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#大人ロマンス
#サレ妻
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数日後
我が家に、里奈の両親に抱かれた一人の赤ん坊がやってきた。
名前は「蓮」
里奈が独断でつけたその名は、皮肉にも泥の中から咲く花を意味していた。
「……奈緒さん、本当にありがとうございます。里奈があんなことになって…この子を預かっていただけるなんて、あなたは仏様のような方だ」
里奈の両親は、涙を流して私に感謝した。
彼らは、健一が不倫で破滅し、私が彼を「飼っている」真実など露ほども知らない。
ただ、不肖の娘の過ちを許し、その子を引き受けてくれた「聖女のような妻」として私を見ている。
「いいえ。健一さんも深く反省していますし、この子に罪はありませんから」
私は聖母のような微笑みを浮かべ、背後で石のように固まっている健一に視線を送った。
「……健一さん、何をしているの? お父様とお母様から、蓮くんを受け取りなさい」
健一は震える手で、赤ん坊を抱き上げた。
自分と里奈の血を引く、温かくて重い命。
健一の瞳に、一瞬だけ、父親としての本能的な「慈しみ」の光が宿った。
(……ああ、その顔よ。それを待っていたの)
里奈の両親が帰った後、玄関のドアが閉まった瞬間に、私の声から温度が消えた。
「……健一さん。いつまで父親の顔をしているの? 汚らわしいその手で、私を不快にさせないで」
「……っ!」
健一は、弾かれたように赤ん坊を抱いたまま後ずさりした。
「今日から、その子の世話はすべてあなたがやりなさい。ミルク、オムツ、夜泣きの対応……そして」
私はキッチンから、一皿の「残り物」を持ってきた。
「あなたが蓮くんの世話をする時は、必ずその『犬の耳』をつけなさい。そして、蓮くんが物心ついた時、最初に覚える言葉は『パパ』ではなく『使用人』にしてもらうわ」
「……この子が最初に認識するあなたの姿は、私の足元で這いつくばる、名前のない家畜でなければならないの」
「……奈緒、それだけは……!!この子にだけは、普通に接させてくれ!俺を軽蔑してもいい、でも、この子にそんな歪んだ教育を……!」
「あら、普通って何? 不倫の末に、家庭を壊して生まれた子が、普通に幸せになれると思っているの?」
私は健一の胸元に顔を近づけ、甘い声で毒を注いだ。
「この子が将来、自分の出自を知った時、一番の絶望は何か分かる?」
「…それは、自分を愛してくれた『父親』が、実は母親を捨て、妻に壊された無様な犯罪者だったと知ることよ。…愛されれば愛されるほど、真実を知った時の反動で、この子はあなたを恨むでしょうね」
健一は、腕の中で眠る蓮を見つめ、声にならない悲鳴を上げた。
愛情を注ぐことが、子供への最大の呪いになる。
健一は、赤ん坊を抱きしめる力さえ奪われ、その場に崩れ落ちた。
「さあ、蓮くんが泣き始めたわよ。……ほら、『犬の耳』をつけて。あやしてあげなさい、家政夫さん」
リビングに、赤ん坊の高らかな泣き声と、男の絶望的な啜り泣きが共鳴する。
私が描いた、新しい「家族の肖像」がそこにあった。