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前書き
今回の話は、
『5.妹(挿絵あり)』
『12.安置とアンチ(挿絵あり)』
『129.悪魔の階段』
の内容が関わっています。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います^^
肉が詰まっていた為に表情には出なかったが、ニッコリと微笑んで言ったコユキを前にして、慌てたようにアヴァリティアが問い掛ける。
「むぅ、だったら名声は? 人気だけじゃないよ、高い名声は望めば権力だって手に入れられるよ! 思いのままなんだよ? 欲しいよね?」
「それな! 普通の人はそういう物に憧れるんだってね、でもアタシはもう充分、お腹イッパイなのよね」
「ば、馬鹿な! そのナリで『名声』が要らん、だと……」
このデブなら今度こそイケる、名声に付随(ふずい)する『モテ』を拒絶できる訳がない、そう踏んでいた『強欲のアヴァリティア』は多少キャラを崩した返事をしてしまったのだった。
その事にも気付く事が出来ない様で、男性それも大人の様なムードで頭を抱えたアヴァリティアに対してコユキは話を続ける。
「ふぅ、毎年よ、毎年…… 夏になる度に女達からの羨望(せんぼう)の眼差しに晒(さら)されるのよ! 男達なんてもっと露骨に目を見開いて遠慮なく好奇、嫌らしい視線を送って来るんだから…… 妹達に誘われて海水浴なんて出かけた日には、まあ軽くパニックになっちゃうわけよ」
やれやれと言った感じで両手を広げ肩をすくめたコユキは言葉を重ねる。
「それ位ならなんとか我慢出来たんだけどね、去年なんかストーカー被害と下着ドロボウよ? 実害出ちゃってるわけよ…… まあ、そのストーカーもチラッとみた感じハーフっぽいイケメン、金髪のチョイ悪そうな男だったんだけど、下着盗むとか流石に引いたわ、ドン引きだったわよ! その上、お巡りさんが来たら、上手い事逃げ果(おお)せちゃって、誤魔化す為かアタシのパンツだけ返してあったのよ! そのせいで自作自演とか疑われちゃったりして、警察への信用失墜するし、もう最悪だったわ! 他にも最近なんか、母親に泣きついたんでしょうけど、家族経由で写真送りつけて来たりする男も居たりして、アタシを欲する必死さに恐さすら感じたのよね。 こないだも、動物園を歩いていたら二人連れの男から声を掛けられちゃってね~、ねえ、信じられる? その男たちって、なんと勤務中の警官だったのよ~、もう見境無くてビックリしちゃったわー!」
「ホント、かよ?」
「本当なのよ、これが! まあ、ノブレス・オブリージュって言うの? 見目よく生まれついた者の宿命? 有名税みたいなものだから仕方がない事なんだけどね…… そう言う訳で『名声』とか『人気』とかは間に合っているのよ。 生まれつき持っていない人からしたら欲しいんでしょうけどね、私には不用だわ、ってか寧ろ(むしろ)誰かにあげちゃいたいモノなのん」
「……じ、じゃあ、権力はどうだ? 自分の思うままに国を、いいや望めば世界すら動かせるだけの人望を与えてやろう!」
もうすっかりおっさんぽい喋り方になってしまったアヴァリティアが絞り出すように叫んだ。
「…………アタシに働けってか?」
「っ!」
アヴァリティアは瞬間で理解したのだ、この階にいるという事は当然三階の怠惰(たいだ)ゾーンを越えて来ているという事だ、と。
あの理屈屋で通っていたアセディアが言い負かされたとは考えにくい、ならばコイツには勝てないと判断して道を譲ったのだろう、次に浮かんだのはこの事だった。
そして結論に辿り着いたのだ、こいつはアセディアに勝つほどの怠惰、難しい言葉で言えば『ナマケモノ(イツツユビ)』なのだ! と……
結論に辿りついたアヴァリティアは改めてコユキの姿に注目した、上から下までじっくりと……
そして、溜め息混じりに口を開くのだった。
「一応聞いとくけどさ…… 『保身』? 長寿と健康とか――――」
「アンタ、人の家族を身動き出来なくした悪魔の店子(たなこ)の癖に、良く言えたわね!」
怒鳴られてしまった。
まあ、本当に一応聞いてみただけで、コユキの全身を覆ったお肉を改めて目にしたアヴァリティアは、健康とか長寿とか考えてる訳ない、所謂(いわゆる)命知らずなんだろうな、と最初から思っていたので割と微ダメで済んでいたのだった。
とはいえアヴァリティアの心中は、
――――ふぅ、万策尽きたか……
であった。