テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あや🎀さん!!
リクエストありがとう!!!
書きます!!
短めです
※注意
・ご本人様には関係ありません
・セミフィクションです
・パクリ×
・残酷な描写は比較的控えてはおりますが、少しでも嫌な方はブラウザバック推奨
——画面の向こう側から、壊されていく
配信終了の音楽が流れ、画面が暗転する。
いつもなら、ここで一息つく。
椅子に体を預けて、喉を鳴らして、水を飲む。
それが、おんりーの日常だった。
けれどこの日は、指が動かなかった。
マウスに添えた手が、微かに震えている。
自分でも驚くほど、小さく、でも止まらない。
理由は分かっていた。
チャット欄。
コメントログ。
SNSに流れ始めた切り抜きと、それに群がる文字の群れ。
称賛もある。
「神プレイ」「天才」「努力えぐい」
でも、その間に混じる黒い文字は、
白よりも、色よりも、ずっと目立った。
──「調子乗りすぎ」
──「最近つまらん」
──「昔の方が良かった」
──「こいついなくてもいいだろ」
おんりーは、視線を逸らそうとした。
でも、指が勝手にスクロールしてしまう。
「……やめて」
誰に言ったのかも分からない声。
画面には、さらに下品で、さらに露骨な言葉が並ぶ。
──「顔出さないくせに偉そう」
──「裏で何してるか分からん」
──「どうせそんなに上手くない」
──「お前だけ浮いてる」
胸の奥が、じわじわと冷えていく。
理解している。
全員の意見じゃない。
声の大きい一部だ。
それでも、人の心は統計じゃない。
一つの言葉が、百の賞賛を簡単に押し潰すことを、
おんりーは嫌というほど知っていた。
通知音が鳴る。
一つ。
二つ。
三つ。
DM。
「見ない方がいい」
そう思うのに、タップしてしまう。
──「お前のせいで動画つまんなくなった」
──「ドズル社から消えろ」
──「お前がいる限り見ない」
息が浅くなる。
さらに、下へ。
──「住所特定する」
──「そのうち後悔するぞ」
──「逃げられると思うな」
画面を閉じても、もう遅い。
文字は頭の中に焼き付いている。
「……っ」
喉が鳴る。
心臓が、うるさい。
冗談だ。
脅しだ。
分かっている。
でも、分かっていることと、耐えられることは別だった。
配信者として、
表に立つ人間として、
覚悟はしてきた。
それでも。
「俺、何かしたか……?」
自分に問いかける声は、情けなく掠れていた。
最初は一人のアンチが作った悪意ある切り抜きだった。
誤解を持たせる切り抜きに、悪意に塗れた編集。
何も知らない人が見たら、ただ”おんりー”と言う一実況者を責めてしまうほどの、残酷なもの。
それが、なんの神の悪戯か、世間では大事になってしまった。
やっていない
だから謝罪できない。
やっていないことを、認めるわけにはいかないから。
努力してきた。
手を抜いたことはない。
誰かを傷つけるつもりなんて、一度もなかった。
それなのに。
「……消えろ、か」
呟いた瞬間、胸がきゅっと縮む。
“消えろ”
その三文字は、
「画面から消えろ」なのか、
「ドズル社から消えろ」なのか、
それとも——
考えがそこまで行った瞬間、
おんりーは首を振った。
違う。
考えるな。
でも、通知は止まらない。
──「お前の声無理」
──「プレイどうせ全部編集」
──「天才気取りやめろ」
──「どうせ努力してない」
努力してない。
その言葉が、一番深く刺さった。
机の引き出しには、
書き殴ったメモが何十枚もある。
失敗したルート。
練習の回数。
睡眠時間を削った日付。
誰にも見せない場所。
それを、
「なかったこと」にされる感覚。
「……はは」
乾いた笑いが漏れた。
そうだ。
努力は、見せすぎないって決めたのは自分だ。
なら、
否定されても、仕方ない。
そう言い聞かせようとするほど、
胸の奥が軋んでいく。
新しい通知。
──「生きてる価値ある?」
──「そのまま消えた方が世のため」
──「迷惑」
呼吸が乱れる。
