さてと、何故この紅蓮の弟はベランダに落ちてきたのか、事情聴取をしないといけない。
目の前で、ニコニコと笑うラヴァインを見ていると、調子が狂いそうになるのだが、私は、この本物か偽物か分からない笑顔に騙されてはダメだと、首を横に振って自分に活を入れる。
「で?何でアンタは、ベランダから落ちてきたワケ?」
「ちょっとね、転移魔法に失敗したんだよ。明確に場所をイメージできなかったっていうか、エトワールの部屋!って考えたんだけど、ここって結構防御魔法がかかっているし、そういうのでノイズも入って、屋根の上に転移しちゃったわけ。まあ、それで、その後はお察しの通り、屋根から落ちたんだよ」
「意味分かんない」
言っていることは分かったが、意味が分からなかった。それで、屋根から落ちてベランダに……って、いつものラヴァインでは考えられないことだった。でも、この間の戦いで負傷と化しているなら、まだ分からなくもないなあ、とは思ったけど。
「……というか、ラヴィ、何か香水つけてる?」
「ん?いや、つけてないけど」
「気のせい……かな」
「何が?ああ、でも、ここに来る前に花屋の前は通ったかも。花売りの少女がいてね、花を買って下さいって言われたから買ってエトワールにあげようかなあって思ったんだけど、転移に失敗して落としちゃった」
ごめんね、なんてラヴァインは謝った。
私に花をプレゼントしてくれようとしていた事実や、らしくないことをするなあ、と思ったが、まだ完全に理解できていないから、予想外の行動を取っても可笑しくないと思った。それに、ラヴァインだし、とすませ、このはなしはここら辺にしておく。
「それにしてもさ、エトワール」
「何よ。ジロジロ見ないで、穴あく!」
「見られるの苦手?」
「前に、話さなかったっけ?」
「俺に?」
「……あ、違う。多分、アルベドだ」
混在していた。と、自分でも思って、私は頭を抱えた。似ているのは容姿だけで、あとはちっとも似ていないのに。何で間違えたんだろう、と私は思った。確か、その話をしたのは、アルベドだった。見られるのとか、注目されるのが苦手っていったのは。まあ、リースはその事をずっと前から知っていたんだけど。
始めて、ラヴァインとアルベドを間違えたかもって。さすがに、私とトワイライトを間違われることはないけど。あと、あれだ……ルクスとルフレを間違えるみたいな。
そんなことを思いつつ、一人で考えていると、ずいっと、ラヴァインが私の顔を覗いた。
「な、何?へ?」
「ん?ああ、いや、そういえば、俺の事愛称でずーっと呼んでくれてるなあって思って」
「アンタが言ったんだし」
「まあ、そうなんだけどさ。すっごく、心許されているような気がして、嬉しいって思っただけ」
と、ラヴァインはいう。
今更何を言っているんだと、ツッコミを入れたくなったが、凄く穏やかな顔で笑っていたので、私はそれ以上何も言わなかった。こんなことで、喜んで貰えるなら、良いことをした気分になれたから。良いことというか、人に喜んで貰えるのは嫌じゃなかったから。
(愛称……愛称ね……)
「でも、兄さんのことは、愛称で呼ばないの?」
「え、え、例えば何で呼ぶのよ」
「アル……とか?」
「アル……」
聞きなれない、単語過ぎて、私は息をのんだ。アルベドの事をアル……だなんて、いおうと思った事無いし、そもそも、本人がそう言ってくれともいってくれたことなかった。ラヴァインが特別、愛称で呼んでよ、と言っただけで、他の人が、それを望んだことはなかった。まあ、それは、ラヴァインの名前の意味があまり良くないから、とは聞いたけど。
不思議なことを聞くもんだなあ……なんて、思いつつも、さっきから、ずっと見られて、本当に穴が空いてしまいそうだ、とラヴァインを注意する。
「やっぱ、アンタ変。さっき頭ぶつけたんじゃない?」
「ひっどいなあ……エトワールは。確かに痛かったけど、そんなので、頭悪くなったりしないよ」
「怪しいのよ」
「何が?」
ピクリと、ラヴァインは反応し、首を傾げた。大層な意味で、怪しいといった覚えはなかったが、ラヴァインは自分が何かで疑われているのではという顔をして私を見ていた。寂しそうなめをするものだから、すぐに訂正する。
「変な意味じゃなくて。何というか……私が目覚めてから、顔見てなかったから……あのあとどうなったのかなあ、って。アンタ、何も言ってくれなくて、今ここに来たばかりで」
「ああ……その事」
あのあとどうなったか分からない。ラアル・ギフトとアルベドの二人を相手していたラヴァインが、どうなったのかも。まあ、生きてるってことは、大丈夫なんだろうけど、それでも不安というか、平気なフリをしているだけで、本当はボロボロなんじゃないかとか考えてしまう。見た感じ、傷はないし、目だった外傷もなくて、ほっとはしているけど。
