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#悪役令嬢
#ドアマットヒロイン
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前世でこの指輪を私に渡した相手は、人ではなかった。「いつか異世界を案内してやる」と話してくれたある人物、というか自称魔王から譲り受けた物だ。
『必ず……見つけ出す……だから指輪は、お前が持っていてくれ……』
転生してからアイテムボックスにある文字化けした指輪を、取り出したことはない。
これは懸けだ。
(ラフェドが、いつかまた出会うためにと渡した物。異世界転移が出来ていた自称魔王の私物なら、この国の強制力を一時的にでも干渉可能なはず……!)
アイテムボックスから指輪を取り出し、右の薬指に装着。発動の呪文はたしか──。
「新しき星の導き」
特に目に見えた変化はなかった。が、それは確実に波紋となってこの国の結界に大きな亀裂を生じさせミシミシと嫌な音を立てる。
パキン!!!
耳をつんざくようなガラスの割れる音が、大合唱のように起こった。
(ぎゃああ! 思ったよりも大事になりそうな予感しかない!)
『ははは!!』
(え?)
『よくあのクソ女神どもの結界を軽快にぶち壊してくれた! なんとも痛快! 愉快だ! なぜ我の魔力が感じるかは──、まあ瑣末なこと! 選択はなされた。彼女こそ最後の聖女候補者にふさわしい』
「は?」
それは何重にも重なった声は、心底楽しそうだった。
(聖女候補って聞こえたような??)
ちりん、ちりん、と鈴の音が重なり響く。
私の心情を無視して勝手に話の展開は進む。しかも急速に。
『最後の聖女候補、貴様を箱庭遊戯の参加者に認めよう!!』
直後、足場に白銀の魔法円が浮かび──その直後、私は色んな転移する形で退場となった。
(は、はあああああああああああ!? 私の第二の人生があああああ!)
予想を超えた結末に、心の中で叫んだ。もっとも声を上げなかったのは、淑女としての矜持というか意地だった。
***
「うわあ……。RPGっぽいような?」
転移した先で目にした光景は、天井から至るところが真っ白で統一された高低差のある巨大な迷路だった。入り口の門にはご丁寧に《原初の迷宮》と記載がある。
驚きこそしたものの、未知なる場所に引きずり込まれるのはよくあったので、冷静に周囲を見渡し観察する。
(この感覚はダンジョンで、ボス階層に飛ばされた転移に似ているわ。拒絶できなかったということは、強制参加型の隠しクエスト? でもあの乙女ゲーム設定に、そんなのなかったはず……。んー、また違う世界? 次は本格派RPGのプレーヤーとか?)
シルヴィアの暮らしていたフォルトゥナ聖王国は、肥沃な大地と恵み豊かな海があり、食べ物には事欠かない豊かなため、他国と交流もない閉ざされた国だった。
乙女ゲームの舞台になる学院で、お家騒動から反政府組織による国家転覆、物騒な事件などの謎解き要素はあるものの、乙女ゲームのプレイ要素にある冒険者ギルドの存在は、廃業しつつあったのだ。
(まあ、クエストの要となる魔獣的なものがダンジョンでしか発生しないから、しょうがないわよね)
このよくわからない場所でも、ステータス画面は開くことができた。
シルヴィア・ローレン
レベル:100MAX
HP:49,999
MP: 8,128
役割:聖女候補者
……
悪役令嬢とあったのが、聖女候補者に切り替わっている。それよりもを驚いたのはMPだ。
(この場所だとMPが0じゃない!? ということは魔法が使える?? ……んー、なんでフォルトゥナ聖王国では魔力がゼロだったのか……。もしかして悪役令嬢という配役だから??)
乙女ゲームの悪役から脱却したことは喜びつつ、気を引き締める。幸いにも自身の肉体や持ち物、ドレスなどに変化はなかった。
周りには私と同じようにパーティー会場から連れてこられた令嬢や、侍女、ローブを羽織った女子学生など様々で、だいたい10人ぐらいだろうか。共通点は全員女性ということ以外は不明。
『ようこそ、我らの国、箱庭へ!』
唐突に空から声が振り落ちる。耳に残るバリトンのいい声に、少女たちがうっとりとしていた。
(落ちるの早くない? 魅了効果でもある? ……オーリム? 箱庭遊戯って、さっき言っていたような?)
