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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第16話:「CGだろ」「やらせ乙」アンチ湧く
野生のヒグマが真っ白な猫に土下座して逃げ帰る――。
あのお散歩配信での前代未聞の『ヒグマ遭遇事件』から、数日が経過した。
俺たちの【日常チャンネル】を取り巻く環境は、良くも悪くも、完全に次のフェーズへと突入してしまっていた。
「……ふぅ。今日もいい天気だな」
俺は縁側に腰を下ろし、シロが前足で『ぽんっ』と錬成した奇跡のふかふか黒土の畑を眺めながら、淹れたてのコーヒーを啜っていた。
足元では、世界を騒がせている張本人(張本猫)のシロが、俺の足にスリスリと体を擦り付けながら喉をゴロゴロと鳴らしている。
今日もマイナスイオンが絶好調だ。この空間にいるだけで、ブラック企業時代にすり減った寿命がみるみる回復していくのがわかる。
だが、この圧倒的に平和な古民家の外――インターネットという広大な海では、今まさに大嵐が吹き荒れていた。
「お兄さーーんっ!! 大変です、また新しい記事が出てます!!」
庭の入り口から、専属カメラマンの小春ちゃんがスマホを握りしめて駆け込んでくる。すっかり我が家の毎朝の風物詩となった光景だ。
彼女は縁側に飛び乗るなり、画面を俺の顔の前に突きつけた。
表示されていたのは、日本最大手のポータルサイトのエンタメニュース欄。
そのトップニュースの特大見出しに、こんな文字が躍っていた。
『登録者300万人突破の謎の猫配信! ヒグマ土下座動画は精巧なCGか、それとも動物虐待か!? 専門家が映像を徹底検証!』
「……またか。暇な奴らもいるもんだな」
俺はコーヒーを一口飲み、全く動じることなく息を吐いた。
あの日、50万人が目撃したヒグマの土下座シーンの切り抜き動画は、瞬く間にSNSで拡散され、日本のみならず海外のニュース番組でも『Miracle Cat(奇跡の猫)』として取り上げられる事態となった。
しかし、注目度が上がり、一般層にまで名が知れ渡ると、必ず湧いてくるのが『アンチ(批判者)』という存在だ。
「お兄さん、コメント欄がひどいんです……! 昨日のアーカイブ動画なんて、低評価が急に増えて、心無いコメントばっかりで……!」
小春ちゃんが悔しそうに唇を噛みながら、MeTubeのコメント欄を開いて見せてくれた。
そこには、純粋に癒やしを求めていたいつもの視聴者たちのコメントを押し流すように、攻撃的な言葉がズラリと並んでいた。
『ヒグマが土下座とかww CG丸出しで草』
『猫が空飛んだり光ったり、やりすぎ。やらせ乙』
『着ぐるみの熊使ってバズろうとする承認欲求モンスター』
『どうせ裏で猫に薬でも飲ませて大人しくさせてんだろ。動物虐待で通報しました』
『こんなフェイク動画にMeTubeギフト投げてる奴ら、頭お花畑すぎん?』
『主の声が胡散臭い。詐欺師のトーンだわ』
「うぅ……シロちゃんのこと虐待とか、お兄さんのこと詐欺師だとか……ひどすぎます。私、悔しくて昨日の夜、全然眠れませんでした……っ」
小春ちゃんはポロポロと大粒の涙をこぼし、足元にいるシロをぎゅっと抱きしめた。
『ミャウ?(どうしたの?)』
シロは不思議そうに小春ちゃんの涙を舐め、癒やしのオーラをふわりと漂わせる。
普通なら、ここまで理不尽な誹謗中傷を浴びせられれば、怒り狂うか、あるいは精神を病んで配信を休止してしまうだろう。
実際、小春ちゃんは自分のことのように傷つき、胸を痛めている。
だが。
「……小春ちゃん。ちょっとこれ見てみろ」
「えっ……?」
俺は自分のスマホを取り出し、以前勤めていたブラック企業のチャットツールの履歴(退職時にスクショしておいたもの)を画面に表示させた。
『てめえの代わりなんかいくらでもいんだよ無能が!』
『今日の深夜3時までにこの資料全部作り直せ。寝るなよ』
『お前のエクセルの行が1ミリずれてたせいで俺の機嫌が悪くなった。罰金な』
