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「あずみん! 一生に一度のお願いだ!」
「これで、十回目だと思うが」
うわーん、と涙目になって俺に手を合わせ頼み込んできた空澄をみて、溜息が引っ込んでしまった。子供のような、一生に一度のお願いをこれまで何度聞いてきたことか。それも、たいした理由じゃ無いものを。隣で俺と空澄の会話を聞きながら、つまらなそうな顔をしている綴を置いておいて、何をお願いされるのだろうと、俺は空澄を見る。
「今度、パーティーがあるんだよ。財閥ぐるみの。で、そこに俺様の絵も展示されるし、父さんも来てくれって言うからぁ」
「だから?」
「一緒に出席して欲しい」
と、空澄はパッと顔を明るくして言う。何故そんな顔になったかと言えば、どうせ俺に頼めば付合ってくれるだろうと思ったからだろう。
空澄は、土日になると財閥のパーティーにとか、何かと彼とは全く違う世界の上級層だけが集まれるパーティーに参加していたようで、聞くところに寄れば、それはここ最近からではなく、幼い頃から……らしい。だが、小学生中学年ぐらいまでは一度も家の外に出して貰えなかったとか。それもまた不思議な話であるが。
そしてさらに付け加えると、財閥のパーティーには華月、久遠と三大財閥……御三家全員が集まるらしい。そんなところに俺についてきてくれと言うのだ。俺をどうしたいのだろうか。
「な、な、あずみんいいだろう」
「つづ……」
「僕はパス。というか、お呼びじゃないし、依頼もあるし、断っちまえばいいだろ、梓弓」
ふいっと綴にそっぽを向かれ俺は言葉がつまった。
栗花落先生との戦いの後、綴とのわだかまりというか距離が縮まった。勿論変な意味ではなく、相棒としての距離だ。あいつに友情を抱けないし、恋愛感情などもっと抱けない。だがその二つとはまた違う感情が、俺にも綴にも生れたようで、最近は俺と空澄が学食に行くとき黙ってついてくることが増えた。といっても、綴は全く空澄に興味がなく、空澄が話し掛けても無視を決め込んでいたが。
そんな相棒に無視をされ、俺はどうしたものかと空澄をみる。空澄はお願い、と捨てられた子犬の酔うなかおをし俺を見ている。こうなってくると断ることは出来ない。
「分かった……落ち着け。今度っていつだ?」
「今週の土曜日!」
「今度とかそういう問題じゃねえ!そういうことはもっと早く言え、空澄!」
「あはは、悪い、悪い。ちょーっと手違いがあって」
と、空澄は笑ってごまかすように頭を掻いた。
まあ、何にしろ、今ので行くことは決まってしまったため拒否権はない。それに、空澄の頼みを断ることは1度もしたことがなかった。今でも、あいつの頼みでもお願いでも全て聞き入れてしまう。それを、この間綴に指摘されてしまった。
『梓弓、お前は空澄に依存しすぎてる。気持ち悪いぐらい。お前は気づいてないかもだけど、やめた方がいいぞ。空澄を生きる理由にするな』
そう言われてしまったのだ。依存、している自覚は少しあったが、周りから指摘されるものだとは思っていなかった。しかし、周りからみてそう思うのなら、そうなのだろう。言い返す言葉がない。
(生きる理由にするな……か)
そんなつもりはなかったが、確かに過保護になっているところはある。そして、空澄に対しては全肯定イエスマンになっている。確かにこれは危険なのかも知れないが。
「それで、何で俺を? ただついてきてくれって事じゃないだろ」
「あーそう!それなんだが、パーティーに出席するならボディーガードをつけろって父さん煩くて、でも顔もよく分かんない奴らに護って欲しいとは思わなくて、それであずみんを推薦した!」
「また、勝手に……その、空澄の父親は俺がどういう奴か知ってるのか?」
「友人!」
「それで、通るのかよ……」
「だって、父さん俺様に甘いし……まあ、無関心っていった方が正しいのかもだけどな」
そう、空澄は消えるような声で言った。珍しく弱きというかそんな空澄をみて俺は眉を寄せた。
空澄の家庭環境については詳しくは知らない。だが、あまり良いものでない……ように今の言い方ではそういう風に見えた。色々事情はあるのだろうが、愛されていない、とでもいうような顔をするので、空澄家には何か深い闇があるのではないかと深く疑いの目を向けてしまう。空澄の口から聞けるまで何も聞かないつもりだし、正直家族というものを知らないから、どういうあり方であれ、父親と母親がいることはいいことだと思う。
(でもアミューズみたいな連中に狙われてるっていうんだから、相当恨みは買っているんだろうな)
アミューズの目的は空澄財閥の壊滅だった。金持ちだし、もしかしたら裏でヤバいことをやっているのかも知れない。証拠も何もないが、そういう面からして、他方から恨みを買っているのかとも。そういうことは俺には分からないため、ここで考えるのをやめる。
「それじゃあ、あずみん。今週の土曜日よろしくな! あ、服は俺様の家が準備するから、一旦家に来てくれ!」
「分かった……敬語、とか上手く使えないがいいか?」
「俺様も使えなーい!」
空澄は元気に言って手を挙げた。
本当に財閥の御曹司かと疑いたくなるその姿は、俺の中では当たり前だったし、それが空澄囮だった。