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第61話:シマエナガの戦術部隊が現れる〜雪の妖精と、完璧すぎる絶対防衛陣形〜
世界から全てを奪い去るような猛吹雪が嘘のように去った、数日後の朝。
北海道十勝地方の空は、雲一つない突き抜けるような青空――いわゆる「十勝晴れ」に包まれていた。
「ふぁぁ……よく寝た。やっぱりシロの結界とこたつのコンボは、人間の尊厳を根こそぎ奪っていくな」
俺は伸びをしながら、縁側のガラス戸を少しだけ開けた。
外はマイナス十度を下回る極寒だが、シロの『適温25度の絶対防壁』のおかげで、開け放った窓際でも春の陽気のようにぽかぽかとしている。
隣では、すっかりこの古民家に入り浸っている小春ちゃんが、ジンバルにセットしたスマートフォンを庭に向けていた。
「おはようございます、世界中の皆さん! 今日はすっごくいいお天気です! 雪が太陽に反射して、キラキラ光ってますよー!」
同接(同時接続者数)はすでに250万人を突破している。猛吹雪のサバイバルを乗り越えた俺たちのチャンネルは、今や世界中で「最高に癒やされる狂気の配信」として不動の地位を築きつつあった。
そんな、平和な午前十時。
『――ジュルルッ。ジュルルッ』
不意に、庭の奥にあるナナカマドの枯れ木から、高く澄んだ、鈴を転がすような可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。
「ん……? なんだ、今の鳴き声。スズメじゃないな」
「あっ! お兄さん、見てください! あそこの枝の先!」
小春ちゃんが興奮した様子でスマホのカメラをズームする。
画面に映し出されたのは、真っ白な雪化粧を施された枝の上にちょこんと止まる、数羽の小さな鳥たちだった。
体は真っ白で、まるで丸めたティッシュペーパーか、大福餅のよう。そこに、つぶらな黒い瞳と、短いクチバシ、そして長い黒い尾羽がついている。
「おお……あれは、もしかして」
「シマエナガです! 『雪の妖精』って呼ばれてる、冬の北海道でしか見られない大人気の鳥ですよ!」
小春ちゃんが黄色い歓声を上げる。
その究極に愛くるしいフォルムが配信画面に大写しになった瞬間、チャット欄が爆発的な勢いで流れ始めた。
『うわああああああああ!!』
『シマエナガだァァァァァ!!!』
『動く雪見だいふく!! 可愛すぎる!!』
『生で見られるなんて最高かよ!!』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×3連発)=”Oh my goodness! What is this fluffy snowball!? I want to hug it!“(なんてこと! このフワフワの雪玉は何!? 抱きしめたいわ!)』
世界中のリスナーが、雪の妖精の規格外の可愛さにノックアウトされ、画面は極彩色のMeTubeギフトの嵐に包まれた。
枝の上では、十羽ほどのシマエナガたちが「ジュルルッ」と鳴きながら、首を傾げたり、羽繕いをしたりしている。その一挙手一投足が、暴力的なまでの「癒やし」を放っていた。
だが。
俺たちの限界集落において、平和な「可愛いどうぶつ動画」がそのまま終わるはずがなかった。
『ミャウ』
それまで俺の膝の上で丸くなっていた純白の神獣シロが、不意に立ち上がり、縁側の端へとトコトコ歩いていった。
そして、枝の上にいるシマエナガたちを見上げ、短く、しかし鋭い声で『ニャッ』と鳴いたのだ。
ゆうき あきや
3,596
259
#心理描写重視
それはまるで、上官が部下に号令をかけるような、絶対的な威厳に満ちた声だった。
その瞬間。
「……えっ?」
俺は、自分の目を疑った。
つい数秒前まで「雪見だいふく」のようにフワフワと和んでいたシマエナガたちが、一瞬にして、ピンッと背筋(?)を伸ばしたのだ。
そして、十羽のシマエナガが一斉に枝から飛び立つと、空中で『完璧なV字編隊(デルタ・フォーメーション)』を組み上げた。
「な、なんだあいつらの動き……!?」
俺が息を呑む中、シマエナガの群れは、まるで一糸乱れぬブルーインパルスのように庭の上空を旋回し始めた。
三羽が前衛として庭の入り口上空でホバリング(警戒態勢)に入り、二羽がはるか上空へと急上昇して索敵(早期警戒)を行う。
残りの五羽は、縁側で寝そべるシロを中心とした半径十メートルの空間に、等間隔に配置された。
それは、可愛らしい小鳥の群れの動きなどではない。
敵の侵入を一切許さない、完璧に計算し尽くされた『絶対防衛陣形(セクター・ディフェンス)』だった。
「アルファ・チーム、前哨線を確保……。ブラボー・チーム、高高度からの航空支援態勢……だと……?」
俺は、かつて陸上自衛隊の需品科で叩き込まれた戦術教本を思い出し、無意識に震える声で呟いていた。
