テラーノベル
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ある日の放課後。
すみれがふと提案した。
「ねえ、私の知ってる場所に行ってみない?」
「どこ?」
「すみれの花がたくさん咲いている、静かなところ」
私は迷ったけれど、
彼女の目がどこか遠くを見ているのに気づいて、
うなずいた。
校舎を出て、細い道を歩きながら、
ふたりはほとんど言葉を交わさなかった。
けれど、沈黙の中にある心地よさがあった。
やがて、少し開けた丘の上に出ると、
そこは小さな野原で、紫色のすみれが風に揺れていた。
「わあ……」
私は思わず声を上げた。
すみれは静かに微笑み、膝を折って花に触れた。
「ここ、子どものころよく来てたんだ」
「きれいだね……まるで夢みたい」
「夢に見たこと、ある?」
私は少し照れくさそうに笑いながら、答えた。
「うん。私にとっては、ずっと大切な場所になりそう」
すみれは目を細めて、やわらかく言った。
「これからも、ずっと一緒に来たいね」
私は胸が熱くなって、
小さく頷いた。
風が吹いて、すみれの花びらがふたりの間に舞い落ちた。
それは、まるで時間が優しく繋がっていくような瞬間だった。
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