよ…任務あったら行かないと…)
だが、体調不良で休むのは深澤自身が許せない。
任務があったら意地でも行っていた。
ピロンッ
深澤のスマホに着信。
何とか手を伸ばしてスマホを開く。
『ボス』
表示された名前を見て、深澤は疲れなど忘れて家を出た。
「…あれ…?」
深澤は1人暗い廊下に立っていた。
ここまで歩いてきた記憶がない。
なぜここにいるのか…
(そう、か…ボスに呼ばれたんだった…)
頭が少し痛む。
よくここまで歩って来たな、と深澤自身感心する。
そのまま歩き続け、扉の前に立つ。
ガチャ
「っ!」
深澤が扉をノックする前に扉が開く。
「待ってたよ、ふっか。」
普段座ったまま立つことのないフードの男が、自ら立ち上がり深澤を部屋の中に引き入れる。
(何で…ボスが…?)
それにものすごい違和感を覚えた深澤。
部屋に入ることを躊躇ったが、腕を引っ張られ、部屋の中に足を踏み入れる。
部屋に入った途端、意識が朦朧としてくる。
深澤の中の違和感など、とうに消え失せた。
身体に力が入らなくなっていく。
「…ぁ…」
倒れ込みそうになる深澤をゆっくりと抱き寄せる男。
そのまま、いつも通り椅子に座る。
深澤を自分の膝の上に乗せ、赤ん坊をあやすかの様に頭を撫でる。
「んぅ…..」
完全に脱力した深澤は身体全てを男に預ける。
「よしよし…今日はとても疲れてるみたいだね。」
腕の中にすっぽりとおさまる深澤を愛おしそうに見つめながら頭を撫で続ける。
(…きもちぃ….このまんま、きえたいなぁ….)
ぼーっと、微かにある意識の中でそんなことを思う。
「ふっか。頑張りすぎも毒だよ。」
そんな深澤の心を読んでいるのか、男は深澤に甘い言葉をかけ続ける。
「確かに私は君に期待をしているけれど、無理はして欲しくない。」
「頑張りすぎて疲れているふっかを少しでも癒してあげたいんだ。」
「頑張りすぎなくても、私はふっかを見ているよ。」
「…ほん、とに…?」
不安そうに問いかける深澤。
「もちろん。」
すぐにそう答える男。
「”君だけだ”。私の特別がふっか以外になることなんてないよ。」
最後の一言に深澤は安心しきって目を閉じる。
「…よかった….」
深澤が寝息をたて始めたのを確認する。
(しばらく起きることはないね…)
男は深澤の頭を撫で続ける。
(あとはタイミングを見つけてトリガーを引くだけ。)
口の端を釣り上げる。
「もう少しだからね…」
男は腕の中で眠る深澤は愛おしそうに、壊れ物を触るように抱きしめた。
(深澤視点)
いつからだろ…自分が前に出れなくなったのは…
昔から俺は器用だった。
お手本を見ただけで色んなことできたし、細かい作業とかも得意だった。
俺自身もなんでもできるって思ってたし、周りだって俺の事すごいって言って近づいてくるやつも多かった。
俺は人と話すのが好きだし、周りに人が集まってくるのがすんごく楽しかった。
俺ってすげーんだぜって、調子に乗ってたと思う。
自分で言うのもあれだけど、俺は周りに優しくできる人間だったから、そりゃモテてた。
勉強も頑張ればそれなりに点数は取れてたし、運動もできる。
俺は、そんな自分が大好きだった。
なんでもできて、周りから尊敬されて、友達いっぱい、色んな才能がある俺が。
それは能力もおなじ。
俺の能力は式神。
今の時代、式神使いなんてほとんどいない。
数百年前、式神使いの家系があまりの強さに封印されたとか。
それからは1人もいなかった式神使いに俺がなっちゃったってわけ。
だから、俺は裏でもチヤホヤされてた。
それもあったから、余計調子に乗ってた。
俺はとんでもなくすごいやつなんだって思い込んでた。
事件があったのは、確か高校に入った時。
高校でも相変わらず俺は周りにチヤホヤされてた。
俺はなんとなくの思いでバスケ部に入った。
バスケ部ならモテると思ったし、この学校のバスケ部は全国大会出場経験がない。
もしここで俺がチームを全国の景色に連れて行けたら…
そんなことを妄想して入部した。
予想通り、俺はすぐにバスケが上達して、先輩よりも全然上手くなった。
理由は俺が器用って言うのもあるけど、もう1つ。
教えるのがめっちゃくちゃに上手い先輩がいた。
その先輩のお陰でここまで上手くなれたと思う。
ついに、全国大会に進めることが決まった。
やっぱり俺のおかげじゃん!
