テラーノベル
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キャべ千をたっぷり添えたしょうが焼き、
豆腐と油揚げのお味噌汁、
それに炊きたてのご飯。
絵に描いたようなTHE・しょうが焼き定食に、佐久間くんは目をキラキラさせていた。
ここで小鉢でも付けられれば言うことなしだったけど、急拵えだったので仕方ない。
晴れ風で乾杯をして、少し遅めの夕飯。
『蓮、めっちゃ美味い!天才じゃん!』
『ご飯屋さんのしょうが焼きみたい〜最高〜!』
『このお味噌汁、俺だいすき〜!毎日飲みたい!』
なんてはしゃぐのが、喧しいやら可愛いやら。
佐久間くんにつられて、俺もニコニコしてしまう。
そんな場合じゃないのは、重々承知してるんだけど。
それでも少しくらい、この擬似夫婦みたいな時間を楽しませてもらいたい。
『お味噌汁毎日飲みたい』の言葉に『じゃあこれからずっと、毎日作ろうか?』と返して、佐久間くんを真っ赤にさせてみたりね?
終始可愛くて、きっと俺の顔はふにゃふにゃに崩れていたと思う。
夕飯を終えて後片付けをして、モコやツナくん、シャチちゃんと食休みがてら少し遊んで。
のんびり過ごしている最中、佐久間くんがポンと手を打った。
「蓮、そろそろ風呂入ろ!」
……やっぱり一緒に入るのか…………
いや、あのさ
嫌な訳じゃないんだよ。
そんな訳ない。
俺たちは風呂友だし、今までだって何度も一緒にお風呂に入ってきたわけで。
風呂友が高じてユニット曲まで出したくらいだしね?
でもやっぱりさ……違うじゃん。
大きいお風呂と、佐久間くん家のお風呂と。
平常心を保つのに、どれだけ苦労するだろうか……
「……うん。入ろっか」
それでも断ることは出来ず、笑顔で頷いた。
---
佐久間くん家のお風呂は、浴室も浴槽も俺の家のより少し大きめ。
俺でも(楽々とは言わないけれど)それなりに足を伸ばせるくらいの浴槽で、佐久間くんなら充分余裕がある。
浴室自体も明るくて広々していて、長風呂が捗りそうだ。
……けど。
正直、今の俺はそれどころじゃなかった。
「蓮、髪洗ってー」
「っ、う、うん」
甘えた声で言われて、つい声が上擦ってしまう。
だってさ……
正面を向いていないとはいえ、だよ。
真っ白で華奢な背中とか、筋肉はあるのに細くてしなやかな腕とか、緩く括れた腰とか
そういうのを目の当たりにして、じわりと下肢が重くなっていく。
意識して平静を装おうとすればするほど、熱が集まっていく気すらして。
(いや……駄目だ駄目だ!佐久間くんをいやらしい目で見ない!!)
スーハー、スーハーと深呼吸して、佐久間くんが愛用しているシャンプーを手のひらで泡立てる。
と、肩越しに彼がこちらを振り返った。
「昨日、髪洗えなかったからさ。蓮はいつも丁寧にしてくれるから!」
「ああ……入院してたもんね。っていうか……コブは大丈夫?」
「触ったら痛いかな。普通にしてたら平気!」
「触ったら痛いのは平気とは言わないんだよ……?」
「にゃはははっ!そっか〜」
いや、そっか〜、じゃなくて。
誰かに突き落とされたというのに、佐久間くんはそれを忘れたみたいにあっけらかんとしている。
警戒心がないというよりも、取るに足らないことだと思ってでもいるような。
「……佐久間くんはさ、怖くないの?」
「ん?何が?」
フワフワに泡立てたシャンプーを、そっと佐久間くんの髪へ乗せる。
コブに触らないよう優しく丁寧に、梳くように洗いながら尋ねてみれば、前を向いたままの彼が小首を傾げた。
「誰かに命を狙われてるかもしれないってことだよ」
「あー……ね。怖くない訳じゃないけど……悲観的になっててもしょーがないかなーとは思ってるかな」
そう返し、佐久間くんは小さくため息をこぼす。
「犯人に心当たりがあるわけでもねーし、もちろん動機も分かんねーし。それなら、普通に過ごしてるしかないじゃん?警戒はしなきゃだけど」
「……うん」
「どこの誰がこんなことしたのか、早く知りたいってのはあるかなぁ。もし俺のことが嫌いなヤツが犯人だったとしたら、何が嫌なのかとか……ちゃんと知りたい。俺に直した方が良いとこがあるなら、ちゃんと考えたいなってのもある」
「……そっか」
「ん。……蓮は?やっぱ怖い?」
「俺は……」
まだ自分の身に何か降り掛かった訳じゃないから、そういう意味では怖いと思ってはいない。
俺が、怖いのは───
佐久間くんを、失うことだ。
黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、佐久間くんが肩越しにこちらを振り返る。
指の間を鮮やかで綺麗に染まったピンクの髪が、スルリとすり抜けていった。
「蓮?」
「え、っと……こわい、かな。やっぱり」
「だよねぇ。せめて犯人の動機くらい分かればなぁ〜」
「うん……そうだね」
