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29 - Episode.29 忘却!セレスティア魔法学園

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2025年10月31日

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Episode.29

忘却!セレスティア魔法学園


セレスティア魔法学園の朝は、

7月の陽光に浴し、星光寮のステンドグラスが青と金の光を食堂に投げかけていた。

生徒たちの笑い声が響き、初夏の風がカーテンを揺らす。

だが、レクト・サンダリオスの姿はない。


第28話でパイオニアが記憶の鏡を乗っ取り、学園から彼の存在が消えた。


ヴェル、ビータ、カイザ、アルフォンス、フロウナ――誰も彼を覚えていない。

セレスティア魔法学園は、レクトのいない日常を淡々と続ける。




教室の片隅で、

ヴェルが唇を噛む。

震度2の魔法で机を軽く揺らし、苛立ちを抑える。


「その魔法ほんと弱っちーよね」

クラスメイトの嘲笑が耳に刺さる。

彼女は俯き、拳を握る。

かつて、誰かがそばで笑顔をくれ、クラスに溶け込む手助けをしてくれた気がする。


第27話のビーチで一緒に笑った記憶も、なぜかぼやけ、心に空虚な穴が空く。


震度2の魔法が机を震わせ、嘲笑が一層高まる。


「やめてよ………っ」

彼女の呟きは、教室の喧騒に埋もれる。


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校庭では、

カイザとビータが教師に睨まれる。

カイザの電気魔法がスパークを散らし、ビータが時間遡行で教師の書類を一瞬巻き戻す。


「また問題を起こす気か!」

フロウナ先生の声が響く。

彼女の目は厳しい。


カイザは舌打ちし、「面倒くせえな」と呟く。

ビータは無表情で魔法書を閉じる。

二人とも、かつて誰かが自分たちの荒々しさを和らげ、仲間として繋いでくれた気がする。

第27話でカイザが海のトラウマを話した相手は、記憶の底に沈む。


一体誰だったのか。



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職員室では、

フロウナが書類を整理し、消臭剤のシトラスの香りに顔をしかめる。

アルフォンス校長は校長室で書類に目を落とし、記憶の鏡を手にしない。

二人とも、レクトの名を口にしない。

サンダリオス家の記録には、レクトという子は存在しない。

そして驚くことに、ゼンが生きている。




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教室の隅で、彼は無言で教科書を眺める。

第4話の毒林檎による死、それによってレクトが負った罪悪感も、今は何も無かったことにされている。

サンダリオス家には、最初からレクトはいなかった。



セレスティア魔法学園の日常は続く。

食堂でヴェルが一人で朝食を食べ、嘲笑を避ける。


カイザとビータは校庭で教師に叱られ、反抗的な視線を返す。


フロウナは生徒たちを見守り、アルフォンスは校長室で黙々と働く。


ゼンは教室の隅で静かに座り、彼は人との関わりを絶っている。


サンダリオス家の記録には、レクトという子は存在しない。


セレスティア魔法学園から、そしてこの世界から、レクト・サンダリオスがいなくなった。





暗闇の中、

レクトは冷たい床に横たわり、目を覚ます。

頭が重く、さっき食べた禁断の果実の味が喉に残る。

食堂で無心に果実を食べ続けた記憶――

バナナの味のようなねっとりした甘さ、

リンゴの味のような酸っぱさ、

ブドウのような弾ける果汁――

が断片的に蘇る。


辺りは光のない虚空で、壁も天井も見えない。


果実の瘴気が体に絡みつき、動くたびに重い鎖のような感覚が襲う。


「ここは……?」


声は闇に吸い込まれる。


レクトは立ち上がり、

出口を探して手を伸ばす。


だが、指先は空を切り、足音が虚しく響く。



「ヴェル! カイザ! ビータ!」


叫んでも、返事はない。

仲間と笑った時間が遠く、胸に空虚が広がる。

暗闇の奥で、炎の光が揺らめく。


パイオニアが現れる。


黒い瞳は自我を失う闇そのもので、

炎魔法は不自然に脈動し、黒い瘴気が混じる。


「無駄だ、レクト。」


パイオニアの声は低く、父の面影を欠く。


「やっとこの体と人格の適合に成功した。パイオニアは足掻いて面倒だったが、とうとう私のものだ。」


笑い声が暗闇に反響し、炎が一瞬大きく燃える。


レクトは後ずさるが、足は鉛のように重い。



「やっぱり父さんじゃないんだ。誰だ!?

いつから……!」




パイオニアの姿をした男は唇を歪める。


「私はサンダリオス家の野望を叶える者。

禁断の果実の瘴気が、私をこの体に呼び込んだ。」


彼の手には、

不気味な果実が光る。


「レクト、俺と一緒に世界を滅ぼそう。グランドランド、シャドウランド、ストームランド――フルーツ魔法で全てを焼き尽くす。

お前は私の傑作だ。」



レクトの胸に恐怖と無力感が広がる。


アルフォンス校長とカイザで掴んだ感覚制御も、今は遠い。


体は果実の瘴気に縛られ、意思が薄れる。


「…………にしろ」


声は弱く、闇に溶ける。


パイオニアの炎が近づき、熱が肌を刺す。


「聞こえなかったぞレクト。もう一度」



「いい加減にしろって言ってんだよ!!!!!」



……!


レクトは怒りを露わにするが、体の重さは変わらない。

「抵抗は無意味だ。世界は私のものになる。」


「父さんじゃないなら躊躇はいらない、絶対にお前は倒す!!!!」



次話 11月8日更新!


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