『死ね。今すぐ窓から飛び降りろ給料泥棒』
「ひっ……!?」
あまりの暴言の羅列に、小春ちゃんが息を呑んで引いた。
「いいか、小春ちゃん。俺はこういう言葉を、顔と実名を晒した上司から、毎日、直接耳元で怒鳴り散らされていたんだ。深夜の3時に鬼電で叩き起こされながらな」
「お、お兄、さん……それ、犯罪……」
俺はクスッと笑い、アンチコメントが並ぶ画面を指差した。
「それに比べたら、このアンチコメントなんて『挨拶』みたいなもんだ。顔も見えない安全圏から、ただ文字を打ち込んでるだけ。深夜に電話もかかってこないし、給料も減らされない。むしろ、わざわざ動画を再生して広告収入まで落としてくれている、熱心なお客様だよ」
「お、お客様……ですか?」
「ああ。俺にとってのストレスは、『理不尽に時間を奪われること』と『睡眠を邪魔されること』だ。このアンチどもは、俺の睡眠時間を1秒も奪っていない。だから、ノーダメージだ」
極限の社畜生活を生き抜いた俺の精神(メンタル)は、すでに常人の理解を超えた領域で鋼のように鍛え上げられていた。
ネットのアンチなど、あの狂気の上司たちに比べれば、道端の石ころも同然。
俺の『絶対的スローライフ』を脅かすほどの存在には、到底なり得ないのだ。
「で、でも……お兄さんが平気でも、シロちゃんが疑われるのは……」
「そうだな。それは少し癪に障る」
俺は顎を撫でた。
俺自身が何を言われるのは構わないが、シロという神聖な存在を「フェイク」だの「虐待」だのと言われるのは、確かにいい気分ではない。
「お兄さん、今日の配信、お休みにしますか……? これ以上荒らされたら、いつものファンの方たちも悲しみますし……」
小春ちゃんが不安そうに見上げてくる。
炎上した時は、ほとぼりが冷めるまで沈黙するのがネットの定石だ。
しかし、俺は首を横に振った。
「いや、いつも通りやるよ。休んだら、それこそアンチの思う壺だ。『逃げた』って言われるだけだからな」
「でも、コメント欄が……」
「大丈夫。口で反論したって、あいつらは聞く耳を持たない。だから――『見せる』だけでいい」
俺は縁側で気持ちよさそうに丸くなっているシロを抱き上げ、その極上の毛並みに顔を埋めた。
瞬間、全身を突き抜ける圧倒的なマイナスイオン。これだ。この本物の癒やしを、ただ画面の向こうに垂れ流せばいい。
「今日の夕飯、小春ちゃんの家からもらった新鮮な野菜と、ドバイの石油王から届いた最高級のサーモンがあるんだ。それをいつも通り、縁側でシロと一緒に食べる。それだけだ」
「……ただ、食べるだけ、ですか?」
「ああ。シロの『力』は、小春ちゃんが一番よく知ってるだろ?」
俺がウインクすると、小春ちゃんはハッと何かに気づいたように目を丸くした。
「そ、そうか……! シロちゃんが美味しいものを食べた時の、あの……!」
「そういうこと。アンチだろうがなんだろうが、シロの可愛さと『あのオーラ』を真正面から浴びて、無事でいられる人間なんてこの世にいない。……荒らしたい奴らには、好きなだけ見させておけばいいさ」
俺が不敵に笑うと、小春ちゃんの顔にも、ようやくいつもの明るい笑顔が戻った。
「……はいっ! わかりました! 私、今日も全力でカメラ回しますね! アンチの人たちに、シロちゃんの本当の神々しさを思い知らせてやりましょう!」
『ミャーウ!(サーモン食べる!)』
夕暮れ時。
西日が古民家をオレンジ色に染め上げる頃、俺たちはいつも通り、何食わぬ顔で【日常チャンネル】のライブ配信ボタンを押した。
数百万人のファンと、炎上の匂いを嗅ぎつけて押し寄せた大量のアンチたち。
嵐の予感に満ちた生配信が、今、静かに幕を開けた。
コメント
1件
わああ第16話、めっちゃ熱かった!!😭🔥 アンチ湧いても「挨拶みたいなもん」「ノーダメージ」って言い放つお兄さん、過去のブラック企業経験がここで生きてるの泣ける…!!小春ちゃんが悔し涙するシロちゃん抱きしめるシーンも胸ぎゅってなったよ💦でも「シロの可愛さで黙らせる」って方向性、めっちゃアガる!!これから配信がどんな騒動になるか気になりすぎる〜!!💕