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配信が終わり、ライトの光が消えた後のリビングは、死後の世界のように静まり返っていた。
健一は犬の耳をつけたまま、虚ろな目で床を見つめ、ピクリとも動かない。
「お疲れ様、健一さん。今夜だけで、あなたの半年分の給料より稼げたわよ」
私はタブレットを閉じ、彼に冷たい視線を向けた。
健一は何も答えない。
反応がないのは、つまらない。
私は彼の顎をヒールの先で軽く持ち上げた。
「……ねえ、健一さん。疲れているみたいだから、明日から『旅行』に連れて行ってあげる」
「旅行……?」
健一の瞳に、わずかな光が戻った。
逃げ出せるかもしれない、という浅はかな希望。
「ええ。行き先は、あなたが里奈さんと『出張』だと嘘をついて泊まった、あの伊豆の温泉旅館。……覚えているでしょう? 旅館のインスタに二人の写真が写り込んでいた、あの場所よ」
健一の顔が、恐怖で引き攣った。
「……なんで、そこへ……」
「思い出を上書きしなきゃ。今回は、私も……そして『彼女』も一緒よ」
翌朝
玄関に現れたのは、派手なサングラスをかけ、不機嫌を隠そうともしない里奈だった。
「……ちょっと、奈緒さん。何なのよ、この悪趣味な企画。私、あんなクズの顔、もう二度と見たくないんだけど」
「あら、里奈さん。あなたが彼に貢がせた分の『清算』は、まだ終わっていないでしょう?」
「旅費は全部、昨日の配信の収益から出しているわ。あなたはただ、彼を存分に惨めな気持ちにさせてくれればいいの」
里奈はニヤリと笑い、後部座席で小さくなっている健一を睨みつけた。
「……いいわね。最高のリベンジ・バケーションになりそうだわ」
車内は、地獄のような空気だった。
私が運転し、助手席には里奈。
かつて健一が里奈と座ったその席で、二人の女が「次はどうやって彼を弄ぶか」を楽しげに語り合う。
健一は後部座席で、自分がかつて二人の女性を天秤にかけていた報いを受けていた。
旅館に到着すると、そこは皮肉にも
健一が里奈に「いつか本気で一緒になろう」と囁いた露天風呂付きの離れだった。
「さあ、健一さん。あの時と同じように、里奈さんにお酒を注いであげて。……もちろん、今回は『使用人』として、正座したままでね」
夕食の席。豪華な料理が並ぶ中、健一は一口も食べることを許されず、二人の女の給仕に明け暮れた。
「あーあ、健一、手が震えてるわよ。お酒こぼしたら、この料理、全部あんたの頭からぶっかけるからね」
里奈が嘲笑い、健一の顔に冷やした日本酒をわざとかける。
滴る酒を拭うことも許されず、健一は震えながら「申し訳ございません……」と繰り返した。
私は、その様子を動画に収めながら、ナオミとしてSNSにアップする。
『かつての愛人、今の主人。思い出の地で、彼は本当の居場所を見つけたようです。』
健一は、夜の暗い海を眺めながら、静かに涙を流した。
そこは、彼が里奈と「新しい人生」を語り合った場所。
今、その場所で、彼は「人生の終わり」を、二人の女に徹底的に管理されていた。
「……ねえ、健一さん。刺激的でしょ?」
私が耳元で囁くと、健一はガチガチと歯を鳴らし、壊れた人形のように頷いた。
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#大人ロマンス
#サレ妻