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僕の我儘で父上の書斎で仕事の見学をはじめた。
邪魔にならないように、シンが入り口近くに椅子を置いて、座るように促されたので待機している。
父上の書斎は広い。部屋の真ん中に長方形の机が置いてあり、左右に赤色のソファーが設置してある。その奥に父上が仕事で使うであろう、焦茶色のアンティークの机があり、資料が山のように積んであった。
壁際には隙間なく本棚に本が並べてある。
僕は書斎と聞いたら、少し散らかっているイメージがあったのだが、整理整頓がしっかりしていた。
これもシンの仕事の成果なのだろう。流石である。
シンは今は僕の世話係をしているが、元は父上の専属だった。
先ほどの父上とシンの会話から今も仕事を手伝っているらしい。
目の前の光景を見ていると、高い信頼関係を築いていることが分かる。
この二人を見ていると僕も信頼をおける存在が欲しくなる。
あまりシンの負担をかけたくないし、信頼をおける人をそばに置きたい。
専属については後日、ゆっくり選定していこう。
うん、この方針でいこう。
今は父上の仕事ぶりを見るとしよう。
『ああ、アレンが僕の仕事ぶりを見ている。頑張って仕事しないと。いけない……ニヤケが』
父上からこんな声が聞こえるし、相当張り切っているようだ。
左手で頬杖をつき、書類を書いている姿をかっこいいと思ったのだが……ニヤケを隠すためかよ。筒抜けですよ父上。
シンを確認するも、気がついている様子はない。
ただ、シンからも数分に一回、父上の張り切り具合を見て『はぁー』というため息がちょくちょく聞こえている。
僕、この場にいるの正解なのだろうか?おそらく仕事は捗っていると思うが、シンの態度は呆れている様子。僕がいるのといないとではため息するほど違いがあるのか。
「こんなところかな!」
どうやら仕事がひと段落ついたらしい。
「キアン様、お疲れ様でございます。お仕事の進捗の方は如何程ですか?」
「大方終わったよ。まぁ、いつも通り余裕を持たせて終わらせてあるから心配いらないよ。……アレン、静かに待ててえらいね」
父上は「いつも通り」の部分を強調して話しながら僕の頭を撫でる。
どれだけアピールしたいんだか。
こっちは声が丸聞こえなため、威厳もクソもないのだが……。
だが、ここで何も言わないのが大人の対応だ。せっかくのアピールを無碍にするのは良くない。それに3歳児がわかるわけがない。
だから、ここで僕がやるべきことは。
「ちちうえ……カッコよかったです!」
「そ…そんなに僕はカッコよかったかい!」
「うん!」
「……ふむ」
父上は僕の褒め言葉に喜び、そんな父上を見てシンは何かを考え始める。
父上の威厳は続かないな。
そこまで威厳にこだわる理由がわからない。
でも、僕はそんな父上が大好きだ。
……お、そろそろシン妙案が浮かんだのか、父上に話しかけた。
「キアン様、提案があるのですが、よろしいですか?」
「何かな?」
「今度から仕事を行う際、アレン様に一緒にいていただくことにしませんか?……そうすればいつもと違って仕事が早く終わりますし、先延ばしになることはありません」
「お、おい。……何を言っているんだ。いつも変わらずあんな感じじゃないか」
仕事を先延ばしにすることがあるのかよ。
大丈夫なの領主がこれで。
ちょっと先が心配になってきたよ。
「ちちうえ?」
「アレン、シンはきっと疲れているんだよ。もう、冗談はやめてほしいなぁ、もぉ」
『ドクン…ドク…ドクン』
あ、父上は慌ててるわ。
どうやら嘘らしい。原理は嘘発見器のようなもの。
耳をすませて鼓動を聞くと感覚的だが、リズムが一拍違う音がする。
今回の父上を例にすると、鼓動が少し普段よりも早いから少し焦っている、その上嘘をついたからリズムがわずかに早くなったんだ。
わかっていても、言わないに限る。僕が言うべき言葉は決まっているからだ。
ここで、一気に父上のテンションを上げよう。
「もっとちちうえのかっこいい、みたいです!」
「あぁぁ……」
「……ほう」
僕の言葉に父上は嬉しさのあまり狼狽え、シンは感心するような態度をとった。
父上の態度はわかるけど、シンは何に感心したのだろう?
「そうか……僕はかっこよかったか!今度からはいつでも来てもいいよ。ただ、お利口でいられるならね!約束できるかい?」
「うん!」
「アレン様はきっと立派な領主になられるかもしれませんな!……ユベール家は安泰ですな!」
僕は父上から許可が降りたことで嬉しくなり即答した。
なるほど、シンが感心していたのはこういうことだったのか。
こうして僕は演技力の効果もあってか父上の職場に出入りができるようになった。