酸素が足りない。
部屋は静かなのに、頭の中だけ騒がしい。
ドズルの笑い声が、ふと浮かぶ。
ぼんじゅうるのツッコミ。
おらふくんの穏やかな声。
おおはらMENの自由ないたずら。
「……迷惑、か」
もし本当にそうなら。
もし、自分が足を引っ張っているなら。
「俺がいなければ……」
言葉にした瞬間、
背筋が冷たくなった。
危険な思考だと、分かっている。
それでも、止まらない。
──「お前のせいで台無し」
──「さっさといなくなれ」
──「次の配信、邪魔しに行く」
脅迫は、もはや“言葉遊び”じゃない。
画面越しなのに、
距離が異様に近い。
鍵を閉めた部屋。
一人きりの空間。
それなのに、
逃げ場がない。
「……疲れた」
その一言に、全部が詰まっていた。
おんりーは、ゆっくりと立ち上がる。
椅子を戻す音が、やけに大きく響く。
机の上を片付ける。
散らばった紙を揃え、
マグカップを洗い、
コードをまとめる。
“いつも通り”。
ただ、それだけ。
でも、
“二度と戻らない前提の「いつも通り」”だった。
最後に、画面をもう一度見る。
アンチの言葉は、今も流れ続けている。
止まる気配はない。
「……もう、いいや」
誰にも聞こえない声。
その瞬間、
おんりーの中で何かが、静かに折れた。
音はしない。
派手でもない。
ただ、
長い間張り詰めていた糸が、
ぷつりと切れただけだった。
朝のスタジオは、音から始まる。
ドアが開く音。
床を踏む足音。
椅子を引く音。
キーボードの試し打ち。
誰かの「おはよう」という声。
ドズル社のスタジオは、そうやって目を覚ます。
……はずだった。
「おはよーう」
ドズルの声が、いつもより少し大きく響いた。
無意識だ。
返事が返ってくる前提で、声量を調整している。
「おはー」
ぼんじゅうる。
「おはよーございます!」
おらふくん。
「おはよっす!」
おおはらMEN。
いつも通り。
何も変わらない。
ただ一つを除いて。
カタ、カタ、という一定のリズムが聞こえない。
「あれ?」
ドズルがスタジオの奥を見る。
そこにあるはずの席。
モニター。
椅子。
空いている。
「まだ来てないんだよねー」
おらふくんが、軽い調子で言う。
遅刻は珍しくない。
……珍しくは、ない。
「でもさ」
ぼんじゅうるが、首を傾げる。
「おんりーって、遅れる時は必ず連絡来るじゃん?」
その言葉に、空気が一段階だけ沈んだ。
確かにそうだ。
どんなに些細な遅れでも、
「少し遅れます」
「電車遅延です」
必ず短く、でも確実に連絡を入れてくる。
それが、おんりーだ。
「……少し遅れてるのかな?」
ドズルはそう言った。
自分に言い聞かせるみたいに。
時計を見る。
針が進む。
五分。
十分。
「連絡、入ってない?」
おおはらMENが、静かに確認する。
全員が首を振る。
LINE。
電話。
既読は、ない。
「……昨日は?」
ぼんじゅうるが言う。
「昨日の配信、普通だったよな」
その一言で、全員の頭に同じ映像が浮かぶ。
昨日の夜。
おんりーの配信。
いつも通りの声。
いつも通りのテンポ。
冗談も、軽口も、問題なかった。
少なくとも、表では。
「……一緒に、見る?」
おらふくんが言う。
理由はない。
ただ、何かを確認しなければ落ち着かなかった。
ドズルが無言でうなずき、
スタジオのモニターにアーカイブを映す。
再生。
「はい、じゃあ今日もやっていきましょう」
画面の中のおんりーは、いつも通りだった。
落ち着いた声。
無駄のない操作。
視聴者のコメントを拾う余裕。
「……普通だな」
ぼんじゅうるが呟く。
「普通すぎるくらい」
ドズルは、画面から目を離さない。
プレイは安定している。
判断も早い。
ミスはほとんどない。
チャット欄が、画面の横を流れていく。
「うま!」
「相変わらず天才」
「このルート好き」
称賛は確かに多い。
……多い、はずだった。
「……ちょっと待って」
おおはらMENが、低い声で言う。
「コメント、速すぎないか」
ドズルがチャット欄を拡大する。
流れる文字が、さっきよりはっきり見える。