「エトワール様」
「何?グランツ」
「エトワール様は、彼が亡霊に見えますか?」
と、グランツが、口を挟んでいった。亡霊に見えるか、なんて変な質問だなあ、なんて思いつつ、見えるわけがないと、私は首を横に振った。グランツがいいたいのは、生きているのだから、良いのではないかということだろう。それはそうなんだけど。
「うぅう……」
思わず唸ってしまった。だって、そうだもん。そうなんだもん。
私が唸っているのを見て、ラヴァインはプッと吹き出して笑っていた。本気で心配しているのに、この温度差は何だといいたいぐらいには。
「ラヴィ、あのあと、何があったか、教えてくれない?報告が入ってない……というか、まあ、報告できるような確かな状況と、状態じゃなかったかもだけど」
「ラアル・ギフトは、兄さんの指示で一時撤退した」
と、ラヴァインは、私がおどおどしているのに対し、すぱっといって見せた。
あまりにも、端的に言ったので、私は、目を丸くせざる終えなかった。何言っているか、ちょっと理解できなかったところもある。
(ま、まあ……一応、アルベドはラヴァインのお兄ちゃんだし、弟守る為に、アルベドがラアル・ギフトを撤退させたっていうのもあり得ない話じゃないし……それに、ええと、それから、なんだっけ)
一応、頭の中では甲じゃない勝手言う仮設がたったが、これがあっているのかどうかは不明だし、何よりも、これでいいのかなあっていうところもある。
「エトワール聞いてる?」
「うっ、うん。聞いてる、聞いてる。そっか、じゃあ、一対一……それでも、アルベドと敵対するとなったら……ラヴィも」
「まあ、兄さんとの戦いは熾烈だったけど、ちょっとした取引をしたって言うか」
「取引?」
「内容は秘密だけどね」
いや、教えてくれないの? と思いつつ、ラヴァインがしーと悪戯っ子のような仕草を取るので、私は口を閉じた。アルベドと何を取引したのだろうか。全く予想がつかなかったため、聞きたいって言う衝動に駆られたけど、多分、教えてはくれないだろうなあ……って、私は肩を落とすしかなかった。
「まあ、そんなたいしたことじゃないし。エトワールに何か被害が及ぶって事でもないから、気にしなくて良いよ」
「気になる……」
「気にしないで」
と、ラヴァインは念を押すようにいった。よっぽど知られたくない内容なのだろう。でも、だったら、はじめから口に出さないで欲しかった。こんなに気になるようなことないし……全く、酷いなあ、と思いながら、、私はちらりとラヴァインを見た。
もう淀んでいないその満月の瞳を見ていると、アルベドと重なる部分があって。間違えても仕方ないよね、と自分を納得させてしまう。でも、人と間違えられるのって結構苦痛だったりもするから、ラヴァインも嫌な気持ちになってないかなあ、とも思ってしまう。
ともあれ、ラヴァインが無事で何よりだと思った。
「ラアル・ギフト……は、何処に行ったとか、分かる?」
「ううん、それはまだ掴めてないよ。エトワールをあんな目に遭わせたんだから、懲らしめなきゃっては思ってるけどね。あと、エトワールさ、防御魔法は、常にかけておいた方が良いよ。今回見たいな事にならないように」
「あ……はい、肝に免じておきます」
防御魔法を継続的にかけるってかなり、魔力を消費するのでは無いかと思った。でも、ラヴァイン曰く、少ない量でも、継続してかけることが出来るらしいし、一回試してみようと思う。確かに、これ以上、まわりに迷惑はかけられないし。
「ラヴィ」
「何、エトワールまだ何か……」
「戻ってきてくれてありがとう」
「え……」
私は、ありがとうって、もう一度いった。守ってくれたのは、グランツだけじゃなくて、あの場に残ってくれて、足止めしてくれたラヴァインにもいうべきだと思ったのだ。感謝の言葉を。
ラヴァインは自分が何を言われているか理解が出来ないというように、え? と口を半開きにしている。
「何で、感謝?」
「だって、ラヴァインも、私の事守ってくれたじゃん。最近、守られてるなって感じることあるし。それが、恩返しであっても、ありがとうって言うべき何じゃないかなって……私は思ってる。だから、ありがとう」
「え、ああ……」
ラヴァインは、宙に意味の無い形を画いた後、耳を赤く染めて、ぼそりと呟いていた。恥ずかしいっていうのはバレバレだ。
(兄弟、癖って似るのかな……)
誰かさんも、頬じゃなくて、耳を染めるから、兄弟同じなんだなあ、としみじみ私は思っていた。ラヴァインは、まだ恥ずかしそうにそっぽを向いている。
「……調子狂うって」
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