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四郎と椿恭弥が対談している中、木下穂乃果と三郎の試合を見ていた天音が顎を触りながら呟く。
「まずいな」
「三郎何かされたの?」
「モモちゃんも見ていたから分かると思うんだけど…。三郎くんの背後から避けたナイフが飛んで来ただろ?」
「うん、ナイフに何かしていたって事…?」
モモの言葉を聞いた天音は試合をみながら頷く。
「ナイフの先端に毒を塗られていたんじゃないかな」
「三郎の力だったら、避けられたんじゃ…」
「モモちゃんが言ってる力って言うのは、Jewelry Wrodsの事だね?これは、僕の憶測なんだけど…」
そう言って、天音がモモの顔を覗き込む。
天音はモモの瞳を見ながら、嘉助から聞かされた話を思い出していた。
***
神楽ヨウの騎士になった天音とノアは、定期的に3人で食事をしていた。
木下穂乃果に双葉のJewelry Pupiyを移植してから、数日後の食事会だった。
神楽ヨウの叔父が経営しているのは隠れ屋なイタリアンで、店内には天音達しかいない。
その為、公で話せない話も気軽に出来るのだ。
「やっぱり、片目を渡すだけじゃ駄目かもなぁ」
色とりどりの鯛のカルパッチョを見ながら、神楽ヨウが呟く。
「何?いきなり」
トマトのマリネを食べていたノアが手を止め、神楽ヨウに怪訝な眼差しを向ける。
その視線に気付いた神楽ヨウは、笑いながら説明を始めた。
「あぁ、この間ね?新しく殺し屋になった女の子に、椿が片目をくり抜いてJewelry Pupiyを移植したんだ。三郎君の目にも移植したんだけど…。やっぱり、僕達と同じにはなれないね」
「同じ?妙な力は使えるんだろ。瞳を移植してるんだから」
「完全には使えないよ、片目しかないからね」
神楽ヨウの言葉を聞いた天音は、ある疑問を投げ掛ける。
「そうなら何で、両目を移植しなかったんだ。わざわざ、片目だけする必要はなかったんだろ」
「産まれた瞬間からJewelry Pupiyを持っている僕とかが力を使っても少し体に影響が出る。例えば鼻血が出るとか。瞳を宿しているだけなら、なんの影響もなく生活を送れる。だけど、これだけの力を持つ瞳を片目移植するだけでも大変なんだ」
天音の問いに答えながら、神楽ヨウは白ワインで喉を潤す。
ワイングラスを口から離し、テーブルにソッと置く。
「今までに何十人も移植した人を見て来たけど、みんな死んでしまったよ。体が拒否反応を起こして、心臓発作でね。成功したのは椿恭弥と三郎君、木下穂乃果の3人だけだ」
神楽ヨウは話しながら、天音の空になったグラスに白ワインを注ぎ淹れる。
「成功したとしても、問題点があるって事だろ」
満たされたワイングラスを持ち上げ、天音は白ワインの香りを楽しむ。
「僕達のように力を完璧に使える訳じゃない。半分の力しか使えないから、中途半端なんだよ」
「分かってたなら、なんで三郎って奴に目をやったんだ?対して、役に立つ訳じゃないんだろ?」
「あの時、三郎君には必要なものだった。僕も三郎君が必要だったし、あげただけだよ」
「悪魔みてーな男だな、アンタ。三郎が死んでたらどうすんだよ」
神楽ヨウの発言を聞いたノアは苦笑いをした。
「彼は死なないよ、この程度の男じゃない。死ねない理由がある人間は、生命力が強いんだ。君たちにもあるだろ?死ねない理由がさ」
「「…」」
天音とノアは黙ったまま、お互いの顔を見合わせる。
「椿も同じだから、厄介なんだ。復讐と執着、愛憎…、奴の力の源はそこから来てる。モモちゃんをどうやって、苦しめて殺すか…。その事しか頭にないんだから」
そう言った神楽ヨウは静かな怒りが満ちた表情を浮かべていた。
***
神楽ヨウの言葉を思い出しながら、天音はモモに話をする。
「モモちゃん達と三郎くんは、同じようで同じじゃないんだ」
「同じじゃないって?」
「三郎君はモモちゃん達の力を半分しか使えないんだけど…。ごめんね、説明が難しかったかな」
「半分しか使えない…」
天音の言葉を聞いたモモは、疑問に思っていた事が解明されていた。
三郎は1つの未来しか先読みが出来ない事。
