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朝、それは一日の始まり。
カーテンの隙間から差し込む光は眩しく、そして暖かい。
そんな光が今日も俺を深い眠りから解き放つ……って朝から何考えてんだか……。
朝から少し『中二病』要素が入ったポエムをなぜ作ってしまったのかは、よく分からなかったが、両手からフワフワとした髪の感触が伝わってきたのは分かった。
昨日の出来事がほんの一時間前のように感じたのは気のせいであろうか?
まあいい。それよりも早く二人を起こそう。
俺の腹部で寝ているマナミ(茶髪ショートの獣人)とシオリ(白髪ロングの獣人)の頭を撫でながら「おーい、二人とも起きろー」と俺が言うと、二人は俺をギュッと抱きしめた。
俺は無理やり退かそうとしたが、締めつけが強すぎるため、それは不可能だった。
まいったな……。このままじゃ朝ごはんが食べられないぞ……。うーん、どうしたものかな……。
その時、台所から音が聞こえた。ん? 今って、朝の五時くらいだよな? 誰か朝ごはんでも作ってるのかな?
俺は近くにあった小豆色の四角い座布団を素早く取ると、二人の頭に敷いた。(起きる気配なし)
その後、台所付近に行き、誰がいるのかを物陰から確認した。(顔半分と右手の一部以外は相手に見えないようにしている)
すると、そこには……ミノリ(吸血鬼)がいた。
身長が足りない分は椅子(いす)で補い、いつかのピンク色のエプロンを着て朝ごはんを作っていた。(メイド服っぽい服の上からエプロンを着るという発想がすごい)
ミノリの身長がいつもより高くなっているように見えたのは、気のせいだろうか?
いや、違う。あいつが料理をしているところをあまり見たことがないからそう感じるんだ。うん、きっとそうに違いない。
俺はそんなことを考えていたせいでミノリ(吸血鬼)が目の前にやってきたことに気がつかなかった。
「おはよう、ナオト。まだ寝ててもいいわよ」
「…………」
「……ナオト?」
「……………………」
「……ねえ、ナオト。聞いてる?」
「………………………………」
「……ナオトってば!」
その声でようやくミノリが目の前にいることに気づいた俺は、少し驚きつつも返事をした。
「あー、ビックリしたー。なんだ? 何か用か?」
「……おはよう」
「……えっ?」
「お・は・よ・う!!」
「お、おう、おはよう」
俺がそう言うと、ミノリは俺の腹に拳を押し当てた。
「次からは気をつけなさいよ」
「あ、ああ、気をつけるよ。……え、えーっと……その……俺も手伝っていいか?」
「……えっ?」
それが予期せぬ発言だったのかは不明だが、ミノリはキョトンとした顔で俺にそう言った。
「いや、だから……俺も手伝っていいか?」
「……ダメ」
「えっ? なんだって?」
俺が少し俯いているミノリの側に行き、耳を傾けると大きな声でこう言われた。
「それだけは絶対ダメええええええええええええええええええええええ!!」
耳元で叫ばれた俺は耳を抑えながら三歩くらい後ろに下がった。
「そ、そんな大きな声で言わなきゃいけないことか? 鼓膜が破れるかと思ったぞ」
「あんた、あたしが吸血鬼だってこと忘れてない?」
こちらを真剣な眼差しで見つめるミノリの目には明らかに動揺している情けない自分の姿が映っていた。
それを見て、自分はどんな時でも慎重かつ冷静に接しなければならないことを実感した。
「まさか、そんなわけないだろう」
真面目モード・オン。
「そう。なら、訊くけど吸血鬼にとって欠かせないものが何だか分かる?」
「そんなの言うまでもないだろう」
「いいから早く言って!」
いつものミノリなら「そうね」と言って自分から言い出しそうなのに、今回はそれがない。
ミノリと出会って一週間と少し経ったが未だに分からないことは多々ある。
体質や好きな食べ物、経歴などの詳しい内容は一切分かっていない状況で同棲している。
まあ、これから少しずつ知っていくからいいんだけどな。
俺はそんなことを考えた後、ミノリにこう言った。
「つまり、もし仮に俺が包丁で指を切るようなことがあれば、吸血衝動に負けたお前が俺の血を吸うかもしれないってことだろ?」
「ご名答。だから、あんたはあたしと一緒に料理しちゃダメなの!」
「俺がどうしてもミノリと一緒にやりたいって言ったら?」
その問いに対して、ミノリは即答した。
「その時は、あんたに無言の腹パンをしてでも止めてみせるわ」
「おいおい、そんな怖いこと言うなよ……」
「そうでもしないと、あんたは諦めないでしょう?」
「はぁ……分かったよ……。お前と料理をするのは諦めるよ。それじゃあ、俺はもう少し寝てくるよ。またな『強欲の姫君』さん」
その時、ミノリの目が一変した。ミノリは狼のような目で俺を見るなり、こう言った。
「次にその名であたしを呼んだ時があんたの最期だと思いなさい」
「……あ、ああ、分かった。肝に銘じておくよ」
ミノリが本気で怒ったら、どうなるのだろう? などと一瞬考えようとしたが、それは言うまでもなく、俺の最期だということが分かったのでそれ以上考えるのをやめた。
だが、なぜこんな朝早くに朝ごはんを作っていたのだろうか?
みんなが起きているのならともかく、まだ俺とミノリしか起きていないのに、朝ごはんを作る意味はあるのだろうか?
というか、ミノリは、何を作ってたんだ? それが気になって仕方なかった俺は目の前のミノリを無視して台所に向かおうとした。
だが、これが間違いだった。ミノリはそんな行動をした俺の目の前に一瞬で移動すると両手を広げて、台所に行かせないようにした。
「ま、まだできてないから、もう少し待ってて!」
その時のミノリの目が泳いでいるのを肉眼で確認した俺は右に動いた。すると、ミノリも右に移動した。俺が左に移動するとミノリも左に動いて、俺を台所に行かせないようにする。
「いや、何を作っているのか見たいだけなんだが……ダメなのか?」
ミノリは両手を広げたままブンブンと首を横に振り、否定した。
うーん、別におかしな薬を作っているようには見えなかったから、俺に見られても大丈夫だと思うんだけどな……。
仕方ない『奥の手』を使うか。
俺は両手をパーにした後、指間を閉じて『手刀』の形にすると肘を九十度に曲げた。
要するにフォークリフト(車の名前)のような状態にしたのだ。
その不思議な状態を保ち続ける俺を見て、ミノリの気が緩んだ次の瞬間、俺はミノリの両脇をその構えのまま、くすぐった。
「ちょ、ちょっと! やめてよ! く、くすぐったいから! あはははは! こら! ナオト! やめなさい! ちょ……いい加減に……あははははははは!」
「それー、こちょこちょこちょこちょー」
これぞ、シオリ(白髪ロングの獣人)にくすぐられた時に取得した技、『ティコティコ』である。
くすぐっているうちにミノリは横になり、お腹を抑えながら「ひぃ、ひぃ」と言い始めた。
作戦成功。これで台所に行けるな。
まだ笑いがおさまらないミノリを放置して俺はスタスタと台所に向かった。
さあて、何を作っていたのかな? 台所に行き俺がそこで見つけたものは……七つのお茶碗に入っている『七草がゆ』であった。
えっ? 七草が何なのか分からない?
それは芹、薺、御形、繁縷、仏の座、菘、蘿蔔の七つだ。秋の七草もあるが、それはまた今度にしよう。