テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「前、屋敷って思ってたけど……これは、もう立派な城ね」
「貴族の屋敷は、見栄張る為のもんでもあるからな。どれだけ、デカくて、緻密で、魅了できるものを作らせられるかも、貴族の権力、財力を魅せる一つだからな。すげえ屋敷は目をひくだろ?普通、そんなもの作らせられねえからな。まあ、ダズリング伯爵家は別だ」
「ピラミッドとか、古墳とかと一緒なのね」
「こふ……?何だそれ」
アルベドは、聞き慣れない単語だな、と首を傾げていた。此の世界で、ピラミッドはみたことがないけれど、アルベドの反応を見ると、あるのかも知れない。でも、古墳という単語を知らないということは、日本の存在を知らないのかも……いや、此の世界に、日本という概念があるのかも分からない。だって、乙女ゲームの世界だから。
度々、乙女ゲームの世界であることを思い出しながら、けれど、目に見えているものが全てで、地図で知っているところしか知らない。それが、今私の見ている世界、と私は常々感じながら生きている。ラスター帝国より外に出たことがないし、いったことがあるとしても、ラジエルダ王国だけだし。だから、外の世界がどうなっているのかも分からない。でも、きっと広いのだろう。それだけは分かる。
ところで、誰も出てこないのだけれど、ちゃんとアポイントメントは取ったんだよね、とアルベドを見ると、アルベドも首を傾げていた。まさかとは思うけど、そんなことは……
「アルベド、ちゃんといくって知らせたんだよね」
「ああ、じゃなきゃ来ねえよ。そもそも、この領地に入って……屋敷に踏み入れた時点で、彼奴は気づいていると思うんだけどな」
「じゃあ、なんで出てこないの?」
「さあな」
「さあなって……!」
もう、いい加減な、と私を見ながら、お手上げといった感じて首を横に振るアルベドを見ていると、私も、これ以上何を言っても変わらないと、大人しくしておくことにした。魔法をかけて貰ったけれど、寒いものは寒いし、この屋敷に近付いた途端、さらに温度が五度ぐらい下がった気がする。これも、フィーバス卿の魔力のせいだろうか。
そう考えると、フィーバス卿は、それはもう偉大な魔道士何だろう。それでも、ブライトの家、ブリリアント家が、光魔法のトップ、といわれているのはおかしい気がするし。フィーバス卿は、攻撃系じゃなくて、防御系の魔法に長けているって聞いたし。
「怖いか?」
「怖いって何が?」
「フィーバス卿だよ」
「アンタが怖いんでしょ。私は全然……」
珍しく弱気だなあと脇腹をつつけば、あたり何処が悪かったらしく、アルベドは、脇腹を押さえた。ごめん、と謝ろうとすると、目の前の大きな扉が開いて、そこから冷気がワッとこっちにやってくる。
(さ、寒いっ!?)
魔力だろうか、それとも圧か。分からなかったけれど、私達の方に向かってくる人が、とんでもない人と言うことだけは分かった。さらにまた気温が下がるというか、雪までちらつき始める。一応、ラスター帝国の領土内……常夏の国とかいわれているのに、この寒さは、異常だった。これが、魔力によって異常気象を……という話だと、もっと異常である。言葉がこんがりそうになりながらも、私は二本足で立って、凍えそうな身体を震わせながら、目を見張った。
「屋敷の前で、誰が突っ立っているかと思えば……貴様か、アルベド・レイ」
「ご無沙汰してます。フィーバス卿」
「……」
アルベドが、挨拶をしたので、私も続けて挨拶をする。ぎこちなくなってしまったが、仕方ない。私達の目の前にあらわれたのは、氷山のような男。百九十㎝くらいはあるだろうその屈強な体格と、真っ白な肌に、銀色のウルフカットの髪。シロクマと、狼を足して二で割った感じの怖い男性がそこにいた。
(彼が、フィーバス卿?)