2つの未来を同時に見る事が出来ない為、飛ばされたナイフを避ける事が出来なかったのだ。
①木下穂乃果の攻撃を読む事をやめれば、不意打ちの攻撃を見破る事が出来る。
②だが木下穂乃果の動きが読めなくなると、攻撃を受けるリスクが高まる。
モモは三郎が①の選択肢を切り離さない事を知っていた。
自分の体が傷付く事を厭わないから。
痛みを感じない三郎にしか出来ない戦い方だ。
ステージの上に立っている三郎は、血反吐を吐きながら木下穂乃果を見据えている。
視界がボヤけているのだろう、焦点が合っていないの
が見て分かった。
「四郎はこんな戦い方をしてほしくないんだ」
三郎の姿を見ながら、モモは大粒の涙を流していた。
「死なせない、三郎の事っ、死なせない」
「モモちゃん!?どこに行くつもりなの?」
「もっと前に連れてってほしいの」
「…、理由を聞いても良いかな?」
天音は腰を低くしながら、モモの目線に合わせる。
「三郎を助けるの。私の力を使って、あの女を殺す」
ゾッとする程に冷たく死んだ瞳をしながら、天音の問いに答えた。
「三郎は四郎の大切な人で、死なせたくない人…で。四郎は病気なのに、三郎を連れ戻しに来たのに…」
「椿恭弥は…、四郎君を殺すとは思えないな」
「どうして?そう思うの?」
「アイツは武器を持っていなかった。今の状況を楽しんでるように見える」
モモの手を取りながら、最前列に向かう。
「そんなの分からないよ…」
「子供の君にこんな事を言うのは良くないって分かっているんだ。だけど、君は子供のようで子供じゃない。そんなモモちゃんに。酷い事を言うね」
再びモモと目線を合わせる為に、天音は腰を低くする。
「椿恭弥はね、君の事を殺す事しか考えていないから」
「え…?」
天音の言葉がモモの心に強く突き刺さり、その場から動けなくなった。
その頃、会場に兵頭雪哉と一郎達が同じタイミングで到着していた。
一郎の手をしっかりと握りながら、リンは別の方向を見つめている。
「リンちゃん、モモちゃん達がいる場所が分かったの?」
「うん、あっちの方にいるけど…。怖いお兄さんもここにいるみたい…」
そう言って、リンが表情を曇らせて行く。
「リンちゃん、大丈夫だよ。あたし達がいるんだがからね?」
「うん、ありがとう…、お姉ちゃん」
「2人共、行くぞ」
六郎がリンの事を慰めていると、兵頭雪哉が歩き出した。
兵頭雪哉を筆頭に会場内に入り、四郎とモモの姿を視線だけで探していた時。
「「「ワアァァァァァァ!!!」」」
観客達がモニターを見て、一斉に歓喜の声を上げ出した。
「うるっさ!!何だよ、いきなり盛り上がりやがって…」
五郎が耳を押さえながら、騒ぎ立てている観客達に視線を向ける。
「おい、一郎。確実に殺したんじゃなかったのか」
眉間に皺を寄せながら、兵頭雪哉がモニターに映った
木下穂乃果を睨み付けていた。
「申し訳ありません、仕留めたと…」
パシーンッ!!!
一郎に怒りの眼差しを向け、兵頭雪哉が一郎の頬を強く叩いた。
二郎達は兵頭雪哉の行動を止める事が出来なかった。
自分達も何回もされてきた事であり、ボスに口を出せる者はいない。
上下関係を叩き込まれていたからだ。
「言い訳を聞いているんじゃない。一郎、仕事は確実にこなせと言っているだろう」
「申し訳ありません、ボス。俺の落ち度です」
兵頭雪哉に深く頭を下げた一郎の前に、リンが両手を広げて立ちはだかる。
「い、一郎お兄ちゃん!?な、何するの…?」
「リン、良いんだ。俺が悪い事をしたから怒られただけだ。ボスは何も悪くない」
「だ、だって、一郎お兄ちゃんは悪い事してないよっ」
「大丈夫、泣く事じゃない」
一郎の赤くなった頬を見ながら、リンが泣き出しそうになっている。
「リンちゃん、大丈夫だから…、泣かないで?」
「うぅ…っ」
六郎がリンを抱き締めているのを、兵頭雪哉は見向きもしなかった。
兵頭雪哉がリンに興味ない事が見て分かる行動で、一郎達もその事はすぐに察していた。
リンが泣き喚こうが、兵頭雪哉は気にも止めずに歩き出す。
威圧的なオーラを放ちながら、ステージに近い観客席
に向かって行く。
パアァンッ!!!