「すごい」
「神」
「うまい」
その間に、紛れ込む言葉。
──「飽きた」
──「また同じことしてる」
──「最近微妙」
──「前の方が良かった」
「……あ?」
ぼんじゅうるの眉が、露骨に動いた。
「こんなコメント、前からあったか?」
「……いや」
おらふくんが、ゆっくり首を振る。
「なかったとは言わないけど……こんな密度じゃなかった」
画面は進む。
おんりーが軽く笑いながら、プレイを続けている。
「いやー、そこは違うかな」
視聴者のコメントに対して、いつも通り柔らかく返す。
でも、チャットは容赦なく流れる。
──「言い訳多くね?」
──「調子乗ってる」
──「天才気取りやめろ」
「……ねえ」
ドズルの声が低くなる。
「ちょっと待って」
再生を止める。
一瞬、スタジオが静まり返る。
「これ……こんなにはおかしくない?」
「俺、昨日リアタイで見てたけど」
ぼんじゅうるが言う。
「こんなに目につかなかった」
「流れが速いと、埋もれるからな」
おおはらMENが続ける。
「でも、今こうして見ると……」
言葉を切る。
続きを言わなくても、全員分かっていた。
多い。
明らかに、アンチ寄りのコメントが多い。
その理由は、一人のアンチが起こした、
何も知らない世間、一般人を巻き込んだ渦のせいだと、ドズル社メンバーは理解していた。
ドズルが再生を再開する。
中盤。
プレイが少し詰まる場面。
「……あ、ミスった」
おんりーが、笑いながら言う。
それに被せるように、チャット。
──「ほら下手」
──「凡ミス多すぎ」
──「才能ない」
「……は?」
ぼんじゅうるが、思わず声を上げた。
「今の、ただのミスだろ」
「誰でもある」
おらふくんも、珍しく即座に反応する。
「ここ、難しいとこだし」
おんりーは、画面の中で何事もなかったかのように立て直している。
声も、笑顔も、変わらない。
それが、逆に引っかかった。
「……ここ」
おおはらMENが、音量を少し下げる。
「笑うまで、ほんの一拍遅れてる」
言われて初めて、全員が気づく。
ミスからコメント、そこからの間、少し後の笑い。
ほんの、コンマ数秒。
でも、確実に間がある。
「気のせい……じゃないな」
ドズルが、歯を噛みしめる。
チャットはさらに荒れる。
──「最近調子悪いな」
──「代わりいくらでもいる」
──「ドズル社のレベル下げてる」
「……言わせとけばいいと思って」
ぼんじゅうるが、椅子の肘掛けを強く掴む。
「好き勝手書きすぎだろ」
「これ、全部おんりーが見てたと思うと……」
おらふくんの声が、途中で止まる。
続きが、言えなかった。
終盤。
おんりーが、視聴者に向けて軽く言う。
「まあ、合わない人は無理しなくていいからね」
いつもなら、さらっと流す一言。
でも、チャットの反応が異様だった。
──「逃げた」
──「効いてて草」
──「図星か?」
「……っ」
ドズルが、無意識に机を叩きそうになって、止めた。
「冗談じゃねえ……」
おおはらMENは、目を細めて画面を睨む。
「……完全に、玩具にされてる」
ぼんじゅうるは、吐き捨てるように言った。
「反応するから、余計に調子乗ってる」
おらふくんは、ただ画面を見つめ続けている。
おんりーは、最後まで崩れない。
声も。
態度も。
配信者としての顔も。
エンディング。
「じゃあ今日はこの辺で。ありがとう」
いつも通りの締め。
画面が暗転する。
再生が終わっても、誰もすぐに口を開かなかった。
「……こんなに、来てたんだな」
ドズルが、ようやく言った。
「俺ら、気づいてなかった」
「気づけるわけないじゃん」
ぼんじゅうるが、苦々しく言う。
「表では、あんな普通にしてたんやから」
「普通にしすぎてた」
おおはらMENが静かに続ける。
「限界が、見えなかった」
おらふくんが、ぽつりと呟く。
「……一人で受け止めてたんだな」
誰も否定しない。
むっとする怒り。
悔しさ。
後悔。
それが混ざり合って、スタジオの空気を重くする。
そして、全員の頭に同じ考えが浮かぶ。
——この後、何があった?