フランツ・フィーバス辺境伯。ブライトとアルベドが恐れ、その魔力を大いに褒め称える男。確かに、威圧感が半端なく、その透き通った透明な青色の瞳で見下ろされたら、全身が凍ってしまいそうだ。そういう魔法をかけているわけじゃないのに、下げた頭が上がらなかった。
「おい、顔あげろって。ステラ」
「顔あげられないのよ。魔法でも使ってるの?」
アルベドに、こそりと耳打ちされるが、私は全身冷えてしまったこともあって、顔を上げることが出来なかった。バカみたいだな、と自分でも思いながら、身体が言うことを聞かない。アルベドは、仕方ないなあ、というように、私の肩を後ろに引いて何とか、身体を起き上がらせる。でも、その最中、ポキポキと鳴っちゃいけない音が全身から鳴る。
「いたたっ」
「ステラ、声でけえ」
「だって、痛い、痛い、痛い!」
そんなやりとりを繰り返していると、ひゅううぅ……と吹雪くように、フィーバス卿の冷たい目が私達を射貫く。
「俺を目の前に、いい度胸だな。貴様が、何処の誰だか知らないが、アルベド・レイ……貴様は随分と落ちぶれたのだな」
「はあ?」
「あ、アルベドって!」
何だか、私の悪口を言われたような気がするが、別に私はどうでもよくて、というか、お見苦しい姿を見せてしまっているので、こっちが今すぐに謝りたいくらいなのに。なのに、アルベドは、私のことを馬鹿にされたからか……いや、言い過ぎ。自分が落ちぶれたとかいわれたから怒っているのだろう。素のアルベドが出てしまっていた。さっきまでは、へりくだった言い方をしていたのに、アルベドは、メンチを切るように、フィーバス卿を睨み付けている。
さっきまで、怖い、怖い言っていた人が嘘みたいだ。
私は、アルベドを抑えながら、フィーバス卿の方を見た。彼は、私と目を合わそうとせずに、冷たい瞳を、アルベドに向け続けている。私になんて興味がないように見えた。
「お言葉ですが、フィーバス卿。一応、俺の連れなんですが?失礼だとは思わないのですか?」
「ああ、全く。愉快犯にしかみえない。俺の前で、茶番とは……天下のレイ公爵家が聞いて呆れる」
「そこまで言うか、普通」
「何か言ったか?」
「いーえ。何も。でも、聞き捨てならねえんだよ。俺はいいが、こいつを馬鹿にするのは」
と、アルベドは、私の前にサッと出る。
やっぱり、馬鹿にされていたんだ、と思いながら、そこまでしなくてもいいと、アルベドの服を引っ張ったが、アルベドは言葉を撤回しなかった。ここで撤回しても、後先考えずに発言した阿呆にしかならないからかも知れない。けれど、いつも守られてばかりで、私は辛かった。守ってくれるのは嬉しいけれど、私がここに来た理由、これじゃいけない気がしたから。
そんな風に思っていれば、ようやく、フィーバス卿の視線が私に移された。透明な青色の瞳は、私を品定めするようで、でも、依然冷たく、感情の伺えないものだった。
「それで、貴様は、何者なんだ」
「わ、私ですか」
「貴様以外誰がいる。俺が、見えない亡霊と話しているといいたいのか」
「いいいいい、いえ!そんなわけないじゃないですか!」
私がいきなり大きな声を出したので、アルベドは、耳をふぐ。しまった、と思いながら、私は、発言してしまったため、次の標的にされる。けれどここで引き下がったら同じことだと、私はアルベドの横に出た。そして、これまで身につけた、最低限、私の中で出せる最上級の形でフィーバス卿に挨拶する。
「……申し遅れてすみません。初めまして。私は、アルベド・レイ公爵子息様に拾われ、ここまでおともしてまいりました、ステラと申します」
これでいいのか分からない。というか、アルベドと私の関係をまた一から考え直すとよく分からなくなる。だから、差し障りのないようにいってみたのだが、フィーバス卿から何も返答が返ってこない。恐る恐る顔を上げると、先ほどよりも冷たい瞳で、いや、全身冷たく冷え切ったような顔で一言いわれた。
「全く理解できないな」