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~その日の夜~
はぁ、今日はいつも以上に疲れた一日だったな。俺にばっか仕事を押し付けやがって。それに設楽さんが長い間オフィスから出ていたから憂鬱だった。
俺がアパートに着くと、スーツを着た男が立っていた。彼は俺に気がつくと俺の元にやってきて、こう話しかけてきた。
「初めまして島田様。私MDC社の清水と申します。この度は当社のサービス、[あなたの夢を正夢に!]をご利用いただきまして誠にありがとうございます。本日は明日のサービスに関しまして、いくつかの確認事項がありますので、ご自宅にお伺いさせていただいております。」
丁寧な人だな。清水という男は俺に資料を渡すと、今回のサービスのプランを説明し始めた。
プランは確かに俺が夢で見た内容とほぼ一致しており、このプラン通りいくのであれば文句はないと感じた。そして俺は気になっていたことを彼に聞いた。
「その、今回のサービスの料金っておいくらになるのでしょうか?」
清水はこう返した。
「今のところ確定している金額は150万円になります。分割払いもできますがどうなされますか?」
はぁ?!150万?いきなりそんな金額言われてもな!俺が顔をしかめていると清水はこう言った。
「ヘッドギアに同封していた注意書きに大体の目安の値段を記載していたはずですが。お読みになっていませんでしたか?申し訳ありませんが今からのキャンセルですと、キャンセル料として80万円をいただくことになっていまして…。」
まじかよ。それならプラン通りやったほうが良さそうだな。
俺はひとまず確定している150万円を25回払いにして契約した。最後に明日の朝食の準備のため、部屋の鍵を渡した。
帰り際、清水はこう言った。
「島田様の夢を実現するために、我々スタッフ一同全力で取り組みさせていただきます。島田様にとって忘れることのない素晴らしい一日になりますよう、明日はどうかよろしくお願いいたします。」
~次の日~
朝6時。俺は目覚ましで目が覚めた。リビングからバターの良い匂いがする。テーブルには俺が夢に見た理想の朝食が並んでいた。俺は席につき、朝食を食べ始めた。
あぁ、美味いなぁ。こんな立派な朝食を食べるのなんていつぶりだろうか。俺は朝食を食べ切ると会社に行く支度を済ませてアパートの駐車場に向かった。
駐車場にはリムジンが停まっており、横にはスーツを着た運転手が立っていた。俺がリムジンに近づいていくと、運転手は「島田様、お待ちしておりました。」と言い、ドアを開けてくれた。
リムジンの中はとても広く綺麗で、まるで自分が大企業の社長になったような感覚だった。いつもの満員電車と比べると天と地の差である。運転手の運転も丁寧で、あまりにも車内が心地よく、起きたばっかりなのに眠たくなってしまった。
昨日も遅くまでやり残した仕事をやっていたからな。まぁ、今日ぐらい通勤中に寝てもいいだろう。
「島田様。会社に到着いたしました。」
俺が運転手に起こされると、リムジンは会社に着いていた。なんて贅沢な出勤であろうか。俺は運転手にお礼を言い、会社に入って行った。
自分のデスクに着くと部長が待っており、俺にこう言った。
「きょ、今日はし、島田くんの仕事は俺がやるから、後輩の指導、よろしく!」
なんか言葉がぎこちないが、まぁ夢通りではある。こんなこと部長も本心な訳がないわな。
俺が後輩の指導をやっていると、設楽さんが近づいてきてこう言った。
「島田くん。ちょっといいかな?自販機前に来て。」
あれ?夢のプランと少し違うような。俺は彼女に呼び出され自販機前に行った。そして彼女は俺にこう言った。
「昨日MDC社の社員さんがやってきてね、島田さんの夢を再現に協力してって言われたの。協力金として25万円も貰ってる。」
おいおい!それを俺に言ってもいいのかよ!設楽さんはこう続ける。
「島田くんのためなのかもしれないけど、私本当はこんなことしたくない!私が引き受けたせいで今も受付で… いや、このことは島田さんに話すべきじゃないか。今から島田くんに25万円を渡すから、もうこんなことやめようよ。明日にはいつも通りに戻るんだよ?だから今日こんなことしたって意味がないよ!」
