テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆうき あきや
3,596
259
#心理描写重視
第62話:黄金のドローン、雪に散る〜石油王の差し入れと、最強の防空システム〜
シロの指揮下に入った『雪の妖精』ことシマエナガの戦術部隊が、我が家の庭に絶対防衛陣形を敷いてから数日が経過した。
一月下旬の北海道十勝地方は、日中でも氷点下を抜け出せない「真冬日」が当たり前のように続いている。
だが、縁側のガラス戸の向こうでシマエナガたちが完璧な航空哨戒(ホバリング)を続ける中、家の中は今日もシロの『適温25度の絶対防壁』によって極上のパラダイスが保たれていた。
「お兄さん、今日もシマエナガ部隊のフォーメーションは完璧ですね。カラスが一羽近づいただけで、3羽がスクランブル発進して追い払ってましたよ」
「ああ。小型で機動力が高いから、近接航空支援(CAS)としては申し分ないな。俺の備蓄(兵站)を狙う不届きな野生動物に対する、最強の抑止力だ」
こたつの中でみかんを剥きながら、俺と小春ちゃんは平和な午後を過ごしていた。
ジンバルにセットされたスマホの画面では、今日も250万人のリスナーが『世界一尊いPMC(民間軍事会社)』の働きぶりを眺めてはMeTubeギフトを投げている。
そんな、怠惰で幸せな配信枠に、突如として『目にも鮮やかな赤色のMeTubeギフト(¥50,000)』が投下され、画面の中央に固定された。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master! I couldn’t bear to see you freezing (though you aren’t). I sent a winter care package using my company’s latest experimental autonomous drone! It should arrive in 3 minutes!“(主よ! 君が凍えているのを見ていられなかった(凍えてはいないが)。我が社の最新鋭の実験用自律型ドローンで、冬の差し入れを送った! あと3分で到着するぞ!)』
「……は?」
俺はみかんの薄皮を剥く手をピタリと止めた。
「お、お兄さん! 石油王さんがドローンを飛ばしたって言ってますよ! ドバイからですか!?」
「いや、いくらなんでも航続距離がおかしいだろ。多分、日本国内の支社かエージェントに手配させたんだと思うが……」
俺が眉をひそめた、その時だった。
『――ブゥゥゥゥゥゥン……!』
窓の外、どんよりと曇った冬空の向こうから、重低音のモーター音が響いてきた。明らかにシマエナガの羽音ではない。
「小春ちゃん、窓を少しだけ開けてくれ。何かが来る」
小春ちゃんが恐る恐るガラス戸を数センチ開けると、マイナス十五度の凍てつく風と共に、その『異様な物体』が庭の上空へと姿を現した。
「な、なんですかあれ……! ピカピカ光ってます!」
小春ちゃんが絶叫する。
吹雪が舞う灰色の空を背景にホバリングしていたのは、幅1メートルはあろうかという巨大なオクトコプター(8枚羽根のドローン)だった。
だが、問題なのはそのサイズではない。
機体のフレームからプロペラのガードに至るまで、そのドローンの装甲は、一切の妥協なく『24金(純金コーティング)』で覆い尽くされていたのである。
『うおおおおおおお!! なんだあの金ピカのUFOは!?』
『ドローンまで黄金とか、石油王のセンスどうなってんだよww』
『吹雪の中でめっちゃ光を反射してて草』
『完全に成金専用の空飛ぶ棺桶だろwww』
『最新鋭のステルス性を自らドブに捨てていくスタイル』
「あのバカ……! 黄金なんて電波反射の塊だろうが! しかも北海道の吹雪をなめるな、あんな重たい金属装甲で飛べる気流じゃないぞ!」
俺の元社畜(需品科上がり)としてのロジスティクス的懸念は、すぐに現実のものとなった。
突風が吹き荒れた瞬間、黄金のドローンは「ガガガッ!」とモーターを悲鳴のように唸らせ、空中で大きく姿勢を崩したのだ。
だが、ドローンの悲劇はそれだけでは終わらなかった。
『ミャウ!!』
こたつで液状化していたシロが、不意に首をもたげ、窓の外の『未確認飛行物体』に向かって鋭く鳴き声を上げた。
それは、絶対防空圏の司令官による、明確な『迎撃命令(インターセプト)』だった。
『――ジュルルッ!!』
シロの号令に応え、ナナカマドの枝で待機していたシマエナガ戦術部隊(アルファ・チーム及びブラボー・チームの計6羽)が、一斉にスクランブル発進した。
「おいおいおい! 嘘だろ、あいつらドローンに立ち向かう気か!?」
俺の制止も虚しく、雪の妖精たちは完璧な連携で黄金のドローンへと接近していく。
彼らは物理的な攻撃(体当たり)を仕掛けるような愚行はしなかった。
シマエナガ部隊は二羽一組(ツーマンセル)となり、ドローンの下部に取り付けられた『光学センサー』と『障害物検知レーダー』の直前を、猛スピードで交互に横切り始めたのだ。
「フワッ」「ジュルルッ」「フワッ」
白くて丸い雪玉のような小鳥たちが、カメラの死角から次々と現れては消える。
それは、最新鋭のAIを搭載したドローンにとって、この世で最もタチの悪い『チャフ(電波妨害片)』と『フレア』の飽和攻撃に等しかった。
「ピガガガッ……! ピーーッ!!(障害物接近! 障害物接近! 衝突回避シーケンス作動!)」
黄金のドローンのセンサーが、目の前を飛び交うシマエナガを「全方位からのランダムな障害物」として誤認。AIが完全にパニックを起こし、回避行動のループに陥ってしまった。
『うわああああああ!! ドローンがバグったwwww』
『シマエナガ部隊の電子戦(ECM)キターーーー!!!』
『物理攻撃じゃなくてセンサーを狂わせるとか、戦術がガチすぎるww』
『雪の妖精(高度なジャミング機能搭載)』
『石油王の数千万円のドローンが、小鳥に撃墜されるぞww』
チャット欄が狂乱する中、センサーを狂わされたドローンは、北海道の容赦ない突風に煽られ、ついに揚力を失った。
「ブゥン……キュゥゥゥゥン……」
まるで力尽きた巨大な黄金の虫のように、ドローンはきりもみ回転しながら落下し――
ズボォォォォォンッ!!