画面の中では笑っていたおんりー。
でも、今ここにいない。
その事実が、
じわじわと現実味を帯びてくる。
「気のせいじゃ……」
おらふくんが言いかけて、止まる。
「いや……気のせいにしたいだけか」
誰も否定しなかった。
チャット欄も映る。
流れるコメント。
称賛。
質問。
軽い冗談。
そして、速すぎて拾えない文字の中に、
黒いものが溢れてくる。
「……っ」
ドズルが眉間に皺を寄せる。
これ以上見ても、
「異常」がはっきり映るわけじゃない。
それが、余計に不安だった。
「これ含めて、連絡取れないの、やっぱおかしい」
ぼんじゅうるが、腕を組む。
「仕事休むにしても、何も言わないなんて……」
「ない」
ドズルが、きっぱり言った。
「おんりーは、そういう子じゃない」
断言だった。
それだけ一緒にいた。
スタジオに、沈黙が落ちる。
誰も口にしない言葉が、
空気の中を漂っている。
——何か、あった。
その可能性だけが、
ゆっくり、でも確実に膨らんでいく。
「……机、見てみる?」
おらふくんが言う。
「何か、ヒント残してるかもしれない」
全員が立ち上がる。
音が揃うのが、やけに怖かった。
おんりーの机は、きれいだった。
いつも通り。
モニターは消えている。
ケーブルは束ねられている。
メモはファイルに収まっている。
「……綺麗だな、いつも通り」
ぼんじゅうるの声が低くなる。
「片付けた、って感じだな」
「仕事終わりなら、分かる」
ドズルが言う。
「でも、来てないんだよ、今日」
おおはらMENは、机の下に目を向けた。
棚。
引き出し。
「一応、全部見よう」
引き出しを一段ずつ開ける。
文房具。
USB。
予備のマウス。
何もない。
最後の、一番下。
普段、使われていない棚。
おおはらMENが、しゃがみ込んで開けた。
カタン。
中は、ほとんど空。
……いや。
奥に、一枚。
紙切れ。
「……あった」
全員が、息を止める。
おおはらMENが、ゆっくりと取り出す。
白い紙。
折り目はない。
書かれているのは、たった一言。
──つらい
それだけ。
説明もない。
宛名もない。
日付もない。
「……これだけ?」
おらふくんの声が震える。
「ふざけて書く文字じゃない」
ぼんじゅうるが言う。
ドズルは、紙をじっと見つめていた。
短い。
あまりにも短い。
だからこそ、
削り取られた言葉の量が、想像できてしまう。
「……限界、だったんだ」
誰かが、そう呟いた。
否定する声は、出なかった。
「スタジオ来てない」
「連絡つかない」
「昨日の配信」
「この紙」
点が、線になる。
「……家、行こう」
ドズルが言った。
迷いはなかった。
「今すぐ」
全員が、無言で頷く。
誰も、
「大丈夫だろ」
とは言わなかった。
言えなかった。
その言葉が、
取り返しのつかない嘘になる気がしたから。
鍵を閉める音。
エレベーターの音。
車に乗り込む。
エンジンがかかる。
誰も喋らない。
ただ一つ、全員の胸にあるのは同じ感情。
——間に合ってくれ。
車は走り出す。
まだ、何も終わっていない。
終わっていてほしくない。
その願いだけを乗せて。
おんりーの家の前に着いた時、誰もすぐにインターホンを押さなかった。
静かだった。
生活音がないわけじゃない。
エアコンの室外機の低い音。
遠くを走る車の音。
ただ、人の気配が薄い。
「……鍵」
ドズルが、ドアノブに手をかけた瞬間、動きが止まる。
「……開いてる」
完全に、ではない。
でも、確かに施錠されていない。
その事実が、胸に嫌な冷たさを落とす。
「おんりー、鍵閉めないタイプ、だったか…?」
ぼんじゅうるの声は、冗談めかそうとして失敗していた。
「いや……」
おらふくんが、首を振る。
「ちゃんと閉める人だと思う」
誰も反論しない。
ドズルは一度だけ深く息を吸ってから、ドアを開けた。
「……」
入った瞬間、全員が同じ感想を抱いた。
荒れていない。
散らかっていない。
でも、妙に整いすぎてもいない。
机の上には、使いかけのノート。
椅子の背にかけられたパーカー。
床に無造作に置かれた充電ケーブル。
「……普通やな」
ぼんじゅうるが、低く言う。
