少しの間、コメントは少なくなり、慌てた様子の救助要請ばかりが並んだが、ミューゼとパフィをなんとか起こしているうちに、元の状態に戻っていった。
メンバーが増えたので、ライブとして自己紹介はしたが、本来の目的は特訓とヴェレスアンツの案内である。
ちなみに、イディアゼッターの紹介は終わっている。美女達の中に男が1人いるという事で様々なブーイングメッセージが流れたが、
「儂はイディアゼッターと申します。王女や総長の付き添い兼、周囲の見回り兼、緊急対応役だと思って頂ければと」
という執事を意識した物腰柔らかな紹介と、転移の塔の開発者というピアーニャからの紹介もあって、リージョンシーカーのトップという扱いで納得された。
どこのリージョン出身かという詮索のメッセージはあったが、それについては完全無視を決め込んだ。
「はいはーい。それじゃあ改めて、ヴェレスアンツの1層から案内を始めるわね」
ネフテリアが一同を従え、先に進む事を提案。それには全員意義はないのだが、ニオが周囲を見て首を傾げた。
「えっと、さっきの鳥は?」
「え、消えたけど……ああそっか、そこはまだ説明してなかったね」
蔓に縛られ、雲に刺された鳥は、自己紹介をしている間に消えていた。ピアーニャが落雷を落として黒焦げにした馬も、その姿を消していた。
「やっつけたヴェレストは、少しすると光の粒になって消えるの。その粒は光妖精に吸収されて、わたくし達の、今回はメレイズちゃんとアリエッタちゃん、それとピアーニャの功績となって記録されるわ」
「功績なのよ?」
「倒したヴェレストの強さによって、ポイントとしてジルファートレスに記録されるの。その日一番倒したのは誰だとか、いままでどれくらい倒したとか、そんなランキングが見れるから、競い合う人もいるの」
「ふーん。そんなのがあるのよ」
”興味なさそう”
”アレやるのは強くなるのが目的か、戦闘狂とかだからな”
所謂ランキング機能である。強くなりたい者達にとっては目安として重宝されており、日々競い合い、切磋琢磨している。
「あと、どのヴェレストを何体倒したとかも見る事が出来るから、一部の人は全種類倒したり、1種のヴェレストをとにかく倒しまくるのを目標にしたりしてるのよ」
”うん、まだ全体で半分も埋まってないけどな”
”新種見つかる度にお祭り騒ぎよ”
所謂図鑑機能である。コレクション要素があると、それを目標に頑張るヒトもいるだろうという意見をヴェレスアンツの神以外が形にし、出来るだけ殺伐とした世界でも楽しんでもらおうとした……と、以前ピアーニャがイディアゼッターから聞いて、心底呆れていた。
他にも色々な仕組みはあるが、直接関わった時に改めて説明する事にし、1層を歩き回る事にした。
「1層、1層……あ、思い出した!」
「おそいわ!」
スパーン
1層という単語にずっと引っかかっていたミューゼが叫ぶと、ピアーニャの『雲塊』によってシバかれた。
「オマエ、もうちょっとリージョンについてベンキョウしとけよな?」
「はぁい……」
「それじゃあミューゼ、ニオやアリエッタちゃんに分かるように説明してみましょ」
「それはまだ無理ですね!」
”もう諦めた”
”まぁ言葉覚えたてじゃあなぁ……”
とは言いつつも、会話を聞かせだけでもアリエッタにとって勉強になるので、とりあえず説明を始める。
「ヴェレスアンツには階層があって、最も安全でヴェレストが弱いのが、この1層。2層に行くとかなり強いヴェレストがいて、3層4層と進んでいくと、段々と層が広くなり、ヴェレストの強さが増していく……でいいですか?」
「まぁいいだろ」
”よくできました!”
