日中はレンが先導して街を歩き食糧や次なる拠点を探し、夜はこの星のことについて康二が教える、という生活を繰り返していた。 そんな中、レンの時折見せる苦しそうな表情に耐えきれなくなった康二は、赤い月が浮かぶ晩に話しかけた。
🧡「……レン」
瓦礫の山の上で月を見上げるレンは、声に反応してゆっくりと振り向いた。
🖤「コウジ……どうしてここに」
🧡「拠点におらんから。探しに来た」
康二は少しもたつきながら瓦礫の山を登り、レンの隣に腰掛ける。しばらくの沈黙。レンはなぜ康二がここに来たのか、少し察したようだった。
🧡「……レンはさ、あの月のこと、どう思っとるん?」
二人の間を、心地よい風が吹き抜けていく。問いかけられてもレンはすぐに答えず、頬を撫でる風に気を委ねていた。それからまた少し経ってから、レンは口を開いた。
🖤「懐かしい。それに、悲しい」
🧡「懐かしさと、悲しさ?」
🖤「そう。……星が滅ぶとき、空に絶対赤い月がある。俺の星も、他の星も……みんなそうだった」
その言葉に、康二は言葉を詰まらせた。
赤い月は星の滅亡の象徴……その上、レンにとっては自分の亡き故郷を思い出すトリガーになっているとは。
自分より多くの“滅び”を見てきたレンは、その全てを見つめ続け、抱えて生きている。自分にはまだ、振り返ることすらできないものを。 経験してきたものの違いに、戸惑った。
🖤「……コウジ?大丈夫?」
🧡「え?あぁ……大丈夫やで」
そう返す康二の脳裏にはあの光景が蘇っていた。血に染まるコンクリート、仲間だったはずの肉塊。目も当てられないほど、跡形もなくぐちゃぐちゃになっていたあの光景。かろうじて残っていた腕の、赤のついたミサンガ。
仲間のことを忘れたことはなかったけれど、この光景だけは忘れていた。……いや、どうしても忘れたかった。
レンは黙り込む康二の顔を心配そうに覗き込んでいる。
🧡「俺さ……この星がこんなになってしもてから、空の色も、風の匂いも、赤い月も、全部嫌になってん。何もかも忘れたかったし、これを夢やと思いたかった」
🖤「……今も?」
🧡「へ?」
🖤「今も、それ感じてる?」
🧡「なくなったわけじゃないけど、レンがおるから大丈夫」
🖤「……そっか」
レンは康二の言葉に少し顔を輝かせた。自分がここにいることの意味を成し得ているとわかったのだ。
🧡「……レンはすごいよな。これまでのこと、全部受け入れて生きてるんやろ?俺にはまだできへんわ……」
康二は赤い月をまっすぐに見つめ、レンの顔を見ることなくそう言った。だから気づかなかったのだろう、レンがまた暗い表情をしていることに。
🖤「……そんなことない。コウジはまだ、誰かを思って生きてる」
🧡「……何でそう思うん?」
康二の胸の内を覗かれたようで、顔がこわばった康二の声色は少し冷たくなる。レンはその変化を感じ取りながら、続けた。
🖤「コウジの声には、色がある。暖かい、太陽みたいな。でも俺にはもう、仲間なんていない……俺の声は、冷たいコンクリート」
そう言ってレンは、足元に転がる瓦礫を見つめた。康二はレンの言葉を聞いて仲間のことを思い出す。たしかに康二の中には、今は亡き仲間たちのことが、共に生活してきたかけがえない時間が強く残っている。
でもそれ以上に、康二は今の自分を形作る新しいものが確かに存在していることも実感していた。
🧡「……コンクリートなんかやないよ」
康二の言葉に、レンは顔を上げる。そこにはレンのことを見つめる康二がいた。
🧡「単語単語でしか喋られへんけど、その中にレンの感情見つけたこと何回もある」
康二は恐る恐るレンの手を握る。
🧡「なあ、レンに見えてる世界のこと、もっと俺に教えてくれへん?……俺がレンの、仲間になりたい」
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