「いつものおんりーの部屋」
それが、余計に怖かった。
生活を放り出した形跡はない。
慌てて出ていった感じもしない。
「整理……は、少しだけしてるか」
おおはらMENが、部屋を見回す。
確かに、ゴミは捨てられている。
洗い物も、溜まっていない。
「“最低限”だけ、整えた感じ」
「……昨日の夜、かな」
ドズルが、ぽつりと呟く。
誰も「違う」と言えなかった。
部屋の奥。
デスクの上。
電源の入ったままのパソコン。
「……あ」
おらふくんが、一歩踏み出す。
画面には、ウィンドウがいくつも開かれていた。
配信のアーカイブ。
SNS。
DM画面。
そして——
文字。
画面いっぱいに、並んでいる。
──「消えろ」
──「才能ない」
──「お前のせいで台無し」
──「代わりはいくらでもいる」
──「迷惑」
──「生きてる意味ある?」
一行一行が、刃物みたいに並んでいる。
「……っ」
おらふくんが、反射的に口元を押さえた。
声が出る前に、体が止めた。
息を吸うのが、遅れる。
「……これ」
ぼんじゅうるの声が、怒りで震える。
「全部、見てたわけ……」
「消してないってことは……」
おおはらMENが、言葉を選びながら続ける。
「逃げずに、向き合おうとしてた」
ドズルは、画面から目を離せなかった。
一つ一つの言葉が、
昨日の配信の裏側に重なっていく。
あの一拍の間。
あの、少し遅れた笑い。
「……こんなの」
ドズルの声が、低く落ちる。
「一人で受け止める量じゃない」
誰も否定しない。
部屋中を探す。
クローゼット。
棚。
バッグ。
財布は、ある。
身分証も、ある。
スマホは……ない。
「……持って出てる」
それが、唯一の事実だった。
「場所が分かるものは……」
ぼんじゅうるが探すが、
メモも、地図も、何もない。
「……残す気、なかったのかな」
おらふくんが、小さく言う。
残されたのは、
“普通の生活の痕跡”だけ。
それが、最悪だった。
「急ごう」
ドズルが、はっきり言った。
「ここにいても、何も出ない」
車に戻りながら、全員が頭をフル回転させる。
「おんりーの行きそうな場所」
「落ち着ける場所」
「思い出の場所」
口に出して、列挙する。
よく行っていた店。
撮影で使ったロケ地。
静かな公園。
深夜に行ったコンビニ。
「……ない」
一つずつ回っても、いない。
「ここも、違う」
時間だけが、削れていく。
「なんで……」
ぼんじゅうるが、ハンドルを握りながら呟く。
「いつも、ちゃんと分かるやつだったのに」
「分かってるつもりだっただけかも」
おおはらMENの言葉が、重い。
誰も反論しない。
「あ」
おらふくんが、ふと顔を上げる。
「最初の……」
言葉の続きを、全員が理解する。
最初のロケ。
迷って、笑って、怒られて。
「……あそこ」
ドズルが、即座に言った。
「可能性、ある」
希望、というより、
縋れるものだった。
車は方向を変える。
でも。
そこにも、いない。
何度呼んでも、返事はない。
「……違う、か」
沈黙が、さらに重くなる。
夕方になる。
空が、少し赤くなる。
時間だけが、確実に進んでいく。
「……おんりー」
誰かが、名前を呼ぶ。
返事はない。
どこにもいない。
それだけが、確かな現実。
「……まだ、終わってない」
ドズルが言う。
「絶対、見つける」
それは決意であり、祈りだった。
誰も、諦めるという選択肢を口にしない。
ただ、
焦りと不安だけが、胸の中で渦を巻く。
おんりーが、どこかで一人でいるかもしれない。
そう思うだけで、胸が締めつけられる。
——まだ、探し足りない。
その思いだけが、全員を動かしていた。
夕方の空は、色を失い始めていた。
車の中。
誰も喋らない。
エンジン音と、ウィンカーの規則的な音だけが流れている。
探しても、探しても、見つからない。
よく行く場所。
落ち着ける場所。
思い出の場所。
どこにも、いない。
「……違うな」
ぽつりと、ぼんじゅうるが言った。
「俺らの考え方が、違う」
ドズルは、ハンドルを握ったまま、視線を前に固定している。
「どういうこと」
「おんりーってさ」
ぼんじゅうるは言葉を選ぶ。
「“誰かが来るかもしれない場所”には、行かないと思う」