『君たちは様々な事情で、その国に居られなくなった者たちだ。我ら神々はその不遇な環境に対して、ささやかなながら慈悲を与えることにした』
(いらんけど)
突然、白い薔薇の花びらが空から振り落ち、華やいだ声が場の空気を変えた。中々な演出で、幻想的な美しさに思わず見惚れてしまう。
『目の前にある迷宮を抜けると、薄い灰色の街に辿り着く。そこには教会があり、聖女候補者としての登録することが可能だ』
(うーーん。さっきゲームと言っていたのが、なんだか引っかかるわね)
『この国の住民として、衣食住などの生活保障は確約しよう。さらに試練やら依頼をこなすことで実績を積めば聖女と認定される。称号を得た者は、その功績を称えどんな願いでも叶えよう』
そこの言葉に私は嫌な予感がした。
(途端に胡散臭くなった。そんな甘言に引っかかる人なんて──)
「どんな願いも……」
「叶えることができる!」
「選ばれた……者たち」
「聖女候補……おとぎ話だと思っていたわ」
(嘘でしょ!? 正気!?)
どんな願いも叶える。それは猛毒にも近い甘美な囁きだ。生活面を面倒見て、仕事をこなしてきたらなんでも願い事が叶う。
(……都合が良すぎる。詐欺じゃいない?)
そう思うのは私ぐらいで、他の女性たちとの温度差を感じてしまう。「自分たちは特別だ」と、選ばれた優越感ゆえだろうか。特別だとか選ばれなくていい。ヒロインになりたかった訳じゃない。ただ悪役として決められたレールを歩くのはもうごめんなのだ。
それに第二の人生は自由に生きると決めた。だからこのお節介は正直ありがた迷惑だ。
(さっきの声、私の聞き間違いじゃなければ彼だったような? いや16年以上前の、前世での記憶だから違うかも?)
『諸々の詳しくは教会のアルベルト大司教から説明を受けるだろう。先ほど全員の左腕に、銀の腕輪を装着させて貰った。《《それが聖女候補としての証だ》》。けして紛失しないように』
そう言われてシルヴィアは自分の左腕を見ると、見知らぬ鈍色に煌めく腕輪に気付く。転移したと同時に装着されたのか、全然気付かなかった。
(デザインはシンプルで悪くない──じゃない! なに勝手に首輪みたいな物を装着させたのよ!! しかも固定で外せないし!!)
左腕には他に白い数珠の魔導具も付けているが、特に反応がなかったところをみると、私を害する物ではないようだ。その事実に少しだけ溜飲を下げる。
『それでは──』
「あの、聞いてもいいですか?」
思わず手を上げて、声の主に尋ねてみた。返事があるか不明だが、できることはしていこうというスタンスだ。
『……ふっ、この状態で質問を言い出すとは面白い。いいだろう何が聞きたい?』
喉を鳴らす声は、愉快そうだった。ざわつく声が耳に届く。注がれる視線の数は、一つ二つではないのだろう。それこそ天井の神々がこの場を伺っているような気がした。
威圧と言うよりも圧迫感があったが、気にせずに疑問点を述べた。
「試練と依頼とあったのですが、教会にいる聖女候補も含めて生き残り戦をするという訳ではないのですよね? あるいは聖女になるのは一人限定とか、早い者勝ちなどの条件はありますか?」
『…………ん、は?』
声がちょっと困惑して、聞き返してきた。これは神様や高位種族には想像していなかったのか、補足するため言葉を続ける。
「いえ、今回転移魔法によりこの場に召喚されたので、代理戦争の駒にされるとか、願いを叶えるための贄として他人を蹴落とす鬼畜システムだったら嫌だな~と思ったので、ゲームを参加する前に確認させて頂きました。それでどうなんです? そもそうなら参加を拒否したいのですが」
『は、はあああああ!?』