テラーノベル
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「本日をもってシルヴィア・ローレンとの婚約を破棄する!」
それは絢爛豪華なパーティー会場で起こった一幕。
滑らかで美しい音楽がピタリと止まり、華やかな空気からぴりついた空気が会場に漂う。金髪碧眼のフィリップに、ピンクのふわふわな髪の可愛らしいヒロインのユーナ・シノハラと、相対するのは悪役令嬢の私だ。
よくあるゲーム終盤で、悪役令嬢が断罪される王道パターンだ。不運にも悪役令嬢に転生したシルヴィアは不敵に笑った。
(この日がついに来た!! 第二の人生のためにも悪役を演じきってみせるわ!)
私ことシルヴィア・ローランは、幼少の頃から王子フィリップ・エル・シャトレの婚約者候補筆頭とされ、十八歳を迎える年に正式に婚約者となる──はずだった。しかしその間際で、王子は婚約者候補ではない平民出身の少女と恋に落ちた。私が王妃になるため努力する間、馬鹿王子とヒロインの少女は学院生活を謳歌していたのだから、百年の恋も冷めるというものだ。
だが王族と貴族の結婚は政治有りき。惚れたという理由だけで覆されることはない、そう本来ならば。
今回に限ってはヒロインのユーナが、この国を守護する《三女神の乙女》というアドバンテージを持っていることと、ヒロイン補正によってシナリオ通りに物事が進む。
どう動いても『悪役令嬢のシルヴィアが悪い』とシナリオ設定通りに収束する。そう転生してしまった私は分析して、ある結論を出した。
であればラスボス展開のフラグをへし折って、逃げるだけ。
「婚約破棄の件、承知いたしました」
「そうか。父上にも報告済みだ、お前には国外追放を言い渡す」
「かしこまりました」
シルヴィアは騒ぎ立てず、「よっしゃ!」と心の中でガッツポーズをしつつ、淑女の鑑として優雅に一礼する。
長い白銀の髪を靡かせ、空色の美しい瞳に、透き通るような肌、少しだけ胸を開けたガーネット色のドレスは、金と銀をちりばめた刺繍が上品に施されまさに婚約者筆頭に相応しい対応をする。
そうして華麗に幕を引いてみせた。
罪を認めて、国外追放から冒険者ライフを楽しむための研鑽を積んできた。そのため断罪イベントの中で、国外追放ルートを選んだ。
後はこの場を去るだけ──だったのだが。
「ちょっと待ちなさい!!」
ヒロインらしからぬ声に耳を疑った。すでに断罪イベントは終了しているので、私が退室すればエンドロールなのだが何を待てと言うのだろうか。
周囲もユーナの発言にざわつく。
「悪役令嬢がラスボスなんだから、倒さなきゃ経験値貰えないじゃない!!」
「ユーナ?? けいけんち? なんのことだ?」
(……あ。彼女も中身はヒロインじゃなくて転生者っぽい?)
小声で『ステータス』と呟いた途端、透明な板が展開して私のステータスに視線を移す。ユーナは何をしているかわからないようで、その反応からして私のステータス画面は見えていないのだろう。
シルヴィア・ローレン
レベル:100MAX
HP:49,999
MP:0*
役割:悪役令嬢(国外追放)
能力:鑑定眼、武舞、浄化、身体能力強化、空間収納、神代言語
魔法:治癒魔法、第五元素魔法、防御魔法、魔法武器転送
「………………………………」
MPゼロなのに魔法が使えるってどういう意味なのか。これは一つ仮説を立てた。万が一、断罪イベントで逃亡が出来なかった場合の保険でもある。
「ケイケンチ? ナンノコトデショウ」
「とぼけないで! この後の戴冠式までにレベルが上がらないとグッドエンドになりかねないのよ!」
この乙女ゲームのエンディングは好感度や選択肢、そして試練とレベリングによって決定する。やりこみ要素と周回周りがえぐいので、プレイしていたときは結構しんどかったと思う。それでも私のように魔物の洞窟討伐とか、王家の魔物討伐遠征とかに出ていれば攻略キャラやレベルは一定数上がる。
(まさか……)
思わずユーナとフィリップ王子を鑑定した結果。二人ともレベル2。
(レベル一桁ってなに!?)
