テラーノベル
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佐久間くんが住むマンションに来るまでの間、何度も何度もバックミラーで後ろを確認した。
誰かに後をつけられている気配はなく、不審な人影も車もなかった。
コンビニでも何もなかったし、ひとまず大丈夫だろう。
まあ、ちょっと……別の意味でヒヤヒヤしたけどね。
つい……見ちゃったんだよなぁ……
使う予定なんてないのに。
下心はなしで接しないと……いつか絶対ボロを出す。
佐久間くんを困らせる気はないんだから。
「佐久間くん、ごめんね。荷物持ってもらっちゃって。それに、モコのキャリーケースまで……腰、痛いのに」
「何言ってんの!荷物って言っても自分のとコンビニで買った荷物と、あと食材だけだし。モコちゃんは軽いから平気!ね〜、モコちゃん?」
「アンッ♡」
「可愛い〜〜♡」
いや、あなたも相当可愛いんですけど。
「はい、到着〜!鍵開けるから待っててな」
「うん」
玄関のドアを開けると、うちと同じく人感センサーが作動してパッと灯りがついた。
センサーを連動させているらしく、廊下やリビングも一気に明るくなる。
佐久間くんの家に来たのは、いつぶりだろう。
最後に来たのは、まだここまで忙しく個人仕事をさせていただいてない頃だったと思う。
確か……ふっかさんとしょっぴーが一緒だったっけ。
当時の佐久間くんは正真正銘の一人暮らしで、まだツナくんとシャチちゃんを迎える前だった。
だから今日が、佐久間くんの愛猫2匹と初めましてになる。
「ツナくんとシャチちゃんって、人見知りする?」
「うーん、どうだろ?相手によるかなぁ……元々保護猫だし、警戒心はちょっと強いかも」
「そっか……仲良くなれるかな?」
「うちの家族とか、宮田くんにはすぐ懐いてたんだけど。蓮は背が高いし、もしかしたらちょっと怖がるかも?」
「えっ……!どうしよう、流石に身長は縮められない……」
「にゃはは。真顔で何言ってんの、もー!大丈夫だよ、俺が蓮のこと……大好きだからさ!それがきっと、ツナシャチにも伝わると思うんだよね!」
蓮のこと大好きだから
きっと佐久間くんに、他意はないんだろう。
普段からみんなに言っている、笑顔満開の『好きだっ!!』
……あれと同じ意味だ。
俺は小さく笑うと、佐久間くんの背中をポンポンと叩いた。
「じゃあ、俺も佐久間くんのことが大好きだから……同士だと思ってもらえるかな?」
「っ…………う、うん。きっと、すぐ懐かれるよ」
少し驚いたみたいな表情になって、すぐはにかんだように笑う。
それから俺の腕をグッと引いた。
「蓮、先にこっち。洗面所。俺のも入ってるから全部は無理だと思うけど、先に洗濯回しちゃおう」
「ん。……ちょっと溜め込み過ぎてたね」
「ちょっとぉ……?」
「……いっぱい?」
「にゃははっ、まーね、それだけ忙しいってことじゃん!」
「それを理由にしたら駄目ってことも分かってるんだけどねぇ」
忙しいとどうしても、私生活の方が疎かになる。
元々片付けはあまり得意な方じゃないけれど、好きな人に呆れられない為にも少しくらい努力するべきなんだろうな……
うん……頑張ろう。
佐久間くんが用意してくれたスリッパを履いて、まずは洗面所へ。
彼が言う通り、洗濯機の中にはまだ洗濯前の服や下着が入ったままだった。
「ホントは昨日辺りに洗濯機回そって思ってたんだよね〜。でも、入院しててなんも出来なかったからさ」
「それでこれしか洗濯物ないの?……俺より全然マメにやってるじゃん……」
「俺、料理は得意じゃないけど洗濯物は畳むとこまで好きだし、掃除も嫌いじゃないんだよねぇ。ニャンズが居るから掃除なんてなんぼしてもいいくらいだしさ」
フンフンと鼻歌を歌いながら、佐久間くんが持ち込んだ俺の洗濯物を洗濯機へ入れていく。
「よし、1回目、行ってらっしゃ〜い」
ポチ、と運転開始ボタンを押して、その場にしゃがみ込む佐久間くん。