そうか、そうだよな。俺は設楽さんの気持ちなんて全く考えてなかった。なんて愚かなことをしていたんだろう。
でも俺は彼女の要求を飲むわけにはいかない。俺はこう返した。
「ごめんね設楽さん。俺は設楽さんの気持ちを考えずにこんなことをしていた。本当にごめん。でもね、MDC社の人達は僕の要望に応えるために頑張ってくれているんだ。今から今日のプランを中止するって言ったら彼らに申し訳ないよ。だからお願いだ。今日だけはプラン通りに俺に付き合ってほしい。」
俺の言葉に彼女はこう返す。
「そう、だよね。私こそごめん。お金も貰ってるのに自分勝手だよね。実はね、私彼氏いるんだ。といっても私は別れたいんだけど、彼は束縛が激しいタイプだから。お金もせびられて生活も苦しいの。だから25万貰えるんだったらって引き受けちゃって。ごめん。こんなこと島田さんに言うべきじゃないよね。」
知らなかった。いつも明るく元気な彼女が、こんな思いをしていたなんて。俺は彼女の告白にこう返す。
「俺でよければ力になろうか?設楽さんを巻き込んでしまったお詫びもしたいし。」
彼女はこう返す。
「大丈夫だよ。これは私の問題だから、私が解決しないと。せっかく島田くんが今日を楽しもうとしてたのに、こんなこと言っちゃってごめんね。夜ご飯連れて行ってくれるんだよね。今日ぐらいは美味しいもの食べて、二人で嫌なこと忘れよ!」
設楽さんは本当に強い人だな。今日は彼女の言葉に甘えるとしよう。俺たちはデスクに戻ると、夜になるまでプラン通りに半日を過ごした。
~夜~
俺と設楽さんはレストランにいる。レストランの客は高級そうな服やバッグを身につけており、明らかに会社帰りの俺たちは浮いていた。
周りの様子を見ながらレストランに入る前、俺は設楽さんにこう言った。
「設楽さん、俺たち浮いているよね?」
設楽さんはこう返す。
「そうだね。死んだメダカのごとく浮いてるよ。」
設楽さんの言葉を聞いて俺は思わず笑ってしまい、それを見た設楽さんも俺と一緒に笑ってくれた。
俺はあえてプラン通りのコースではなく、一つ位の高いコースを頼んだ。後で請求される金額は増えるかもしれないが、これは設楽さんに対する償いのためだ。
もうこれから一生食べることができないかもしれないような、豪華な夕食を食べながら、俺は設楽さんにこう聞いた。
「設楽さんはこれからどんな人生を送りたい?」
彼女はしばらく考えてこう返す。
「まだそんなにしっかりは考えてないけど、とりあえずは私と歩幅を一瞬に歩んでくれる人と結婚して、余裕ができたらいろんな人の夢を叶えてあげて、その人を幸せにできるような仕事をしたいかな。」
そして彼女はこう続けた。
「でも島田くんが受けてるサービスのような、仮初の夢を叶えるようなことはしたくない!一日限りの夢を叶えたって幸せにはならないよ。」
彼女の言葉を聞いて自身の愚かさを痛感した。俺は先の見えない未来を変えようと思って、今日1日だけの夢を叶えてもらおうとしていた。
だが今日1日の夢を実現しようとすることでさえ、俺はサービスに任せて俺自身は何もしようとしなかった。そんなことで未来が見えてくるわけがない。俺は彼女にこう言った。
「設楽さんのおかげで自分の愚かさに気づけた気がするよ。俺もこれから気持ちを入れ替えて頑張る。本当にありがとう。」
彼女はこう返す。
「島田くんは愚かなんかじゃないよ!いつも大量の仕事を押し付けられても真面目に頑張ってるし、私なんかと仲良く話してくれるの島田くんぐらいだから。私周りに合わせるの苦手だからあんまり仲良い人もいないし…」
設楽さんはこう続けた。
「だから、私は島田さんみたいな人と付き合いたいかな!」
彼女の急な発言に俺は戸惑いながらこう返す。
「し、設楽さん?これってサービスの演出?」
彼女はこう返す。
「これは私の本音だよ。まぁ、あんまり気にしないで。それより私たちキスしないといけないんだよね?早くやろ!」
設楽さんに恥ずかしさってものはないのか!?まぁでもMDC社の人達も向こうで見てるだろうし、やらないとな。
俺は設楽さんの顔を支えながら、彼女にキスをした。そして遠くにいるであろうMDC社の人たちに感謝を込めて、ちゃんと聞こえるようにようにこう叫んだ。
「正夢、サイコー!!!」