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コメント
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うわ…このエピソード、すごく重かった。斬月が自分の名で祀られることに苦しんでるのが伝わってきて、胸がギュッてなった。特に「武神様と呼ばないでくれ」って台詞、あれは刺さったな…。一番近くにいる景陽にぶつけてしまったのも、分かる気がする。景陽の「本当に言いたいことはそれだけですか」って問いかけ、すごく深い。Hp2さんの心理描写、繊細で好きです。
第4話 武神様と呼ばないでくれ
「腕の可動域は、ほぼ戻っています」
景陽が記録板に何かを書き込みながら言う。
「あとは、任務適性の判断だけですね」
「早く終わらせてくれ」
斬月が答えると、景陽は珍しく小さく笑った。
「急かされて早まる検査はありません」
いつも通りのやり取りだった。上も下もない、ただの同僚同士の会話。ここにいる間だけは、何者でもない自分でいられた。
そこへ、記録係が一枚の書類を運んできた。
「人界観測記録です。ご確認を」
景陽が受け取り、軽く目を通す。表情が、わずかに動いた。
「……見ますか」
差し出された紙に、斬月は目を落とす。
そこには、観測班が人界のある村で確認した内容が記されていた。
小さな祠が、新たに建てられていた。
祀られているのは、あの戦場で刺された「武神様」。
供物として捧げられた酒と米の記録。祈りの文言。
《武神様のご加護を》
《どうか、天罰をお与えにならぬよう》
文字を読んだ瞬間、耳の奥で音がした。
「天罰が下るぞ!」
「祟られる、祟られるぞ!」
戦場の声だった。
紙を持つ手が、震える。呼吸が浅くなる。景陽の声が、一瞬遠くなる。
「……大丈夫ですか」
景陽の声で、我に返った。
「大丈夫だ」
そう言った声が、自分でも分かるほど掠れていた。
*
数日後、また別の観測記録が届いた。
今度は、斬月の名を冠した祈願所が、複数の村にまたがって作られつつあることを、観測班が確認したという内容だった。
斬月はその書類を、最後まで読めなかった。
途中で、文字が滲んだわけでもないのに、目を逸らした。
岐雲が、静かにそばに来た。
「読まなくても、いい」
「読まないと、また誰かが」
言いかけて、止まる。
「また誰かが、何だよ」
岐雲の問いに、答えられなかった。
答えれば、それが本当になる気がした。
自分の名によって、また誰かが縛られる。
自分の名によって、また誰かが裁かれる。
そんな未来を、まだ確かめたくなかった。
*
その日の夕方、景陽が処置室に顔を出した。
「顔色が、良くありません」
「別に、平気だ」
「平気な人間は、書類を三日も開けないままにしません」
的確に切り込まれて、斬月は言葉に詰まる。
景陽が、静かにこちらを見ている。責めているわけではない、いつも通りの目だった。
それなのに。
「……俺を」
声が震えた。
「俺を、武神様と呼ばないでくれ」
景陽は、何も言わなかった。
そもそも景陽は、一度も斬月をそう呼んだことがなかった。
分かっている。
分かっているのに、止められなかった。
呼んでいるのは、目の前のこの男ではない。
顔も知らない人界の誰かたちだ。
それなのに、一番近くにいる相手に、その言葉をぶつけてしまった。
斬月は、自分の膝の上で握った拳を見下ろす。
指先が、まだ微かに震えている。
「……悪い」
景陽は、記録板を静かに閉じた。
「謝る必要はありません」
そして、いつもより少しだけ低い声で、こう続けた。
「今、あなたが本当に言いたいことは、それだけですか」