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そして図書館を出て執務室に戻り、魔法書をアディに渡した。
しばらく黙々と魔法書を読んでいたアディだったが、次第にニヤニヤと変な笑いを浮かべてデスクの正面に立つエメラを見上げた。
「ふぅん、魅了ねぇ……エメ姉ってば可愛いなぁ。そんなに僕に使ってほしいんだ」
「……え!?」
思いがけないアディの言葉にエメラは驚愕する。
魅了が書かれた魔法書は持ってきていないはず。これではエメラがアディに激しい愛を求めているように見えてしまう。
思い当たるのはクルスしかいない。先ほど魔法書を手渡した時にすり替えたのだろう。
その意図は分からないが、そ知らぬ顔でクルスが会話に入ってくる。
「でも、アディ様とエメラ様は婚約して両思いなのに、魅了を使う意味はあるんですか?」
エメラにしてみれば、両思いと知ってて追いかけてくるクルスの方が意味が分からない。
しかしアディは楽しそうだ。
「クルスくん、いい質問だね。エメ姉、説明してあげて」
「……はい。魅了の魔法は『希少種の繁殖』を目的とした使用は合法です。魔獣界では主に両思いや婚約者どうしで使用されますわ」
魅了は、相手を惚れさせるだけの魔法ではない。
両思いどうしで使用する事で愛を深め、繁殖を促し補助する。希少種だけが住む魔獣界だからこそ合法となる魔法なのだ。
魔獣界での結婚の条件である『婚約中に懐妊する』という掟も、この魔法によってハードルは低くなる。
エメラの説明を聞いたクルスは納得した様子で感心している。
「へえ、愛を深める……素敵な魔法ですね。その効果は知らなかったです」
「乱用は問題も生じますし、秘密にされる方が多いのですわ」
エメラとクルスが会話している間も、アディは魔法書を真剣に読み続けている。
「エメ姉、早速だけど、魅了の魔法を教えてよ」
「承知致しました……」
確実に自分に使われる魅了をアディに教えるなんて、気恥ずかしい事この上ない。しかしどの道、いずれアディは魔獣王として全ての魔法を習得する必要がある。
しかも横からクルスが入り込んできた。
「よろしければ、僕にも教えて下さい」
エメラはクルスの方を見るが、呆れてツッコミもできない。まさに開いた口が塞がらない。
(貴方にお教えする訳ないでしょう!!)
図々しいという問題ではない。この状況でクルスにまで魅了を使われたら、さらに状況は混乱する。
しかし先にアディが口を出してきた。
「あぁ、クルスくん、もしかして例の『想い人』に使いたいの?」
「はい。ライバルには負けたくないんです」
もう、どこをどう突っ込んでいいのかも分からない。
クルスの想い人はエメラの事だし、クルスのライバルはアディの事だ。しかしクルスは、なんと怖いもの知らずなのだろうか。
「うんうん、健気でいいね。じゃあ、一緒に魅了の魔法を習得しようよ」
「はい!」
恋敵どうしが意気投合してしまった。この二人に自ら同時に魅了を教えるという行為自体がすでに羞恥プレイだ。
こうして、エメラによる魅了の魔法の伝授が始まった。
アディは仕事のデスクに着席したままで、その横にクルスが立つ。
二人の正面にエメラが立ち、魅了の基礎を語る。
「魅了の魔法をかけるには、相手に自分の魔力を流し込み、取り込ませる事が必要ですわ」
アディは授業のようにノートを取りながらエメラの話を聞いている。
「ふぅん、魔力を取り込ませる、か。一番効果的な方法は?」
「…………」
ここで急にエメラの発言が止まったので、アディもクルスも黙ったままエメラの返答を待つ。重い沈黙が執務室を包む。
ようやくエメラは意を決して口を開く。
「口移し、ですわ……」
愛し合う者どうしであれば簡単な事。しかし片思いならば略奪しなければ成功しない。
狂愛のアディと、執愛のクルス。
色んな意味でエメラの唇の争奪戦も激化しそうであった。
コメント
1件
あ〜もう、この話ほんとにもうっ!(笑) アディとクルスが恋敵同士なのに「一緒に学ぼう」ってなるの、意味わかんないし面白すぎる😂 しかもエメラが「口移しですわ」って言い淀むシーン、めっちゃ可愛くてニヤけちゃった… 魔獣界ならではの合法な魅了って設定も、しっかり考えられてて好きです。 次の展開がすごく気になる…!
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