突然の破裂音が響き渡り、会場が一気に静まり返って行く。
CASE 三郎
体が痺れてて動けない。
ステージの上で倒れた俺は、頭をフル回転させ状況を整理して行く。
避けたナイフが勝手に動き出していたのは、体に刺さった瞬間にしか分からなかった。
木下穂乃果の攻撃はJewelry Wrodsで分かっていた。
1つの未来しか読めないって事?
だとしたら、ナイフを避けれなかった事の説明がつく。
クソ、あの糞女が…。
ナイフの先端に毒を塗ってやがったな…。
ズポッ、ズポッ!!!
腰付近に刺さったナイフを抜いたけどこの毒は即効性のある毒だ。
あー、こんな事なら毒の耐性をつけておけば良かったな。
足に力が入らない、猛毒だったら何分くらいで毒が全身に回るかな…。
震える手でポケット弄り、小さな瓶を取り出す。
「毒が効き過ぎちゃった?アハハハ!!!ごめんね?お兄さん」
木下穂乃果はゲラゲラと大声で笑い出した。
武器ルームから持って来ておいて正解だったかな。
俺がポケットに忍ばせていた物は解毒剤だ。
***
木下穂乃果との戦う未来が脳裏を過った時に、俺は肩から血が噴き出していた。
素人相手に俺が殺されるのは有り得ない。
体が小刻みに震えていて、口からは白い泡を吹いているのも見えた。
アナフィラキシーショックの症状だと、すぐに分かる。
チラッと薬品が置かれている棚を見ると、解毒薬と毒がセットで置かれていた。
「あ、この毒だけ持ち出されてる」
マウイイワスナギンチャク2gと書かれた瓶だけがなくなっていた。
*マウイイワスナギンチャクとは、刺胞動物門花虫網スナギンチャク目イワスナギンチャク科イワスナギンチャク族の刺胞動物。
マウイ島のハナ海岸周辺に生息しており、世界最強の猛毒生物として名高い生物。
マウイイワスナギンチャクが持つ毒は神経毒のパリトキシンで、ふぐの毒として知られているテトロドトキシンの50倍、青酸カリの8000倍と言われています。
たった5マイクログラムで絶命してしまう程の猛毒です*
この毒は中々手に入らないって、爺さんが言ってたっけ。
「持ち去ったのは木下穂乃果だろうなぁ。解毒剤を持っていた方が良さそうだ」
念の為に解毒剤をポケットに忍び込ませ、武器ルームを後にした。
***
初めて、瞳をくり抜いて良かったと思った。
この先に起きる未来が見えていなかったら、解毒剤を持ってこようとすら思わなかっただろうし。
木下穂乃果の気を引かないと、解毒剤が飲めない。
「毒?俺が効いてると思ってんの?」
「は?体だって震えてんじゃん。効いてる証拠でしょ」
グサッ!!!
震える足にナイフを突き刺し、アドレナリンを昂らせる。
体の痛みなんて感じない。
どれだけ傷を負っても、自傷行為をしても何も感じない。
それが嫌だって思った事は一度もないんだから。
だって、痛みを感じたいって誰が思う?
込み上げてくる血反吐を吐きながら、ゆっくり重い体
を立ち上がらせる。
あははは、毒を盛られると視界までボヤけるんだ。
木下穂乃果の顔が全く見えなくて、笑える。
「は、は?嘘でしょ?本当に毒が効いてないって事?だって、猛毒の筈でしょ!?盛られたら死ぬ毒なんで…っ」
パアァン!!!
俺の前で、何かが爆発したような破裂音が聞こえた。
ボヤける視界の中で真っ赤な血飛沫だけが見えている。
「え、え?!な、何これ!?わ、わたしの手がぁぁぁぁあぁあ!!!」
木下穂乃果の叫び声が聞こえて来たが、どんな状況になってるか見えないから分からない。
今のうちに解毒剤を…。
何とか感覚だけでキャップを外し、急いで解毒剤を飲み干す。
ゴクゴクゴクッ!!!