「小春ちゃん……あいつら、ただの鳥じゃない。庭の空域を完全に『制圧(ロックダウン)』しやがったぞ」
「お、お兄さん! シマエナガたちが、空中でピッて敬礼みたいな動きをしてから配置につきましたよ!?」
小春ちゃんがスマホを持つ手を震わせながら絶叫する。
チャット欄は、可愛さの爆発から一転、理解を超えた事態に完全なる狂乱状態へと叩き落とされた。
『はああああああああああ!?!?』
『動きがガチの軍隊なんだがwwww』
『雪の妖精(民間軍事会社)』
『シマエナガ戦術部隊キターーーー!!!』
『シロ様が号令かけた瞬間、空気が張り詰めたぞww』
『V字編隊の美しさが航空祭レベル』
『神獣の航空支援部隊(近接航空支援)が配備されました』
『(アメリカの軍事オタクからの$100MeTubeギフト)=”Perfect perimeter defense! They are protecting the VIP (Shiro)!“(完璧な周辺防御だ! 彼らはVIP(シロ)を護衛している!)』
さらに、俺たちの足元で寝ていたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎もむくりと立ち上がった。
彼らは「ジュルルッ」というシマエナガの上空からの鳴き声(通信)に呼応するように、庭の左右の茂みへとサッと散開し、伏せの体勢で地上の警戒(歩兵の索敵)を始めた。
空にはシマエナガの戦術部隊。地上には黄金のキツネ歩兵部隊。
そして、その後方でドカッと座る純白の司令官、シロ様。
「……終わった。俺の庭が、世界最強の要塞になっちまった」
俺は額に手を当て、深い深いため息をついた。
「お兄さん! これどう見てもシロちゃんの私兵ですよ! クーデター起こせますよこの軍隊!!」
小春ちゃんがパニックになりながら俺の肩を揺さぶる。
リスナーたちも『主、ついに軍事力を保持する』『独立国家「日常チャンネル」の誕生』と大騒ぎだ。
だが、俺は完璧なフラットボイス(元社畜の極意)を維持したまま、カメラに向かって静かに言い放った。
「……皆さま、落ち着いてください。これはただの生態系の神秘です」
『出たァァァァァ!!!』
『主の限界言い訳タイム・戦術部隊編ww』
『さあ、このガチフォーメーションをどう言い訳する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、250万人のリスナーに向けて語りかけた。
「北海道の厳しい冬において、小鳥たちは体温を維持し、猛禽類などの外敵から身を守るために群れを形成します。彼らが等間隔に配置されたのは、風の抵抗(流体力学)を最小限に抑えつつ、視野角を最大限に確保するための『スウォーム(群れ)行動』の一環です。ええ、単なる生物学的プログラムの発露であり、たまたま軍隊の陣形に似ているだけですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、たまらず俺の背中をバンバンと叩いた。
「風の抵抗を減らすためにV字編隊組んだ後、なんで庭の四隅でホバリングして空中警備してるんですか!! コン吉くんたちと完全に無線通信(鳴き声)で連携取ってたじゃないですか!! どう見てもシロちゃんの指揮下にある精鋭部隊でしょうが!!」
『小春ちゃんの的確すぎる状況分析ww』
『スウォーム行動(デルタフォースの動き)』
『適応力バグおじさん、ついに鳥類学まで歪め始める』
『生物学的プログラム(軍事訓練済み)』
『言い訳が苦しすぎて草生える』
俺の理不尽極まりない現実逃避と、小春ちゃんの鋭すぎる正論パンチに、チャット欄は腹がよじれるほどの大爆笑に包まれている。
『ミャウ(空の守りは完璧よ)』
縁側の司令官(シロ)が、満足げに喉を鳴らした。
上空では、大福餅のようなフワフワの妖精たちが、「ジュルルッ」と可愛らしい鳴き声を交わしながら、一切の隙もない完璧な空中哨戒を続けている。
「……まぁ、いいさ。これで屋根の雪下ろしの時も、カラスに襲われる心配がなくなったな」
俺は温かいほうじ茶を啜り、スライムのようにこたつへと沈み込んだ。
限界社畜の静かなスローライフは、大自然の厳しさすらも圧倒する『神獣の私設軍隊(もふもふPMC)』の鉄壁の護衛によって、今日も果てしなく怠惰に、そして最高に平和に守り抜かれるのだった。
コメント
1件
ふわふわのシマエナガさんたちがまさかの戦術部隊になってて、もうツボすぎて声出して笑っちゃいました😂💕 ジュルルッていう鳴き声で通信してるのとか、ブルーインパルスばりのV字編隊とか、シロ様の指揮下で庭が要塞化してく展開が面白くてたまらなかったです!主さんの「生態系の神秘です」って苦しい言い訳も恒例の名物で安心しました🤍 小春ちゃんのツッコミも冴えてるし、コン吉たちまで連携してるのがまた可愛くて…。今日も最高に平和な狂気をありがとうございます🌙