その一言で、空気が変わった。
「……確かに」
おらふくんが、小さく頷く。
「心配かけたくない、って言うタイプだよね」
「偶然会う可能性のある場所」
おおはらMENが続ける。
「そこは、避ける」
全員の中で、同じ人物像が形を取る。
誰にも見られず、
誰にも邪魔されず、
でも——
完全に消えきれない場所。
「……廃墟、か」
ドズルの声は低かった。
疑問じゃない。
確認でもない。
「撮影で使った、あの場所」
最初の頃に行った、あの廃ビル群。
人は来ない。
でも、誰かが「来ようと思えば来られる」。
そして何より。
「……思い出、あるな」
おらふくんの声が震える。
「五人で、迷って、笑った」
「戻りたくなる理由としては、十分や」
ぼんじゅうるが、唇を噛む。
「……行こう」
ドズルは即座にハンドルを切った。
廃墟は、変わっていなかった。
崩れかけの壁。
割れた窓。
風に鳴る金属音。
人の気配は、ない。
「……おんりー!!」
何度も名前を呼ぶ。
返事は、ない。
「……探そう」
建物の中へ入る。
足音が、やけに大きく響く。
階段。
会議室。
倉庫跡。
そして。
「……あれ」
おおはらMENが、立ち止まる。
床の中央。
埃の中。
スマホ。
「……置いてある」
拾い上げる。
画面は、暗い。
ロックは、かかっていない。
「……嫌な予感しかしない」
ぼんじゅうるの声が、掠れる。
ホーム画面には、
一つだけ開かれたアプリ。
動画。
タイトルは、ない。
「……再生、するよ」
ドズルが言う。
誰も止めなかった。
画面が揺れて、止まる。
映ったのは、廃墟の壁を背にしたおんりーだった。
いつもの笑い方。
いつもの表情。
でも、目が違う。
落ち着いているのに、
覚悟を決めた人の目だった。
「……みんな」
静かな声。
「これを見てるってことは……見つけてくれたんだよね」
少し、困ったように笑う。
「ごめん。心配かけたと思う」
ドズルの喉が、鳴る。
「俺は、逃げてしまった」
おらふくんが、無意識に手を強く握る。
「責めないでほしいとは言わない。
怒ってほしいとも言わない。
ただ……俺は俺の限界を、自分で決めた」
少し目を伏せ、言葉を選ぶ仕草。
「アンチって言葉一つで片づけられるほど、
軽いものじゃなかったんだ。
『消えろ』
って文字は、
画面にあっただけでも、
俺の中じゃ音になって響いてた。
寝る前も、
起きた時も、
作業してる時も」
おんりーは笑う。
弱い笑いじゃない。
自分を客観視して、少しだけ困っている時の笑い。
「それでも、
俺は幸せだった。
みんなと出会えて、作って、笑って、バカやって。
胸張って言える。
最高の人生だった」
全員の喉が一斉に詰まる。
「だからさ、この先のお願いがある」
カメラの向こうで、おんりーが真っ直ぐにこちらを見る。
「俺のいないドズル社でも、楽しんでほしい。
笑ってほしい。
新しいことして、俺を置いていくぐらい前に進んでほしい」
ぼんじゅうるの目から涙が静かにこぼれた。
「本当は、置いていかれたくない。
けど、そんな気持ちがちっぽけになるくらい
みんなが笑っているのが嬉しい。
俺は、その笑顔を崩すようには
なりたくなかった。
俺がいなくても回る世界であってほしい」
おらふくんが顔を覆う。
「それと……視聴者のみんなへ」
一瞬だけ迷って、でも言葉は続いた。
「俺は、みんなのこと嫌いになってなんかいない。
ただ、届きすぎた声に、俺の器が追いつかなかっただけだ」
少し息を吸う。
「だから、お願い」
「俺の分まで、なんて欲張らない」
「ただ、笑って、前に進んでほしい」
おらふくんが耐えきれず小さく嗚咽を漏らす。
「いっぱい泣いて
いっぱい笑って
全力で生きてほしい」
そして、最後に。
カメラの位置が少し揺れ、おんりーは優しく笑った。
「俺は、最高の仲間と出会えて、幸せでした」
配信開始の通知が、静かに広がっていく。
いつもより、チャットの立ち上がりが早い。
待っていた人が多いのが、嫌でも分かる。
画面に映るのは、ドズル社のスタジオ。
いつもの配置。
いつもの照明。
ただ一つだけ、違う。
空いている席。