”今の模範解答はセーブしておこう。視線泳がせながら必死にひねり出してるのが可愛いし”
”間違いなく売れる”
「わたくしのミューゼを安売りしないでくださいます?」
”ほほう、王女様がミューゼオラちゃんを……ふむ”
”やべ、想像したらまた血が”
コメントの方はすぐに横道に逸れていくが、気にすると疲れるだけなのでスルーされた。
ニオに今の説明で理解出来たかを聞くと、問題なく理解した様子。アリエッタは気になった単語を選んで「ヴェレスト、なに?」とパフィに聞いている。
”ニオたん本当に賢いな”
”アリエッタちゃんも頑張って覚えようとしてるから、頭は良いんだろ”
「そうなの。アリエッタったら頑張り屋さんだから何でも教えたくなっちゃって」
”デレデレやな”
歩きながらそんな復習をしていると、伏せていた四つ足歩行のヴェレストが起き上がった。
スラッとした長い足に、胴体をモコモコの体毛で覆っている1本の角を生やした生物である。その名は『モイジープ』。
(おお、なんだかユニコーンと羊が合わさったみたい)
「コイツはヒカクテキやさしいヤツだな。まけてもイきていたら、ジルファートレスのヒトすてばに、はこばれる」
「人捨て場……」
1層の特徴として、相手を無駄に殺さないヴェレストが多い点がある。リージョンの特性上、全てのヴェレストが好戦的ではあるが、1層では確実に獲物を殺しに来るヴェレストの種類は半分以下なのだ。基本的にジルファートレスから遠くに生息するヴェレスト程、殺意が高くなる傾向にある。
「それもあって、1層は戦闘初心者向けなの。よほど無謀でもない限り、戦いを覚える前に死ぬ事はないわ」
「どうする? ジュンバンでいいか?」
「うん。わたくしも少しは体動かしたいし」
というわけで、今回はネフテリアが戦う事になった。改めてヴェレストの消える所を見せるのも目的である。
「ビョオ!!」
「ほい」
準備運動といった感じで、ネフテリアはモイジープの突進を軽く躱し、しれっと蹴ったりしていく。数回同じ事を繰り返して怒らせ、モイジープの動きが完全に単調になった時、手先に魔力を込め始めた。
「こいつはね、体毛がすごく燃えやすいのよね。【火の弾】!」
ぼふっ
「ビャアアアアアア!!」
モイジープは断末魔の声を上げて、燃えながら倒れた。
”うわあっさり……”
”強いんですね王女様”
「まぁこの程度だとね」
「す、すごいです、テリア様」
「でしょー。もっと褒めてもいいのよー」
”王女様はニオたんにデレデレやな……”
そしてしばらくすると、燃え尽きたモイジープは光になって消え、その光は光妖精に吸収された。
初めてその現象を見たアリエッタ達は、感嘆の声を漏らしていた。
「今のは1人で倒したわたくしの手柄という事で、ポイントが入ったわ。2人で戦うとちゃんと2人に入るから安心してね」
光妖精は支援行動なども含めて共闘と判断する。その為、トドメ等による手柄の取り合いになる事はない。連携を得意とするミューゼとパフィも安心である。
続いてミューゼの番。相手は4本腕のゴリラのような生き物の『ジガリラ』。1層は大したこと無いという事で、1人ずつ挑むことになった。
「【縛蔦網】……かーらーの【鋭枝突】!」
無数の蔦で動きを止め、捕縛を破る前に鋭い枝を突き刺して終了。力は強いが戦術は持ち合わせていなかったようだ。
”なんじゃそりゃ!”
”結構エグいな”
”植物を使う魔法ってあるのか”
次はパフィ。相手は草原を滑走する大きなナメクジのような生物の『グラヌオス』。
「ほいっ」
ザクッ
「トドメなのよ」
ズバッ
体が柔らかかったので、フォークで刺してナイフで切り裂いた。
”強いなー”
”でかいだけあるな”
”うむ”
”それ関係あるの……?”
これで大人組は一通り戦う姿をお披露目した。ピアーニャは先程雷を落として倒したので、今回は見ているだけである。次の1巡はパフィの次に動く予定だが。
「それじゃあ次は、ニオいける?」
「は、はい。頑張ります!」
”頑張って!”
”俺があの子の盾になりてぇ”
”うわぁ今からハラハラする……”
”怪我しませんように怪我しませんように……”
「皆さん過保護になりかけてますね」
現れたのは、先程ジルファートレス前でメレイズとアリエッタが倒した大きな鳥『アシュカー』。
「キョケエエエエッ」
「ひゃあっ」
奇声に驚くも、慌てて大きな杖を構え直すニオ。
機敏に動くのが苦手なニオは、ミューゼと同じように先制攻撃を仕掛けた。
「いきますぅっ、【閃炎花】っ」
ちゅどどどどどばごああああん!
「キャーーーー!!」
『え……』
無数の小さな火の玉がアシュカーを襲い、そのどれもが大爆発を起こす。その爆音に驚いたニオが、悲鳴を上げながら涙目で倒れ伏した。
大人達は目を点にしている。
”なんじゃその威力!”
”【閃炎花】って脅しとかに使われる小爆発魔法じゃなかったっけ?”
”私の知ってる【閃炎花】と違う”
”なんでニオたんが一番驚いてるの?”
アシュカーはその大部分が光になる前に消し飛んでいたが、残った部分がかろうじて光になり、光妖精に吸収されていった。
「ふええええええん怖かったですうううう」
『なんで?』
ニオが怖かったと言っている対象は、明らかにアシュカーではなく自らが放った魔法の爆発だった。それには見ていた全員が困惑。
どこからツッコむべきか、ネフテリア達は迷っていた。
その間に、アリエッタとメレイズがニオに駆け寄り、頑張って慰め始めた。
「……可愛いからまぁいいのよ」
「よくないよ!」
パフィと違い、ネフテリアは考えるのをやめる事は出来なかったようだ。
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