テラーノベル
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和樹と百合でのマンションの半同棲生活は1か月を過ぎようとしていた、そのあいだ百合は、幸せでもなければ、不幸でもなかった、和樹の方は百合のおかげで、毎夜、極楽のような幸せに浸っていた
しかし彼女にとって、それはどうでもいいことだった。和樹を自分の魅力で骨抜きにすることこそが、彼女の遠大な計画のほんの始まりなのだ、二人の関係の中に百合の私情は混ざっていなかった、なぜならどんな熱い愛を交わす時も、百合の心は閉じていたからだ
百合は過去に一度、自分の全身全霊を捧げた愛に裏切られた、もう決して同じ失敗を繰り返すまいと誓っていた、百合の頭の中は、ただ一人の男、即ち、高村隆二のことでいっぱいだった、隆二によく似た和樹が百合に微笑む度、優しくされればされるほど、この息子にあの憎い男の血が流れているのだと思うと、百合の心の中は新たな憎しみでいっぱいになるのだった
隆二と楽しく過ごした時のことが思い出され、胸が塞ぎ、呼吸も困難になるほどだった、そんな時の百合の胸の内は、単なる憎しみだけでなく、そこにはまた別の感情も混ざっていた、その感情をなんと名付けたらよいのか、百合自身わからなかった
見た限り、 百合は和樹に全身全霊を捧げていた、彼が朝起きてから寝つくまで、あらゆる世話を百合は完璧にこなしていた
おいしい料理を作り、てきぱきと買い物をし、体を求められればいつでもそれに応じた
それでいて百合は、和樹に対して何も要求しなかった。、和樹はこれほど理想的な恋人を見つけた自分の幸運に毎日感謝していると、理想の恋人だと呪文のように唱えていた
和樹は彼女をどこへでも連れて行き、友達に紹介した、友人達はみな百合を褒めそやし、和樹の幸運を羨やましがった
自分が復讐の道具にされているなんて和樹はこれっぽっちも疑っていなかった、百合は前の晩にも増して、全身全霊で彼を愛した、相手の性の歓びを純粋に願う健気さ、思いやりに、和樹はまた心打たれてしまっているようだった
そしていよいよ隆二の家に侵入する計画を百合は立てた、思ったより親子仲が悪いのは百合にとって好都合だった、まずは和樹を嫉妬で燃え上らせ、隆二を憎むようにしむけた
二人が親子で殺し合って死んだ夜、百合は自分が書いた筋書きに、やり遂げた達成感に歓喜していた
この二年間、復讐のことばかり考えて生きて来た、一歩一歩の力も、生きる気力も、悦びも、隆二に復讐したい一心に支えられてきたような気がする・・・
そして・・・和樹の銃が隆二の胸を貫通した時・・・この長かった捕り物が終わった事を悟った
しばらくして小さな地方ニュースに二人の事が載った
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【父子間の憎しみが悲劇に・・・息子が発狂、猟銃で父親を射殺後、心臓発作で死亡】
〇月〇日、兵庫県で、父親・高村隆二(40歳)と息子・高村和樹(20歳)の間で長年続いていた確執が凄惨な事件を引き起こした。警察によると、激しい口論の末、息子が猟銃で父親を射殺、その直後、息子自身が心臓発作で倒れて死亡した、その家に務めている家政婦は「普段から言い争いが絶えなかった」と証言、警察は事件の背景に親子間の深い対立があったと見て、詳しい経緯を調べている・・・・
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復讐は破滅と一つになった両刃の剣だと気づいたのもこの頃だった
すべては復讐のためだった・・・
あの妖精の滝で愛し合った隆二の顔が忘れられなかった、子供を中絶して目が覚めた病院の白天井が忘れられなかった、あれが復讐の始まりだった
そして隆二が息子の手で猟銃で撃たれた所で終幕となった・・・と同時に自分の生きる気力も失った
百合の復讐ゲームは過去の恨みに限られ・・・
二人供いなくなった今・・・
これほど生きることに虚しさを覚えたことはなかった、もぬけの殻になってしまった自分が嫌でたまらなかった
東の空を赤く染めながら、それでも時間は日が上り・・・夜には星が夜空に輝く・・・
百合は何日も、何日もマンションに引きこもり、自室の窓に寄り添って、昼と夜の入れ替わる瞬間を見つめた
まるで和樹が猟銃で隆二の胸を撃った時
自分の魂も滅ぼされたようだった
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