足元に置いていたキャリーケースを開け、ひょいとモコを抱き上げた。
「モコちゃーん、お待たせ〜!窮屈だったねぇ?」
「アンッ」
「あっちにうちのニャンズが居るからね〜!仲良く出来るかなぁ?」
「アンアンッ♡」
「出来るの?えらいねぇ♡」
アハハ、会話してる。
可愛いなぁ、ほんとに。
「そんじゃ蓮、一旦モコちゃんよろしく!キャリーケースは……玄関に置いとこうか」
「うん」
「で、蓮の着替えとかは寝室に置こ。リビングだとツナシャチが鞄の中潜り込んだりするから」
「さては、たまにあるね?」
「うん……あるんだよなぁ……疲れて帰ってきて荷物リビングに置きっぱのまま、うたた寝しちゃたりさ……そーゆー時、気づいたらツナシャチが鞄に入ってて、色々毛だらけになってる」
「でも、それも可愛いんだよね?」
「そうなの〜!もーねー、可愛いんだよね〜!あっ、もちろんモコちゃんも可愛いよぉ?」
モコは佐久間くんのことがすっかり大好きになったようで、彼が話しかけたり撫でたりするたびに尻尾をちぎれんばかりにブンブン振る。
抱っこされれば頬や唇をベロベロ舐めるし、佐久間くんも嬉しそうにしてるし。
…………正直、羨ましい……なんて、ほんの少しだけモコにヤキモチ妬いたりして。
……モコ、ごめん。
パパはちょっと……いや、ものすごく重症かもしれない。
「寝室はこっち。リビングの先にあるから」
「うん」
「ツナ〜、シャチ〜!ただいまぁ!」
「みゃあ〜」
キャットタワーの天辺から、こちらを見下ろすキジトラのツナくん。
三毛猫のシャチちゃんは、ソファの影からじぃっとこちらの様子を伺っていた。
突然やって来た見知らぬ男(俺)に驚いているのか、どちらも目を真ん丸にしている。
「可愛いね」
「だろ〜?先に荷物置いてから、挨拶しよーな?」
「うん。少しの間でも、同居人になるからね。ちゃんと挨拶しないと……モコもね?」
「アンッ」
モコの鳴き声にびっくりしたらしい、シャチちゃんがピュッとソファの影に隠れてしまった。
かと思うと、またそろりと顔を覗かせてこちらを凝視する。
この人見知りっていうか、警戒心の強い感じ……出会ったばかりの頃の佐久間くんみたいだ。
ペットは飼い主に似るって言うけれど、まさしく。
クスクス笑いながら、佐久間くんに続いて寝室へ。
ここは人感センサーにはなっていないようで、彼がリモコンで灯りをつけてくれた。
(あ、綺麗にしてる)
ベッドはきちんと整えられているし、壁に添って設置されたフィギュア棚に、所謂佐久間くんの『嫁』の恐らく一部が整然と並べられていた。
「佐久間くんだって俺と同じくらい忙しいはずなのに……この違いはなんだろう」
「俺も、散らかってる時はマジでヤバいんだよ?洗濯物と洗い物はなるべく放置しないようにはしてるけど、ベッドなんて大体抜け殻みたいになってるしさ。でもたまたま、一昨日シーツ替えたとこだったんだよね。……えっと、仕事とかの荷物はそこに掛けとくといいよ。ボストンバッグはデカイから……床でいい?」
「ん、大丈夫」
佐久間くんに言われた通りに荷物を置いて、またリビングへ戻る。
「アイスと飲み物、冷蔵庫に入れてくる!」
「あ、あと食材もお願いしていい?」
「了解〜!」
キッチンへ向かう佐久間くんの背中を見つめていると、足下から『みゃ』と鳴き声。
視線を向ければ、ツナくんが興味津々という感じで俺を見上げていた。
「ツナくん、挨拶してもいい?」
小さく尋ねかける俺に、ツナくんがゆらりと尻尾を揺らす。
抱っこしたままのモコも、何やら嬉しそうに尻尾をブンブンした。
もしかしたら、仲良く出来るかも。
ツナくんを驚かせないようにしゃがみ込み、なるべく身体を小さく見えるようにする。
するとキッチンから、佐久間くんの声が聞こえてきた。
「蓮、ゆっくり指出してみな〜?鼻チューしてくれたらすぐ撫でられるようになるよ!」
「指?」
(こうかな……?)
