コメント
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コメントありがとうございます!そうな風に言って頂けると、本当嬉しいです!😆
透子ちゃんの今後がどうなるのかわくわくです!キャラクターも皆個性があってみんな好きです//
「こんばんは、透子さん。ご無事で何より」
部屋には、今夜もミヤマさんが現れた。
ご無事で、という所が引っかかった。
「透子さんには、優秀なナイトが付いていますね。私達も、方法を考えなければなりません」
やっぱり、今日のアレは、ミヤマさんが関係しているのだろうか。
下校時、私は危うく怪我を負い掛けた。路地を走行している車が、突然フロントガラスにぶつかって来た鳥に驚きハンドルを切り、たまたまそこに居た自転車に接触しかけたのだ。自転車の運転手は、慌てて避けたものの、曲がり角をたまたま曲がり掛かっていた私に驚き、ブレーキが間に合わず無理矢理ハンドルを切り、私に向かって倒れて来た。
本来ならば、私は何らかの怪我をしていたのだが、これまたたまたまそこに通り掛かった雅彦に助けられたのだ。私は無傷、雅彦も制服が少し破れた程度で怪我は無い。車の運転手も車も問題なく、自転車の運転手が少し手を擦りむいた程度で済んだ。
運が良かったのだ。下手をしたら大事故だった。
「ミヤマさんがやったんですか?」
私は聞いた。
あの時、カラスの声がした。車のフロントガラスにぶつかった鳥は、カラスだったのではないか。
「私が、ですか?何を、でしょうか」
とぼけたようにそう言うミヤマさん。口元を押さえて肩を揺すっている。笑っているのだろう。
「気付きましたか?私が『カラス』だと」
そう言って、私を見てきた。グラデーションの眼鏡の奥の、赤い斑点の三白眼で。
「そうです。私はカラスです。ミヤマガラスです。次は、もう少し頭を使って、透子さんの羽を震わせて見せましょう」
言いながら、私の背後に回り込んだ。
「ああ小さい。小さくて醜い羽だ。いっそもぎ取って、私の黒く美しく、大きな羽にすげ替えたい」
窓の外から、激しい羽音と、カァカァと大きく鳴く声が響いてきた。
「ええぃ煩い!産卵前だからとそう荒ぶるな!」
ミヤマさんが苛立った声で、外のカラスに向かって言う。
「では透子さん、また明日」
そう言って、黙る。背後で風が動いた。鳥の羽ばたく音が、背後から窓へと向かって動く。外にいたカラスと、もう1羽のカラスが、連れ立って飛んで行った。
部屋の中には、黒い羽が一枚落ちていた・・・。
翌朝、家を出ると、先を歩く雅彦の姿が見えた。
「雅彦!」
名前を呼びながら私は駆け寄った。
「昨日はありがとう。助けてくれて。何処か痛くなった場所とかない?制服直った?破れてた所。大丈夫?」
雅彦の周りを一周回って確認した。砂まみれだった制服は綺麗に払われて、破れた所も目立たないように補修されていた。
「透子、おはよう。落ち着いて。俺は大丈夫」
慌てた私を宥めるように、雅彦はゆっくりそう言った。
「良かった」
ホッと息を吐く。
「透子は大丈夫?」
「うん。問題無い」
体は大丈夫。精神的には参っているけども。
「そう、良かった」
雅彦も、ホッと息を吐いた。
「何かさ、最近透子ついてないよね。風邪に怪我に事故。お祓いでもしてみたら?」
確かに、悪いモノに憑かれている気がする。いや、気がすると言うか、憑いている。
「お祓いって、カラスにも効くのかな」
「カラス?」
うっかりカラスと言ってしまった。
「あ、うん、そう。昨日の事故の原因。カラスかな?て」
誤魔化すような言い方をしてしまう。別に隠す事もないのに。でも、こんな変な事に、関係ない雅彦を巻き込むのも申し訳ないと思ってしまう。
「そう言えばそんな事言ってたな」
昨日の事故の経緯を思い出しているのだろうか、雅彦は考え込むような表情になった。
『優秀なナイトが付いていますね』というミヤマさんの言葉が思い出される。
うん、巻き込む訳には行かない。
「雅彦も気を付けてね。カラスに襲われない様に」
「おう」
校門前では、先輩が仁王立ちで私を待ち構えていた。
「透子ー、おはようー」
挨拶をして、私と雅彦の間に割込む。
「元木君、昨日LINEで言ったよね?透子と並んで登校するなって」
私と手を繋いで、雅彦を睨みながらそう言う。
・・・LINE交換したんだ・・・。
「先に出たんですが、追い付かれました」
無表情で言い返す雅彦。何だか、私の知らない間に仲良くなってる?
「これから気を付けてよね。透子ちゃん行こ」
「はい」
そして、昨日と同じく教室まで先輩と一緒に行った。
「じゃあ、また放課後ねー。今日は一緒だよ?」
別れ際に、頭を撫でながらそう言われた。私は笑顔で頷いた。
そして放課後、私は先輩と一緒に駅前を歩いた。
「この間の遊園地の時、礼央先輩が履いてたみたいな靴が欲しいんですよ」
という私の希望に応えて、大通りのスニーカーショップを覗いたり、
「新作のスウィーツが食べたいよね」
という先輩の行きたいお店で休憩したり。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
そして先輩は、自転車を引いて私を家まで送り届けてくれている。
すっかり日も暮れて、もうすぐ星が出るという時間帯だ。人通りもまばら。
「本当は今日、もう一件行きたいお店あったんだけど時間無かったな」
「じゃあ、また今度行きましょうよ」
そんな話をしていると、道路を挟んだ向こう側で立ち止まる人影があった。
気になって目を凝らすと、覚えのあるシルエット。
「透子・・・」
シルエットの主は私の名前を呼んだ。
車の影の無い道路を走って渡って来る。
近付くにつれてはっきりしてくるそのシルエットは、和樹の物だった。