今、何て?
私という彼女……?
浮気……?
あまりに唐突過ぎて、そのワードが全く理解できない。
唖然として立ち尽くす私に、その女性が言った。
「あんた、何で柊といるわけ? 柊は、私の彼氏なんですけど!」
衝撃的な言葉。
テレビのドッキリか何か?
ううん……そんなわけない。
目の前で自分が彼女だと言い張る女性は、かなり興奮しながら続けた。
「柊、ハッキリ言ってよ! 私との結婚をしぶってたのは、この女がいるからなの?」
「結衣、悪い。僕は彼女と結婚するんだ。だから結衣とは結婚できない。でも、君とは今まで通りの関係でいるから、安心して」
え? 柊君?
何を言ってるの?
まるで意味がわからない。
「ちょっと待ってよ! この女とは結婚して、私とは結婚できないってこと? これから先、ずっと愛人ってこと? 嫌だよ、そんなの。私、こんなに柊が好きなんだよ。柊だって、私のこと、好きだっていつも言ってくれてたじゃん……」
頭が真っ白になるって、こういうことなんだ。
柊君のことがわからない。
一瞬にして、私の中のいろんな物が激しい音を立てて崩れてしまった。
ううん、待って……
今、私、夢を見てるの?
それなら、もうすぐ目が覚めて現実に戻れる。
だって柊君と私は……
1週間後に、結婚するんだから――
「結衣。僕は、誰が何と言おうと彼女と結婚するよ。僕は、柚葉が1番好きだから。でも、結衣とも別れたくないんだ。だから、このまま僕の近くにいてほしい」
「は? 頭おかしいんじゃない? 柊がそんな人だなんて思わなかった! 信じられない……もう、2度と会わないから!」
その人は、すごく怒って立ち去った。
当たり前だよね。
こんな理不尽なこと言われて、「はい、わかりました」なんて、そんな物分りのいい人はいないよ。
本当に好きなら怒って当然だよ……ね。
何か、全然わかんないけど……
涙が……
涙が、いっぱい出てきた……よ……
「柊君……。ちょっと……よくわからないんだけど……」
それが、精一杯、私の口から出た言葉。
「泣かないで、柚葉」
柊君は、私の頬に触れようとした。
でも、私はその手を拒否し、避けてしまった。
今まで、涙を拭ってくれる手を振り払うなんて、絶対にしなかったのに。
「ごめん、驚かせたね。結衣とは1年前に知り合って、意気投合して付き合うことになって」
もう、意味がわからない。
上手く聞き返す言葉も見つからない。
「二股ってこと?」
聞くまでもなくそうだろう……
全くバカな質問だ。
「二股じゃないよ。僕が1番好きなのは、紛れもなく柚葉だから。結衣は、ただ、僕が好きな人。2番とか、3番とか、柚葉以外に順番はないんだ。みんな、ただ好きなだけだよ。だから、結婚するのは絶対に柚葉だけ」
「ちょっと待って……女の人は、さっきの人だけじゃないの?」
答えを聞くのも恐ろしい。
目の前の柊君が、今までの柊君とは全く別人のように思える。
「ああ、黙っててごめんね。だけど、あえて話すことでもないかなって思って。僕は柚葉を一生大事にするし、他に女性がいたとしても、君とのことをおろそかにしたりしないから。だから、安心してほしい。本当に、柚葉が1番大切だよ」
この人、おかしい。
これが、本当の柊君の正体なの?
こんな人だったなんて1ミリも思ってなかった。
ずっと騙されてたんだ……私。
でも、この人には罪悪感がない?
だったら騙されたことにならないの?
誰か助けて……
もう、おかしくなりそう。
「柚葉、どうしてずっと泣いてるの? 僕はね、他の女性のことは、名前以外は深く知ろうとしてないんだよ。全てを知りたいのは柚葉だけなんだ。なのにどうして? 僕と結婚したら、君は大金持ちだし、何も不自由はないよ。絶対に守るから」
悪い夢なら早く覚めてほしい……
そんな願いは、叶うはずもなかった。
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