佐久間くんに言われるまま、そっと人差し指を差し出してみる。
ツナくんはその指先に鼻をピタッとくっ付けて、スンスンと匂いを嗅いだ。
「わっ……鼻チューってこれ?」
「そうそう!ツナ〜、蓮と仲良くしてやってな〜?」
「みゃあ〜」
「シャチはちょっと警戒しちゃってんなぁ。シャチ〜パパんとこおいで〜?」
そう言って床に座り込んだ佐久間くんが腕を広げると、ソファの陰からずっとこちらの様子を伺っていたシャチちゃんが近付いてきた。
その膝にちょこんと乗り上げると、愛おしそうに背中を撫でて抱き締める佐久間くん。
「シャチも、蓮と仲良く出来る?」
「みゃ」
「そっかぁ、いい子だね、シャチ〜!……ほら、蓮」
「う、うん」
今度はシャチちゃんに人差し指を差し出してみる。
軽くだけど、彼女も鼻チューをしてくれた。
「ツナくん、シャチちゃん。蓮です、しばらく一緒に暮らします。よろしくね?」
「にゃはは!律儀〜」
「挨拶はちゃんとしないとじゃん」
「それはそう!……じゃ、次はモコちゃんにご挨拶な?」
モコを膝の上に降ろしてみると、ツナくんとシャチちゃんが揃って匂いを嗅ぎに来る。
身体も小さいモコに対しては、それほど警戒心はないみたい。
お互いに匂いを嗅ぎ合って、威嚇することもなかった。
「良かったぁ……モコちゃんとも仲良く出来そうじゃん!」
「うん。モコ、仲良く遊べる?」
「アンッ」
「お利口さん〜!」
「……よし、じゃあご挨拶も終わったところで……ご飯作ろっか」
「そうでした!……思い出したら腹減ってきたかも」
「ね。道具とかは適当に使っていい?」
「もちろん!俺も米炊こ!」
膝の上から床へ、モコを降ろす。
まだ少し心配だったけれど、すぐにツナくんシャチちゃんとじゃれ始めた。
我が子たちの微笑ましい様子を眺めつつ、俺と佐久間くんは一緒にキッチンへ。
さて……料理は比較的好きだとはいえ、人に食べてもらうとなると少しばかり緊張する。
しかも相手が佐久間くんだ。
調理器具の場所を教えてもらって準備を始めると、俺の隣で佐久間くんも米を研ぎ始めた。
「炊飯器にセットしたら、お風呂掃除してくんね」
「うん。ほんとは安静にしてて欲しいんだけど……」
「別に運動したりしてるわけじゃねーから平気だって。……それよりさ、久しぶりに風呂友出来んじゃん?」
「っ……」
そうだった。
俺たち、風呂友だった。
いや、忘れてたわけじゃないんだけど……同じ家で暮らすことになって、一緒に風呂に入る可能性は全く考えてなかった。
普通なら……他のメンバーとなら入らない。
でも、風呂友の佐久間くんが相手。
……襲いかかることはない(と、自分を信じたいところだ)けれど、平常心で居られるかどうかは微妙。
広い大浴場じゃなく、それより規模の小さい人の家の風呂だし。
多分いつもより距離も近くなるし……
いやでも、急に断るのも変か……?
ぐるぐる考えてると、佐久間くんがにっこり笑った。
「久しぶりだよな、蓮と一緒に風呂入んの!」
「う……うん。そうだね」
駄目だ。
この笑顔に勝てるわけないんだ、俺が。
それならせめて、下心が湧いてこないように努力しよう……
*****
好きな人と一緒にお風呂入って下心なしで済むなんてそんなことあるわけ……🫢
めめさくinカナダ書いてた時からずっとチマチマ進めてた読み切りがやっと書き上がりそうなので次はそれ上げるかなぁ……
あの……すごく気力使う内容なので……なかなか進まなくて……🥹
でも書き始めたからには完成させたかったんや……もうちょっとがんばろ💪
コメント
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第7話、読み終わりました!ツナくんとシャチちゃんとの鼻チュー挨拶、ほっこりしましたね〜。モコもすっかり佐久間くんに懐いてて、それを見てる蓮くんの「正直、羨ましい…」のヤキモチが可愛い。そして風呂友の設定、忘れてたわけじゃないのに急に実感して平常心を保とうとする蓮くんの葛藤…切ないし応援したくなります。あとがきの次回作も楽しみにしてます、無理せず頑張ってください!