テラーノベル
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「先程は、失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません⋯⋯」
「いえ。あのような態度を取るのが普通だと」
「⋯⋯ここが、あなたの家なのですか?」
雨が上がった頃、”狐の花婿”に案内されたのは、
街の外れにひっそりと佇む古い屋敷だった。
木の香りがする、静かな空間。
何処か懐かしくて、でも現実離れした雰囲気。
「正確には、私の”居場所”です。
人間界と異界の境にあるため、普通の人には見えません」
「そう⋯⋯なのですね。なんだか、不思議な場所です。」
驚いている私を横目に、”狐の花婿”は淡々と歩く。
「澪さん。こちらへどうぞ」
「⋯⋯?あの、どうして私の名前をご存知なのですか⋯?」
「契約を結んだ相手の名を知るのは、当然のことです」
さらっと言われて、胸が少しだけ熱くなる──。
案内された部屋には、
淡い桜色の和服が丁寧に畳まれて置かれていた。
「これは⋯?」
「あなたの衣です。
異界の気配に触れると、普段の服では負担が大きいので。」
「ふ、負担⋯⋯?
あの、私⋯死んだりしませんよね⋯?」
「死なせません。私が守ります」
その言い方が、あまりに自然で、澪の心臓が跳ねた。
「着てみてください。きっと、澪さんになら──似合うと思います」
「⋯⋯はい。着てみます
あ⋯別室で着替えてもよろしいでしょうか⋯?」
「すみません。配慮ができず」
「いえ、こちらこそすみません⋯」
そうして澪は、隣の部屋へと移動し、何か特別そうな衣へ着替えた。
袖を通すと、ふわりと体に馴染む。
鏡に映る自分は、いつもより少し、大人っぽかった。
「⋯⋯どう、でしょうか?」
“狐の花婿”は、一瞬だけ見を見開き、
すぐにいつもの冷静な表情に戻った。
「とても、よく似合っています。
⋯⋯少し、見惚れてしまいました」
「えっ⋯⋯」
“狐の花婿”の耳が赤くなっているのを、澪は見逃さなかった。
少しの間、沈黙が流れた──。
「⋯そういえば、名前は⋯?
私の名前は”契約”の時に分かった、と思うんですけど⋯、
私は名前知らないなあと思いまして⋯⋯。」
「朧──といいます。」
「朧さん⋯」
私が名前を口にしてみると、”狐の花婿”──朧さんの耳が、また赤くなっていた。
コメント
3件
これ恋愛❔ めっちゃ好き❕