それもあるけど、そうじゃない。
でも俺がそれを言うのは、なんか変な気がする。
佐久間くんは気にしないかもしれないけれど……万が一、俺の気持ちを知られてしまったら。
(……無理だ)
困らせたくないし、拒絶されたくない。
俺が何も言わなければ、佐久間くんを煩わせることもないんだから。
ギュッと唇を引き結び、小さく深呼吸。
「……佐久間くん、流すよ?」
「うん。お願いしまーす!……ってか蓮、やっぱシャンプー上手だった!」
「そ?」
「ん!全然痛くなかったしさ、丁寧で優しかったよ」
「良かった。でもやっぱり、ちょっとドキドキしたけどね?痛いとこに触っちゃったらどうしようって」
「にゃはは、やっぱ優しいな〜…………勘違いしそう」
「ん?……今、なんて?」
言葉尻がボソボソしてて聞こえなかった。
聞き返してみるけれど、佐久間くんは首を横に振るだけ。
「……ううん!なーんでも!……シャワー出していい?」
「え?……あ、うん」
何か今、聞き逃しちゃいけないことだったような気がしなくもないけれど。
佐久間くんがシャワーのコックを捻ったので、聞きそびれてしまった。
まあ、ほんとに必要なことなら、本人が話してくれるだろう。
泡を綺麗に流し、トリートメントもして
身体を捻ったりすると腰が痛むようで、そのまま背中まで洗ってあげた。
前も、って言われたらどうしようかと思ったけど……流石にそこは羞恥心が勝ったらしい。
『俺も蓮のやりたい!』って言われたのは、これ以上佐久間くんに触れられたりすると流石に平常心を保てなくなるので『絶対安静』を言い渡し先に湯船に入ってもらった。
「俺もやりたかったのに〜」
「俺はどこも怪我してないから自分で洗えるよ。……っていうか、なんでそんなにやりたいの」
手早く髪と身体を洗いつつ尋ねると、佐久間くんが唇を尖らせる。
「だって……ご飯作ってもらったり、髪とか背中洗ってもらったり……そもそも家に来てもらってさ、世話ばっかかけてるんだもん。俺もちょっとくらい、蓮に何かしてあげたいじゃん」
「世話をかけてるなんて、思わなくていいって言ったよね?」
「そうだけどさ……」
まあ、佐久間くんは気遣いの人だから。
俺に世話を焼いてる意識はなくても、本人的にはそうは思えないんだろう。
「俺だって佐久間くんのお世話になってるから、気にしなくていいんだよ。苦手な洗濯をしてくれるだけですごく助かるんだから」
「……そう?」
「うん。だから気にしないで」
「ん……」
泡を流してシャワーを止め、そっと立ち上がる。
綺麗になった手で佐久間くんの髪を撫でると、顔を上げたその頬がボワッと紅く染まった。
「佐久間くん?」
「んぁっ!?……や、あー……えっと……」
「どうしたの?逆上せちゃった?」
「ま、まだ、だいじょぶ、だけど……」
「うん?……あ、ちょっと寄ってもらっていい?」
「うっ……うん、うん……!」
慌てた様子で俺が入る場所を空けてくれる佐久間くん。
さっきまで元気いっぱいだったのに、急にどうしたんだろうか。
「佐久間くん、どうかしたの?……顔、真っ赤だけど」
「え、ゃ、あの……な、なんか、」
「うん」
「……ひ、久しぶりに、蓮の裸見て、なんか……その、照れくさくなっちゃった……かんじ……」
「…………」
なんだそれ
かわいいな
初めて互いの裸を見た訳でもないのに。
……俺はね、まじまじ見てしまうと、反応しちゃいけないところが色々大変なことになりそうだから。
でも佐久間くんは別に、そういうこともないだろう。
いや、もしかして
佐久間くんも俺のことを意識しているんだとしたら……?
(……そんなこと、ある訳ないか)
ただ単に、ちょっと目のやり場に困っただけなんだろう。
ちょっとだけでも意識してくれたらいいのに
……なんて都合のいいことを思いながら、俺は小さく苦笑をこぼした。
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知らぬは本人ばかりなり……🫢
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コメント
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もどかしい( ´Д`)=3 2人共相手に恋してるのに踏み出す勇気がなさ過ぎ( ´Д`)=3 🩷は切り込み隊長のはずなのに此処で本領発揮しないでいつするの?( ´Д`)=3 頑張れ🖤🩷
読了しました!第8話、もうもうもう…!お風呂シーンの蓮くんの葛藤が切なくて可愛くて、心臓がきゅうってなりました。佐久間くんの「勘違いしそう」って呟き、絶対聞き逃しちゃいけないやつだったのに…!お互いに相手を想い合っているのに、すれ違うもどかしさがたまらないです。でもラストの「知らぬは本人ばかりなり」にニヤニヤが止まりませんでした。続きが待ち遠しいです!