この世界は残酷だ。
周りに合わせ笑ったり、時にはやりたくないことまでやらされる、そんな世界。
正しい人ほど法律では裁けない罪に侵される醜い世界。
誰しもが平等を願った。しかしその願いはいつも、神に最も近いとされる人間だけだった。
誰しもが平和を祈った。しかしその祈りはいつも、どこかの星屑と化して落ちていく。
誰かが誰かを愛さなければ、誰かを嫌わなければ何事にも優越を付けられない世界。
太陽が見えないこの世界は、人を照らすことを知らない。
醜い社会下に置かれ、弱きを理由に命を投げ捨ててしまったものの為に、僕は今日も世界を恨みながら息をする。
眠る夜の街にはいつも洒落た服装のサービスマンたちが踊っている。
頭を垂れる人混みの中を、何事もなく淡々と進み、生気を失くしたような人間に声をかけ、誘惑する。
生気を失った人は喜んで着いて行く。例えそれが「一生抜け出せない沼」だったとしても、溺れて、落ちて、奈落の底に叩き落されることを自ら望んでアヒルのように着いて行く。
社会に揉まれすぎたんだ。
社会に飲まれすぎたんだ。
「暇を持て余す時間なんて無い」、スーツケースを片手に握る彼は電話越しにそう語った。
ならば、現在進行系で深夜の公園トイレ、便器に顔を突っ込んで僕は一体何をしているのだろうか。
未成年でありながら流れに任せて酒を煽り、下手な理由を付けては流れから外れ、一人虚しく吐くばかり。
嗚呼、僕も結局、彼らと同じ生気を失った廃人と化してしまったのだろうか。
腹の底から来る吐き気を一気に吐き出す。
吐瀉物が音を立て、便器の中で飛び散る様を見ながらレバーを押す。
盛大な音を立てて流れる水を見ながら、自身の行っている行動に、失っていた羞恥心が湧き上がってくる。
理由を付けたまま、いっそこのまま居なくなってしまおうかと考えた時、ふと、視界の端に位置していたベンチに力なく座る一人のサラリーマンが目についた。
彼も疲れてしまったのだろうか。
考えが浮かんだ時には、すでに彼の側に立っていた。
「…ん」
眠っていたのだろうか、メイクかと疑うほどに黒く、深い隈を作った彼はこちらを見る。
「おや、私はまだ夢を見ているようだね…」
頭を抱えたまま苦笑いを浮かべる彼は、再度ゆっくりとこちらに視線を向ける。
珍しい、紫色の瞳。
「…君は」
『死神かい?』
僕は精一杯の愛想笑いを浮かべた。
「そうかも知れませんね」
コメント
5件
トイレに顔を突っ込んでるって、書かれててびっくりしてその次ら辺見て『そういうことね?!』ってなりました…頼むから社畜…休んでくれ…
紫色と言えばあの人だね。ていうか一番初めに出た例えが死神ってどれだけ疲れて…
紫…あの人なのか…?