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## 第22話:鋼のゆりかごの日常
巨大な陸上戦艦ゼストの心臓部、食堂(ダイナー)は、外の荒涼とした砂漠が嘘のような熱気と匂いに包まれていた。
天井のパイプからは微かに蒸気が漏れ、数枚の換気扇がけたたましく回っている。そこには、奪われた生活を必死に手繰り寄せようとする人々の、ささやかな「日常」があった。
「……なんだこれ、めちゃくちゃ美味いじゃねえか!」
ゼロ・ドラートは、目の前に置かれた大盛りの中身の知れない煮込み料理を口に運び、目を剥いた。砂漠のヴァルチャー生活では、乾いた保存食か合成ペーストが関の山だった彼にとって、新鮮な野菜とスパイスが効いた「本物の料理」は、舌が痺れるほどの衝撃だった。
「お気に召したようで何よりだわ。ゼストのキッチン班は、素材が乏しくても腕でカバーするのが自慢なの」
向かい合わせに座るセレスが、どこか誇らしげに言った。彼女の皿には綺麗に切り分けられたパンが並んでいる。だが、ゼロの隣に座るミラの皿は、運ばれてきた時と変わらぬまま、静かに湯気を上げていた。
「……ミラ、お前も食えよ。力がなきゃ、戦えねえぞ」
ゼロの言葉に、ミラはゆっくりと顔を上げた。その瞳は、食堂の明るい照明を反射しながらも、どこか遠い場所を見つめている。
「……私は、大丈夫。……今は、お腹が空いていないから」
ミラの「私」という一人称は、この艦に来てから少しずつ、しかし明確に彼女の意思として発せられるようになっていた。彼女にとって、この喧騒はまだ馴染めない「音」の洪水だった。
「だめよ、ミラ。少しでも口にしないと。……後で女子部屋で内緒のおやつでも食べようか? ね、少し場所を変えて、女子同士で話しましょう」
セレスが優しくミラの背中に手を添えた。ミラは拒むことなく、小さく頷く。二人の少女が食堂を去る背中を、ゼロは見送るしかなかった。
食後、ゼロは磁石に吸い寄せられるように、第一格納庫へと向かった。
そこには、天井からの強力なハロゲン灯に照らされ、不気味なほどの存在感を放つプロト・ウイングエックスが、拘束クレーンに繋がれて鎮座していた。
「あ、きたきた! パイロット君、待ってたわよ!」
機体の脚部ユニットから飛び出してきたのは、油まみれのツナギを腰で結んだ整備長のリンだった。彼女は顔に黒い汚れをつけたまま、満面の笑みでゼロに駆け寄る。
「私の名前はリン。改めてよろしくね、ウイングエックスのオーナーさん!」
「オーナーじゃねえ、相棒だ。……で、リン。こいつの調子はどうなんだよ」
リンは、愛おしそうにウイングエックスの装甲を撫でた。
「最高に決まってるじゃない! でも驚いたわ。このバインダーの駆動系、ガドルフさんが施した修繕よね? 20年前のパーツを今の規格に合わせるなんて、あのじいさん、相当な変態ね。……もちろん、最高の褒め言葉よ!」
「へっ、あいつは頑固なだけだ。でも、このバインダーの反応速度、前より上がってる気がするんだ。システムの予測と、実際の挙動が噛み合ってるっていうかさ」
ゼロは、機体を見上げながら語り始めた。普段の生意気な態度とは違う、純粋に「機械」を愛する少年の顔。リンもまた、その瞳に火を灯して身を乗り出した。
「そう、そこよ! このサテライトバインダーは単なる受光部じゃない。空力制御の安定翼としても異次元の設計なの。今のガンダムにはない、狂気じみた精度……。ねえ、ゼロ。この後のテスト稼働、私も同乗してもいい?」
「バカ言え! 重力がかかったらてめぇみたいな女は吹っ飛んじまうぞ」
「失礼ね! これでもゼストの重G訓練はクリアしてるんだから!」
二人は、ウイングエックスの内部構造や、ゼロ・システムによる予測とパイロットの反射神経の「誤差」について、時間を忘れて話し込んだ。呪われた機体として恐れられるWXを、一つの「傑作」として愛でる二人の声が、静かな格納庫に響き渡った。
一方、ゼストの居住区にある、少し広めの女子用私室。
セレスは備え付けのポットでハーブティーを淹れ、ミラに差し出した。
「……ありがとう、セレス」
ミラは小さく微笑み、カップから立ち上る湯気を眺めた。館内は常に照明が灯っており、ここが夜であることを忘れさせる。
「ミラ。……怖くない? 大勢の人がいるこの艦で過ごすこと。ゼロはああ見えて無神経だから、あんまり気付いてないみたいだけど」
「……ううん。ゼロがそばにいてくれるから。……でも、ここの人たちは、ときどき怖い顔をする。私が……昔の、悪い夢を知っているから……」
ミラの言葉に、セレスは胸を突かれた。20年前の戦争、施設、コールドスリープ。ミラが背負わされた運命は、あまりに重すぎる。
「いい? ミラ。あなたは『鍵』でも『兵器』でもない。……私と同じ、ただの女の子よ。ここにいるゼストの人たちも、本当は怖がってるんじゃない。どう接していいか迷っているだけなの。だから、少しずつでいい。……私と、ゼロと一緒に、ここでの生活を知っていこう?」
セレスの温かな手が、ミラの冷えた指先に重なった。
ミラはゆっくりと顔を上げ、セレスの瞳を見つめた。これまで無機質だったミラの心に、波紋が広がるような感覚。
「……ええ。……私、知りたい。……セレスのことも、ゼストのことも」
二人の少女が小さな絆を紡いでいた、その時。
居住区の通路の角で、一人の男が立ち止まった。彼はリンやセレスのような希望に満ちた顔ではなく、冷徹な軍人の目をしていた。
男は周囲を警戒しながら、懐から小型の記録端末を取り出す。そこには、ミラの部屋の番号と、格納庫のWXの警備状況が克明に記されていた。
安らぎに満ちたゼストの夜。だが、その影には、ルカス・ギルモアの意思が、毒のように静かに浸透し始めていた。
**次回予告**
ゼストに迫る、正体不明の熱源反応。
ルカスが送り込んだ『狩人』たちが、ついに牙を剥く。
だが、その窮地に立ち上がったのは、ゼロだけではなかった。
ゼストを守る二つの巨影。バスターヴァイスとシャドウエッジ、その力が今、砂漠の闇を切り裂く!
次回、『ゼストの守護者』
**「新入り、寝ぼけてんじゃねえぞ。……ここからは俺たちのステージだ!!」**