我が家の庭の、フカフカの新雪のど真ん中へと、見事なまでに墜落(ハードランディング)した。
『あーあwwwwww』
『撃墜マーク(キルスコア)がシマエナガに刻まれました』
『最新鋭の自律型ドローン、北の大地にて散る』
『(石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”NOOOO! My 2 million dollar golden drone defeated by tiny white birds!?“(ノーーーー! 私の200万ドルの黄金ドローンが、小さな白い鳥に敗北しただと!?)』
『神獣の防空システム、SAM(地対空ミサイル)より強くて草』
「……はぁ。全く、人騒がせな金持ちだ」
俺は防寒着を引っ掛け、長靴を履いて庭へと出た。
雪に深く突き刺さった黄金のドローンは、モーターからプスプスと煙を上げて完全に沈黙していた。だが、機体の下部に抱えられていた「ジュラルミン製の耐衝撃ケース」だけは無事だった。
俺はケースを回収し、こたつへと戻った。
「お兄さん、差し入れって何が入ってたんですか!?」
小春ちゃんと共に、250万人のリスナーが固唾を飲んで見守る中、ケースのロックを解除する。
中から出てきたのは、最高級のチタン製魔法瓶と、何やら見慣れない黒いフルーツの詰め合わせだった。
「これは……ドバイの最高級『デーツ(ナツメヤシの果実)』と、ラクダのミルクで作られた特製のホットチョコレートだな。砂漠の民が極寒を乗り切るための、超高カロリーなエネルギー食(レーション)だ」
「わぁ……! すっごく甘くていい匂いがします!」
墜落の衝撃にも耐えた魔法瓶からは、湯気と共に極上のカカオの香りが漂ってきた。俺たちはありがたく、その超高級な差し入れをいただくことにした。
「うん、甘い。そして美味い。……石油王、ドローンはアレだったが、差し入れのチョイスは需品科として高く評価してやる」
俺がカメラに向かってデーツを掲げると、チャット欄には石油王からの感謝と歓喜のMeTubeギフトが大量に投下された。
「でもお兄さん……シマエナガちゃんたちのあの動き、完全にドローンを『敵機』とみなして撃墜しに行ってましたよね? やっぱりシロちゃんの私兵なんじゃ……」
小春ちゃんが、窓の外で誇らしげにホバリングしている雪の妖精たちを見ながら震え声を出す。
俺はホットチョコレートを一口啜り、極めて冷静なフラットボイスで解説を始めた。
「……皆さま、誤解なきよう。あれは迎撃(インターセプト)ではありません」
『出たww主の限界言い訳タイム・防空戦編ww』
『さあ、ドローン撃墜をどう論破する気だww』
俺は、完璧なポーカーフェイスでカメラを見据えた。
「リチウムイオンバッテリーは、マイナス十五度の極低温下では急激に電圧が低下します。ドローンが墜落したのは、単なる『バッテリーの低温障害(コールドドロップ)』です。そして、シマエナガたちがドローンの周りを飛んでいたのは、モーターが発する『熱』で暖を取ろうとしていただけです。ええ、北海道の冬における、ごく自然な熱力学と生態系の営みですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんのキレキレのツッコミが、こたつの中で炸裂した。
「あんな高速回転するプロペラの真横で暖を取る小鳥がどこにいるんですか!! どう見たってセンサーの死角を突いた完璧な電子妨害(ジャミング)だったでしょうが!!」
『小春ちゃんの正論パンチが心地いいww』
『暖を取る(命懸け)』
『低温障害(シマエナガによる強制終了)』
『適応力バグおじさん、ついにドローンの航空事故調査委員会を論破』
『生態系の営み(撃墜)』
俺の理不尽すぎる言い訳に、250万人の視聴者から愛ある総ツッコミの弾幕が浴びせられる。
『ミャウ(制空権は譲らないわ)』
シロが、石油王のデーツを少しだけ舐めながら、女王様のように満足げに目を細めた。
庭の雪に埋もれた200万ドルの黄金の残骸を眼下に、シマエナガたちは今日も「ジュルルッ」と可愛らしい交信音を響かせている。
限界集落の空の守りは、ドバイの最新鋭テクノロジーすらも寄せ付けない、最強でもふもふな雪の妖精たちによって、今日も完璧に統制され続けるのだった。
コメント
1件
お疲れさまです、ゆうき あきやさん。第62話、読み終えました! もうもうもう、今回も最高でした……! 石油王の差し入れがまさかの黄金ドローン、しかもシマエナガ部隊が電子戦(ジャミング)で撃墜しちゃうとか、頭おかしくて好きです(褒めてます)。『暖を取っていただけ』って言い張るお兄さんのポーカーフェイスと、小春ちゃんの正論ツッコミが完璧すぎて声出して笑いました。 シロちゃんが女王様みたいにデーツを舐めてる姿とか、細かい仕草の描写が愛おしいです。北海道の寒さと小さな鳥たちのギャップ萌えと、お兄さんの苦しい言い訳シリーズ、いつも楽しみにしています! 次回も楽しみにしてますね🌷