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私はつい最近まで引きこもりだった。でも、近藤さんが外へ連れ出してくれた。私は恩義を強く感じてるし、好意的にも思ってる。もしかしたらこの2つの感情はごちゃ混ぜになっているだけかもしれないけれど、とにかくミステリアスで興味深い人だ。最近は登下校によく会ってお話をしているからこそ、表情の変化が機敏にわかる。気がする。今日は彼が心ここに在らずな表情を常に浮かべていることが特に気になる。
「あのー、近藤さん?」
「ん?!ごめんごめん何の話だっけ?」
「まだ何も話してないですよ…。今日は本当にどうしたんですか?体調でも悪いですか?」
私はそっと近藤さんのおでこに掌を当ててみる。ううん、特段熱くなったりはしてないなあ。ていうか、身長差あるから結構手伸ばさないと届かないんですけど。そちらは一体何センチあるの?
こんなちょっとのボディタッチにも私の心臓は機敏に反応してその心拍数を上げる。あーもう!こんな時ばっかりちゃんと動くな!
「「うあ…」」
でも、近藤さんの心臓も私とリンクしているみたい。ちょっと、いやかなり嬉しいかも。
「ね、つは、無い、みたいですね。あはは!」
「ううん、心配してくれてありがとう。僕も与田さんのことは気にかけているよ。」
「あ、ありがとうございます…?」
この時、彼の言葉の真意が読み取れなくて変な返事をしちゃったけれど、昼休みに私はその言葉の本意を知ることになる。
「一花ちゃん、ちょっと手伝って欲しいの。先生の手伝いでちょっと重いものを科学室に置かなくちゃいけなくって。」
「うん!いいよ。」
私は最近、学校に通うようになってから仲良くなった委員長に頼み事をされちゃった。お昼休みはゆっくり過ごそう、あわよくば近藤さんと…とか考えてたけど、手伝わなくちゃしようがないもんね。委員長だって忙しいだろうし。
「ありがと、事務室にあるみたいだから!ダンボールを先生に取ってもらってね!」
先生も待ってるだろうから、さっさと向かって終わらせちゃおうと事務室に向かった。でも、ノックをしてみても反応がない。なんだよお。入っちゃうもんね。
「ダンボールに入ってるって言ってたよね…。すみません、1年2組の与田です。科学室に運ぶ荷物を委員長の代わりに運びに来ましたー。」
あーこれかな?それっぽい書き置きがあった。もう、先生が自分で運べばいいのに、なんで生徒にやらせるの?科学室は3階だったよね。持ち上げる前に気づいた。この重さは1人じゃ難しいかもしれない。
「これ、結構重い…!」
重いけど、休み休み行けば問題無いかな。引きこもってて筋肉は衰えてるけど、若いパワーを侮っちゃいけないよ。
こういうとき、近藤さんが居てくれたらきっと何も言わないで箱を持って助けてくれるんだろうか?きっとそうだろうな。彼は優しいから。
頑張って1階から2階へ上り、小休憩を挟んでから最後の階段を上る。
時間としてはそろそろだ。昼休みのチャイムから5分が経過した。与田さんが2年の3階教室まで上がってくる。確認しなくたって分かる。僕には予知夢があるから。
どう考えたって僕が与田さんのことを階段で押すなんて道理は1つもない事の真相を確かめに行かなくちゃならない。足早に教室を出る。大したことない距離だけど、いつもよりもずっと長く感じる。階段を1つ降りる。
折り返しのところで、何か衝撃が僕の元へ走った。
「おっと、すみま…」
衝撃を与えた正体は硝子の入ったダンボール、その階へ。華奢な女の子は足を滑らせ破片の上へ。まずいッ!!
僕はダンボールを持っていた開けっぴろげの手を肘から掴んで、もう片方の腕は手すりへ…!
「うおおおっ!僕の力でえええ!」
ああ、もうダメだ…私の命の話じゃない。私の心の話だ。そんな顔で命を助けられればもう落ちてしまう。例え助からなくてもいい。もう少しこのままで…。
あ、私の体の角度が、近藤さんに掴まれているにも関わらず地面と平行になった。掴まれた肘はずり落ちてしまう。でも、手首の膨らみで止まる。骨が軋むくらいに握られ、ミミズ腫れができそうなくらいに強く引っ張られているのに、私の体はどんどんと沈んでいく。
「うおおおっ!僕の力でえええ!」
頑張って。その様はまるで王子様。滑る滑る手の指先の瀬戸際で近藤さんは私のことを引き揚げてくれた。あまりに力強く引き揚げてくれるから、私は勢い余って近藤さんを押し倒してしまう。
「…んふふ。」
いけない。思わず気持ちの悪い笑みが零れた。
「はあ、はあ、はあああああ…間一髪だった…。与田さん、怪我は無い?」
「はっはい。大丈夫です。おかげさまで助かりました。ありがとうございます!」
「助けられたようで良かったよ…もっとちゃんと普段から鍛えておけば、こんな間一髪なことにはならなかったのにね。」
私は彼の胸に顔を埋めてみる。
「あの、それやめてよ。恥ずかしいんだけど…」
「これは罰なんです。甘んじて受け入れてくださいね。」
「何の罰?」
聞いちゃいますか?それ、本当に聞いちゃいますか?答えてあげるのもやぶさかではありませんけど!
「私の心を突きオトとして、拾わなかった罰です。」