なんとなく察した。元々このバカ王子は政務は私や配下に丸投げで、学院生活をハメを外す自由な時間だと勘違いしたのだろう。
そしてユーナはヒロインでありながら、レベル上げの試練を全て無視した。この分だとチュートリアルバトルもしてない気がする。
「(次の世代の国のトップがコレだとは、早々に滅ぶな。まあ私にはもう関係ないけど)私には預かり知らぬところ。私の役割は国外追放と決定しましたわ」
「そんなのおかしいわよ! 王子、あの女の罪を重くして! 簡単でしょう!」
「えっ? いや……」
無茶苦茶な要望に、フィリップ王子も流石に眉を顰めた。彼としては婚約破棄から恋人と華々しい婚約者の公開。皆から祝福されると思っていたのだろう。
乙女ゲームのご都合主義でエンディングまでは、お花畑モードでも良かったかもしれないが、エンドロールの後も人生は続く。
現実味を帯びてきた現状に、王子は危機感を多少なりとも覚えたのか、顔が真っ青だ。
「いや……こんな公の場所で……何を」
「私がヒロインなんだから、スカッとしないと気が済まないわ! 今日のためにいろんなことを耐えてきたのだから」
「耐えたって何を?」
「貴女からの嫌がらせよ! 学院で散々嫌がらせをしてきたじゃない」
それはシナリオの強制力であって、私は何もしていない。だから、と去る前に真実を教えてあげた。
「私はその隣のいる王子の政務と、魔物討伐で急がしたかったの。学院にはテスト期間しかいませんでしたわよ?」
「「え?」」
「私がしたことのして公爵家の分家や他の貴族令嬢が嫌がらせをしていたのなら、今後私がいなくなってもソレは終わらないんじゃないかしら? グッドエンディング後も人生は続くのからだ」
「えっ、なっ」
「それではごきげんよう」
「──っ!?」
ユーナは顔を真っ赤にしてすぐに感情的になる。コレでは他の高位の貴族からも馬鹿にされるされるでしょうね。ゲーム中に淑女としての教育が終わっていれば、令嬢としての対処もできていたでしょうに。王子も今回のろくに調べもせずに切り捨てる対応は、臣下にとって思うところが出てくる。何より私が肩代わりしていた仕事が戻ってきた時には、誰がこなすのか。
私は悪役令嬢らしく、彼らに素晴らしい時限式爆弾を贈らせていただいたのだ。
改めて彼らに令嬢として一礼する。
ユーナがまだなにか叫んでいたが、知ったことではない。ヒールの高い靴のまま全速力で駆け出そうとしたが、ポンと私の前にテロップが現れる。そういうのいいんだけど。
ヒロインが たたかたくて うずうずしている!
→戦いますか?
逃げます
二択が出てきたので、迷うことなく逃げるを押した。
逃げられません!
(じゃあ、その選択肢用意するな!!)
イラっとしたけれど、この世界。いやこの国のご都合主義による強制力はよく分かっている。
乙女ゲームに沿って物語を編むことで、この国中の結界を維持している。そういう類の術式の強制力は凄まじい。私が悪役令嬢から抜け出すことができなかったように、他の分岐点やレールが用意されていない狂った茶番劇。
でもゲームシナリオ自体はすでにエンドロールになり、分岐点も終了した。つまり今が強制力が弱まるターニングポイント。
私が転生した時から、アイテムボックスは付与されていた。そしてその中に文字化けした指輪がある。それは私が転生したと気付くキッカケになった──前世で得たものだ。
(保険だったこの国には存在していない物で、突破口をこじ開けてみせる!)
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#悪役令嬢
#ドアマットヒロイン