俺は当たり前にレギュラーに入っていた。
1年でレギュラーなんて他の1、2年から恨まれるかな?って思ってたけど、実際はそんなことなくて、誰も異論なしだった。
俺に、才能があったから…
全国大会が決まって数日経ったとき、俺は3年の先輩に呼び出された。
何かな?って思って行ってみたら、まず最初に胸ぐらを掴まれた。
「う…っ…」
「お前、ふざけんなよ…!!」
急に何?
意味わかんないんだけど…
すぐに頬に痛みが走る。
殴られた?
俺が?
「お前のせいで…!!」
なぜかは分からないけど、先輩達がすごく怒ってる。
何かした?
何もしてないよ。
まだ、この時点では他人事みたいに考えられてた。
でも、次の一言で凍りついた。
「お前がレギュラーに入ったせいで!藤森が全国出れねぇんだよ!!!」
「…え…?」
藤森、先輩が…?
藤森先輩。
俺に熱心にバスケを教えてくれた先輩。
すごい優しくて、バスケに情熱を持ってて、尊敬してる先輩。
藤森先輩がいなかったら、俺はここまでバスケが上手くなってなかった。
ガッ!
胸ぐらから手が離されて、俺は地面に顔をつける。
そこから、立ち上がれない。
先輩達が何か言ってる。
でも、どこか遠くに聞こえる。
(俺のせいで、藤森先輩が全国に出られない?)
(全国大会の主役は3年生だろ?)
(俺が1番見せたかったのは藤森先輩だ。)
(俺、何やってんだ…)
(俺が、俺がいるから、藤森先輩は…!)
(俺が、藤森先輩が立つはずだった舞台を奪った…!!)
結局俺は足を怪我したと嘘をついたから、試合には藤森先輩が出れた。
結果は、第1試合で敗退。
「深澤くん、ごめんね。」
反省会が終わったあと、藤森先輩に謝罪された。
「な、んでですか?」
頭を下げる藤森先輩に戸惑う。
「嘘でしょ?足怪我したなんて…俺を試合に出すために。」
「…っ!」
バレてたんだ。
「深澤くんが出てたら勝ててたんだろうな…俺から監督に言ったんだよ。深澤くんを出してくださいって。」
「そん、な..,」
嘘だ。
藤森先輩がそんなことする必要ない。
藤森先輩に最後までバスケを楽しんで欲しかっただけなのに!
「これからも、頑張ってね。」
藤森先輩はそう言い残して、引退した。
そこから、目立つのが怖くなった。
バスケ部だって辞めた。
いつ俺が誰かが座るはずだった椅子を奪ってしまうか分からない。
俺は前に出てはいけないんだ。
後ろでサポートに徹さないと…
前に出たら、誰かの役割を奪う。
自分の承認欲求なんか捨てろ。
認めて欲しいなんて思うな。
目立つと迷惑になる存在なんだ。
こんな才能誇りに思うな。
こんなん才能じゃない。
目立つのをやめろ…!!
前に出るな….!!!
「ん…」
目が覚めたら、家の前にいた。
(俺、何してたんだっけ…?)
頭がぼーっとして、よく思い出せない。
〖…..カァ…〗
俺の肩の上には、普通の烏の大きさになっている大烏。
心配そうに俺を見ている。
「俺のこと、ここまで連れてきてくれたの?」
〖コク〗
頷く烏。
なんか、悪いことしちゃったな…
「ありがとうね。」
烏の嘴の下を軽く撫でてやる。
烏は気持ちよさそうに目を瞑って、満足すると虚空に消えた。
「今、何時…?」
時間感覚が全くない。
空を見ると夜明け。
AM4:46
「まじか…さみぃ…」
この時間帯の冬は寒い。
そろそろ春なはずなのに、全然寒い。
なんでこんな薄着で外にいるのかも分からない。
とりあえず風邪を引かないようにって思って家に入る。
「鍵、開いてる…?」
鍵が開いてる。
本当に、俺は何してたんだろ?
そういえば、昨日はめちゃくちゃ体調悪かった気するけど…
「まぁ、いいか。」
疲れのせいか分からないけど、頭が全然回らない。
考えるのを諦めて、部屋に戻ってベッドに潜り込む。
(今日は、なんか起きれなそー…)
そのまんま、泥みたいに溶けるように眠りについた。
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