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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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ひのふのみぃ、と、張飛は、男達の人数を数えながら、剣を振り下ろしていく。


そのたび、ひゃあ、と、悪党らしからぬ声が上がった。


「おお、すまんなぁ、酔いがまわって手元が狂ったわ」


と、楽しげな張飛とは裏腹に、皆、腰を抜かして地べたに座り込んでいた。


むろん、捕まっていた女は、投げ出され、こちらも、地面に転がっている。


「いやぁー、首を跳ねるつもりが、いかんいかん」


張飛は、馬上から豪快に笑った。


悪党達は髷を切られ、ざんばら髪になっていた。


首を、という、ぶっそうな言葉を耳にして、悪党達は、なお、悲鳴をあげると、這いつくばりながら、その場から逃げ出した。


「なんじゃ、お楽しみは、これからなのに。太刀でも、拳でも、望み通りの一騎討ちが、待っておったのにのおー」


あーあー、と、逃げ出して行った男達を見送りながら、張飛は、酒の匂いのまじったため息をつくと、太刀を納めた。


「おお、おなごよ、大丈夫か!手荒なことをされて、怪我はないか!」


慌てて馬から降りると、地面に転がる女の元へ駆け寄り、安否を確かめようとする張飛に、きゃーという、悲鳴と共に、小枝が投げつけられて来た。


「やや、ちょっと、うわっ、やめてくれ!」


「近寄らないでっ!!」


女は、恐ろしさから腰をぬかしたか、起き上がる訳でもなく、地面に座り込んだまま、迫り来る無頼漢へ精一杯の抵抗をした。


「おなご!いい加減にせぬか!かなりの美形と、ワシも、鼻の下を伸ばしておったがな、助けてもらって、この有り様はないであろうが!ワシも、怒るぞっ!!」


赤い張飛の顔が、ますます赤くなった。


「だ、だから、近寄らないで!触らないでっ!!」


女は、とうとう、恐怖からか、泣きじゃくり始める。


「あー、怖がらせてしもうたなぁ、そうでなくとも、怖い目にあったのじゃ、そして、ワシが、現れたら、うん、恐ろしくもなるわ、すまん、すまん」


言って、張飛は、懐から手巾を出すと、女へ差し出した。


「ワシの物じゃが、よければ、涙を拭け」


「格好です!」


泣きじゃくりながらも、なにやら、抵抗する女の姿に、張飛は困ってしまった。


空は、茜色に染まって来ている。


あっという間に日は沈み、女一人では、ますます危険な刻となる。


張飛は、住み処まで送ってやりたかった。


再び、何かあってはならぬ。それもあるが、どこに住んでいるのか知りたかった、という下心もあった。


それほど、前にいる少し幼げな女は、美しかったのだ。


張飛は、一目で、いわゆる恋に落ちていたのだった。


それを知ってか知らずか……、女は、これ見よがしに、自分の懐から手巾を取り出すと、涙をぬぐった。


そのしぐさのなまめかしいこと。


つい、凝視してしまった張飛へ、女の一声が飛んで来た。


「助けて頂いたことは、感謝致します。が、私は、もう、大丈夫ですので、どうぞ、これにておひきとりを」


しっかりとした物言いに、これは、良家に勤める女か、と、張飛は思う。


ならばこそ、早く、屋敷へ送ってやらねば、主人に叱られるだろう。


うーん、と、張飛は考えると、やおら、女を抱き上げた。


ぎゃー!と、女は、悲鳴をあげた。今度は、心底、恐ろしがられてしまったかと、張飛は内心落ち込むが、黙って、馬に乗せると、焚き付けに使えそうな木切れを拾い始めた。


「もう、日が暮れる。早よう、主の用を済ませて、帰らねばならぬだろう。薪拾いに来て、手ぶらでは帰れんじゃろ?」


ニッコリ笑いながら、せっせと、薪拾いをする張飛を、女は馬上から不思議そうに見た。

乱世の刀自(とじ)

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