口の中にシナモンの香りと嫌な苦味が広がって行く。
「ゴホッ、ゴホッ!!!」
空咳をしているうちに、視界のボヤけがなくなっているのに気付いた。
体の痺れもなくなってるけど、寒気がやってきた。
「な、なんで?私の右手がなくなってるの?」
木下穂乃果の右手首が跡形もなく、傷口から骨が浮き出ている。
さっきの爆発音は、これだったのか?
俺は木下穂乃果の右手首を斬り落としてなんかない。
ドバドバと傷口から血が溢れ、白いステージが真っ赤に染まって行く。
「いや、いやぁああ!!!」
パアァンッ!!!
ブシャアアアアアア!!!
木下穂乃果が叫んだ瞬間、再び破裂音が聞こえた。
バシャッ!!!
今度は左足が吹き飛ばされ、噴き出した血が勢いよく俺の体に纏わり付く。
「あ、あぁぁ…っ。私のあ、足がっ」
バランスが取れなくなった木下穂乃果が、ステージの上で尻餅をついた。
観客席からも困惑の声が上がり、会場が異様な空気に変わって行くのが分かる。
俺の目線の先に、モモちゃんと緑髪の男が立っている事に気付いた。
モモちゃんが木下穂乃果に向かって、手を上げている。
まさか、モモちゃんがやったのか…?
俺の事を助けようとしてるのか?
「ハハハッ、泣きそうな顔してるじゃん…。俺が死ぬと思ったんだろうな…」
こんなにボロボロになっても、自分の心配よりも四郎の顔が浮かぶ。
よく、俺が四郎の事を恋愛感情の好きって勘違いしてる奴が多い。
二郎がそんな感じの意味を含んだ質問をしてきた時があったな。
あの時は心底、腹が立った。
四郎に対する気持ちは神の崇拝に近いものだと思う。
あの日、あの部屋で死ぬ運命だった俺を助けてくれた玲斗。
親父を殺した時の玲斗の姿が神々しく見えて、すごく綺麗だったんだ。
俺の命は玲斗のモノ、玲斗の為に使うって決めている。
玲斗が俺の手を離さない限り、俺達はどこでも一緒だ。
大切な存在、家族以上な存在、友達以上…、何未満なんだろうねえ。
俺の気持ちと玲斗との関係性を説明出来る言葉が見つからない。
パアァンッ!!!
パアァンッ!!!
破裂音が連続で続き、木下穂乃果の体に次々と穴が空いていく。
その度に木下穂乃果の苦痛の叫び声が響き渡る。
「あ、あっぁぁあああ!!!痛い、痛いよぉっ!!!」
そりゃあ、そうだ。
内臓や脇腹が爆発したんだから、痛くない訳がない。
肉片が飛び散り、ステージの上は悲惨そのもの。
モモちゃんの体に影響が出ていない。
これだけの力を使ってるのに出ていないって事は、影響が出ているのは四郎の方だ。
モモちゃんは四郎が肺癌になった経緯を知らない。
悪意があって力を使ってる訳じゃないのも分かってる。
ここにいない四郎がどうなっているのか…、想像が出来る。
俺は静かに呼吸を整え、泣き喚く木下穂乃果の胸に刀を突き刺した。
グサッ!!!
「いっ!?」
「お前、このまま死んで行くの分かる?ドラックもここまでの怪我じゃ動けないみたいだね」
「はぁ、はぁ…、こんな感じなんだ。死ぬのって…」
「そうなんじゃないの、死んだ事ないから知らないけど」
「あー…、お兄さんの役に立ちたかったのに…なぁ。おかしくされちゃった、馬鹿みたい…」
正常な木下穂乃果に戻ってる、ドラックが切れたのか。
「本当は…、会いたかっただけだった。あの人に会いたかった…なぁ…」
「会いに来ない方が良かったね、アンタはこっちの世界に来るべきじゃなかったね」
普通の高校生だった女の子が、俺に勝てる訳がない。
こっちは何十年もこの世界にいて、人を殺しまっくてんだよ。
Jewelry Pupiyを持っていたから、ここまでやれただけ。
蓋を開ければ、ただの女子高生だ。
「こんな痛いの嫌だから…、さ。はやく、ころ…」
ズシャッ!!!
