―神は世界から消え去った。
消滅した、という確定はそこには無い。
[誰もが噂をし、誰もが疑い、誰もが恨み、誰もが信じ、誰もが幻想という名の夢を見た。]
―白を想造せよ。
存在していなければならない程に、強く、醜く。
[光は消えた。もう救いなどどこにも存在しない。これからは闇の中、ただ藻掻き続けようか。]
―そこに願いは存在しない。
希望も、夢も、愛も、憎しみも、総てが極限まで薄まりつつあるから。
[誰もが幻想を抱き、そして祈る。ただ一つ、矛先だけは神ではなく私達へと変化した。]
「へぇ〜、貴女が来るなんて珍しい事もあるもんだね。滅多に外に出ないのに…何かあったの?」
朝方。
すやすやと寝ている所をおもいっきり揺さぶられ、あまりにも無理矢理すぎる方法に驚きながらも布団から顔を出してみる。
すると私の視界に、うさぎのぬいぐるみを抱えてこちらを見つめる一人の知り合いが居た。
彼女の名前はルーズ。滅多に外に出ない引きこもりなのだが、そんな彼女がわざわざ朝方にやって来るなんてどうしたのだろうか。
そう疑問を持ったので問いかけてみる。
ルーズは少し言いにくそうに下を向き、そうしている少しの間は沈黙の空気が辺りに流れる。
「…みんな、悲しんでた。」
相変わらず下を向いたままだったが、その言葉を発してから覚悟を決めたのか、言葉が途切れる事はなかった。
「どうして、どうすれば、許さない、許せない、助けて。そうやって言ってたけど、心は泣いてた。」
顔を隠す様に伸ばされた前髪から僅かに見えた表情はとても苦しそうで、それでいて悲しそうに見えた。
私はそれを見て、何も言えずに黙る事しか出来ずに居た。ただ静かに、一語一語、その全てを受け止めながら聴く事しか出来なかった。
「…こんな事言っても困るのは知ってるの。それでも…私が一人で抱えるには、あまりにも想いが重くて。」
そこまで言うと、一度言葉を止めて顔を上げ、こちらを見つめる。表情は未だ変わっておらず、見ていてどこか苦しくなってくる。
「だけど、これは私達の責任。だから、私にはこれを皆に伝える義務があるの。これを聞いて貴女がどうするかなんて私には分からないけれど…。」
「…そっか。」
私が今どんな声で、どんな表情でこう返事をしたのかは分からない。けれど、確実に嘘を貼り付けた顔ではない、本物の私で居た事は確かだった。
「…私からの用件はこれだけ。朝からいきなり起こしてごめん。それじゃあまたね。」
それだけを私に告げ、次に瞬きをした時にはもう既にそこにルーズの姿は見えなかった。
―例えば一人でこのまま居たとして意味はあるのか。