ドズルは一度、深く頭を下げた。
「……今日は、集まってくれてありがとう」
声は落ち着いている。
無理に明るくも、沈みすぎてもいない。
「まず、最初に伝えます」
少し、間を取る。
「おんりーは、今、俺たちの前から姿を消しています」
チャットが一瞬、止まる。
次の瞬間、流れる文字。
「どういうこと?」
「大丈夫なの?」
「冗談だよね?」
ドズルは、画面を真っ直ぐ見る。
「軽い話じゃない。
でも、必要以上に不安になるような話でもない」
その言葉に、少しだけ流れが落ち着く。
「おんりーは、自分の意思で、距離を置くことを選びました」
ぼんじゅうるが、続ける。
「理由は、全部は話せない。
でも一つだけ言えるのは、投げ出したわけでもないってこと」
おらふくんが、ゆっくりと言葉を重ねる。
「たくさん考えて、たくさん悩んで、
その上で、自分で決めた選択だった」
チャットに、戸惑いと不安が混じる。
「探さないの?」
「連れ戻さないの?」
「助けなくていいの?」
おおはらMENが、静かに首を振る。
「探しません」
はっきりとした否定。
「それは、俺たちが冷たいからじゃない」
ドズルが続ける。
「おんりーが、探されることを望んでいないからです」
一瞬、ざわつく。
「心配するな、って言うのは無理なのも分かってる」
「でも……」
ドズルは一度、言葉を切った。
「おんりーは、自分の場所を、自分で選びました」
「俺たちは、その意思を尊重する」
ぼんじゅうるが、少しだけ強い声で言う。
「勝手に正義振りかざして、引き戻すことが正解だとは思わない」
「それは、おんりーを否定することになる」
沈黙。
重いけれど、逃げない沈黙。
「……そして」
ドズルが、画面の横に目をやる。
「おんりーから、俺たちにメッセージが残されています」
「今日は、それを流します」
「全部、聞いてほしい」
画面が切り替わる。
おんりーの姿が映る。
チャットが一気に溢れる。
「おんりー!」
「生きてるよね?」
「戻ってきて」
四人は
ビデオメッセージが流れている間、
コメントの反応を見ながら、
静かに涙を流さぬよう耐えていた。
おんりー自身が”死ぬ”と明言していないことが、唯一の救いだった。
映像が終わる。
配信画面に、再びメンバーが映る。
誰もすぐに喋らない。
チャットは、泣いている絵文字と、
「分かった」「待つ」「応援する」で埋まっていく。
ドズルが、静かに口を開く。
「……俺たちは、この言葉をそのまま、真っ直ぐに受け取った」
「そして、守る」
「探さない。
無理に呼び戻さない」
「でも、忘れもしない」
ぼんじゅうるが、少し笑って言う。
「おんりーが帰ってきたいと思った時、
帰ってこられる場所は、ちゃんと残しとく」
「それだけは、絶対」
おらふくんが、優しく続ける。
「視聴者のみんなにも、お願いがある」
「憶測で語らないでほしい」
「攻撃しないでほしい」
「おんりーの言葉を、そのまま受け取ってほしい」
おおはらMENが、締める。
「ドズル社は、前に進む」
「それは、おんりーを置いていくという意味じゃない」
「おんりーが望んだ形で、進むということだ」
ドズルが、最後に言う。
「今日の配信は、ここまでです」
「ありがとう」
「……また、次の動画で」
配信が切れる。
画面の向こうでは、
泣きながらも前を向く人がいる。
静かに、受け止める人がいる。
そして、どこかで。
おんりーは、
誰にも追われず、
誰にも縛られず、
それでも確かに繋がったまま、
歩いている。
——前を向いて。
——明るいままで。
——最後まで、笑って。
以上で完結です!!
リクエストありがとうございました!
書いてて楽しかったです!!
よければ、ハート、コメントよろしくお願いします!
それでは、また。
コメント
19件

泣けてた 実際、こんな事があったら心も体も、持たないよね これが実際に起こらないように ひとつのコメントや言葉で人を簡単に♡♡♡てしまう 一人一人の発言、コメントをSNSや実際に書いたりする時にしっかり改めて欲しいよ....
神すぎて神で神だった☆(?)
泣けてきた、、、神すぎないですか!!! アンチ無くなればいいのに、、、