ブシャアアアアアア!!!
だから嫌なんだ、中途半端な殺し屋はあ。
木下穂乃果が言い終わる前に、首の動脈を切り裂いた。
あれだけ血が出ていたのに、まだこれだけの血が出るんだ。
俺は人の心も壊れてんのかもな。
グサッ!!!
今だって毒の付いた方を持って、Jewelry Pupiyに突き刺したんだから。
あの男は木下穂乃果が死んだとしても、瞳が無事だったらそれで良いんだ。
重要なのは、再利用出来るかどうかだけ。
「勝者、片目の男ぉおおおおお!!!」
チェック柄のスーツを着た男が叫ぶと、会場にいた客達が再び盛り上がりを見せた。
「ねぇ、早く持ってきてくれない」
「え?」
「え?じゃないでしょ、賞品に決まってるだろ。なんの為に殺し合いしたのか、分からないの」
「は、はい!!!ご用意出来てますので、すぐにお持ちします!!!」
チェック柄のスーツを着た男は、青い顔をさせながら走って行く。
「三郎っ!!!」
モモちゃんが大声で俺の名前を呼び、手を振って来る。
今回はモモちゃんに助けられた部分が多い。
力を使わせてしまったのは、間違いなく僕の所為だ。
子供の純粋な気持ちでした行動を咎める事は出来ない。
「お、お待たせしました!!!こちらが賞品です!!!」
高級そうな箱を受け取り、中身を見てみるとホルマリン漬けになっている翡翠の瞳と目が合った。
これさえあれば、四郎の事を助けられる。
キラキラと輝く翡翠の瞳が眩しい。
「では優勝者の片目さんから一言…って、どこに行かれるんですか!?」
チェック柄のスーツを着た男を無視して、ステージを降り走り出す。
タタタタタタタタッ!!!
一瞬だけ映った映像を思い出しながら階段を駆け上がり、VIPルームと書かれた扉の前で止まる。
扉の隙間から赤黒い液体が漏れ出ていた。
ドクンッ!!!
嫌な予感と想像が頭の中で、グルグル回る。
この血は四郎のもの…?
いや、四郎が簡単にやられる筈がない。
その事は俺が1番に分かっている事じゃないか。
胸が締め付けられて息が荒くなる。
「はぁ、はぁ…っ、四郎っ!!!」
バンッ!!!
血生臭い匂いが鼻を通り、視界に入った死んでいる男達だった。
やったのは四郎だな、頭を撃たれて死んだのか。
テーブルの上に並べられた資料を見て、驚きの内容ばかりの事が書かれていた。
タタタタタタタタタッ!!!
廊下から数人の足音が聞こえ、振り返るとボス達が部屋に入って来ていた。
「三郎!!!」
「モモちゃ…、グヘ!?いきなり抱き付くのはやめてくんない?」
部屋に入って早々、モモちゃんが叫びながら抱き付いて来たのだ。
「良かった…、本当に良かったっ。三郎が死んじゃうかと思ったっ」
「死ぬ訳ないでしょ、珍しく心配してくれたんだったね」
「うん、珍しくね」
「本当、俺に対しては生意気なんだから」
モモちゃんの頭を乱暴に撫でながら、1枚の資料を手に取る。
「何故、四郎とモモちゃんが別行動を…。おい三郎、どう言う事か説明しろ」
分からない事を聞かれて心底、ボスに対して腹が立ってきた。
遅れて来た癖に、俺に対して文句をつけて来ているように見える。
「椿恭弥に呼び出されて四郎君が付いて行ったんだよ、兵頭雪哉」
そう言ったのは緑髪の男だった。
「お前は…、七海の身内の天音だったか。何故、お前がここに?」
「マスターからの命令で来ただけだ。それよりも、四郎がいない事の方が問題じゃないのか」
プルルルルルルッ!!!
天音と呼ばれた男の声と重なるように、部屋に備え付けられていた電話が鳴り響く。
ボスは黙ったまま受話器を取り、耳に当てた。
「誰だ、お前」
「あ、その声は雪哉さんですね・僕の声、分かります?」
「椿…、四郎をどこにやった。お前が連れ出した事は分かってんだ」
「脅そうとしても無駄ですよ?四郎君はうちの子になりましたから」
受話器越しから椿がとんでもない発言をしたのが聞こえた。