テラーノベル
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トメ、適当に藤乃の荷物をまとめてくれ。入院の話を付けてきたからな。
流石は旦那さんだ、仕事が早い?減らず口たたくんじゃないよ。まあな。確かにこのまま、藤乃をここに置いておくわけにはいかん。
で、いかほど口止めの金子が動いたのかだと?トメ、そんな余計なことはいいから、手を動かせ。
しかし、いつ見ても、藤乃の部屋の設えはたいしたもんだな。
この蒔絵の箪笥一式も、藤乃にちなんで、藤の花の意匠だ。襖も、誰だったか、ほどほど名前の通った絵師に藤の花を描かせて……。もちろん、衣装も藤尽くし。すべて酒井という男の注文だろ?それだけできる男なら、こっちも太客だと思うだろが?
身請けの話も前金まで用意していたんだぞ。
それがなんだ。他所の見世の女郎と、トンズラたぁ、世も末、いや、この吉原の掟をなんだと思ってやがる。
おっ?辰吉。ああ、早いとこ、この部屋のものすべて処分してくれ。畳も新しいものに張り替える。
他の若い衆には、部屋替えだと、うまく言ってくれ。とはいえ、皆、勘づいてるだろうがなぁ。
トメ、女達は任せたぞ。内々もだが、藤乃のことは、客には絶対に漏らす事のないようきっちり締め上げろ。
……ん?なんだ?辰吉。
黒松さんとこの若い衆がやってきた?
酒井が見つかったって?!
おお、ここにあげとくれ。話を聞こうじゃないか。
バタバタしているここの方が、皆に悟られないだろう。それに、手短に話もできる。
病院からの迎えがそろそろやって来る頃だ。あまり長居されても困るからな。ちゃちゃっと話を聞かせてもらおうか──。
ほう、そちらさんが。
吉蔵さんか。黒松楼さんにはお世話になって……ああ、いや、今回のことは……。え?そちらさんが仕切る?いいのかい?足抜けした女を連れ戻すのが目的だけど、そそのかした男、酒井も取っ捕まえなきゃ話にならない。まあ、そうゆうことになるなあ。男と女、両方、仕置を行うということだね?
うちは、ちょいと藤乃の塩梅が悪くなって。身請けの話から、いきなり捨てられた訳だろう?ちいとばかし、みっともない話ではあるんだが、臥せってしまって、暫くうちの別宅で養生させようかとね。荷物の整理にバタついている訳さ。すまないね。
は?そうゆうことにされるのですか?とは?
おおよそのことは、知っている。もう、花魁は使い物にならないと?冗談もほどほどにしておくれ。
藤乃は、臥せっているだけだ。あれだけの女だからね、少し休ませたら、また顔見せできることだろう。いやね、流れた身請けの話を聞きつけて、新たな身請け話も上がってきてるんだよ。なら、しっかり、養生させないと……。
なんだい?そういうことにされるんですかい?って言うのは?吉蔵さんとやら、冗談もほどほどにしておくれ。
見ての通りだ。このままは、縁起が悪い。酒井が用意した設えだからね。全て取っ払ってるのさ。藤乃も、新しい部屋が良いといってる。それだけさ。
ということで、黒松楼さんが仕切ってくださるなら、うちは大助かりだ。
え?
九州の炭鉱に酒井はいるらしい?
女も一緒かい?連れ戻しに行くのかい?
遠路ごくろうだねぇ。ああ、構わんよ、酒井は、うちも、とっちめなきゃいけないからね、こちらの若い衆も何人か連れて行くと良い。
酒井のやつ、食うに食えなくなったか。炭鉱夫なんぞになったのか。
あ?炭鉱夫に連れて逃げた女を相手させている?
なんだいそりゃ、絵に描いたようなひもじゃないか。一時は株で儲け続けてるなんて豪語していたのにねぇ。女に食わせてもらっているとは。
ああ、分かった分かった。吉蔵さんよ。頭を上げなさい。
辰吉!こちらの吉蔵さんと九州へ行け。腕っぷしの強いの適当に揃えてな!
うちも協力させてもらうよ。
……だから、藤乃のことは……。
ははは、すまないね。ちいとばかし臥せってる。それで、手を打とうじゃないかい。少くないけれど、これを受け取っておくれ。
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