燃え上がる憎しみに支えられて、百合の体の底から不思議な生命力が溢れてきた、今の百合にとって、憎むことは生きることを意味していた
それに心から愛した分だけ憎しみも大きかった、百合の健全な精神は、高村隆二によって完全に殺されてしまっていた、代わって その死骸を燃やした灰から、百合の心の中で「復讐の不死鳥」が飛び立った
―あの男を破滅させるまで自分は死なない―
いつ、どんな方法でやるかはまだわからないが、必ず破滅させてやるんだと百合は心に誓った
とりあえず、日本に行こう・・・アイツのいる国・・・そしてお金の稼げる仕事と寝場所が必要だ・・・父に百合は行った
「パパ・・・心配かけてごめんなさい、これからは日本の大学に入学して勉学にいそしみます、もう恋愛なんてまっぴら・・・」
父はとても喜んだ
「おお!そうかい!それがいいよ!新たな土地で新しくスタートを切ろう、あんな男忘れてしまいなさい」
日本に来てからの百合の精神生活はといえば、一時も気の休まることがなかった、自分の決意したことを実行するための計画を注意深く練っていた、それだけは何がなんでもやり遂げるつもりだった
隆二に対する恨みはどんなささいな事でも忘れない、古代のギリシャでは『復讐』と『正義』は同義語であったが百合が頭の中で呟くのもこの二つの言葉である
彼女の頭の中には、最終ゴールがはっきりと描かれていた
―高村隆二を破滅させる―
そんな時に百合と仲良くなった大学仲間の美香から水商売のアルバイトを紹介してもらった、美香は百合の美しさに驚愕し、「あなたならNo1を張れる」と豪語した、実際百合がキャバクラで働き出すと客は入れ食い状態だった、どの男も百合のためにシャンパンを降ろし、そしてアフターに誘いたがった、瞬く間に百合の売り上げ業績は店のランク上位に達した、数か月もしないうちに百合はその店の看板キャバ嬢になっていた
お金にゆとりができると、百合はすぐ私立探偵を雇った、百合の同僚のキャバ嬢の離婚を手がけた男だった、探偵は、難波の宗右衛門町にちっぽけでみすぼらしい事務所を構えていた、大きな看板にはこう書かれていた
『調査一般・法人及び個人・不明者の捜索・照会及び情報収集・尾行・証拠保全・秘密厳守』
もしかすると、事務所よりも看板の方が大きいくらいだった、百合は定期的に隆二の身辺調査を探偵に依頼した、そして隆二には百合と同じ年の息子がいる事を知り、なんとも驚愕した
あの嘘つきの詐欺師は我が子と同じ年の自分に手を出したのだ・・・
百合はまず、犠牲者となる相手の人間を良く知る事から始めた、性格をこと細やかに分析し、相手の力と弱点を押さえておく、そして父親の隆二よりも息子の和樹に興味が湧いた
偶然にも百合と同じ大学に通っている事も調査書にかいてあった、百合は隆二の息子に近づく計画を練った、合コンなどを最初、美香にセッティングしてもらうことも考えたが、以外にも隆二の息子は学部でも大人しく、陰キャだった、なのでよりドラマティックな出会いを演出した、百合は自分が水商売をしているのを隠して和樹に近づいて落としにかかった、それはとても簡単だった
百合のキャバ嬢で培った男をたらしこむ技術を使えば和樹は簡単に釣れた、あっけなさすぎて拍子抜けたぐらいだった