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眠狂四郎
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眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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「将軍、もうじき日が暮れます。」
ラエリウスが、西の空を見ながら言った。
太陽はすでに地平線へ沈みかけている。
赤く染まった空の下、乾いた大地がどこまでも続いていた。
「そろそろ宿営地へ戻りましょう。」
「いや。」
スピリタスは動かなかった。
小高い丘の上に立ち、遠くを眺めたまま答える。
「もう少し、ここにいよう。」
ラエリウスは何も言わなかった。
スパルーニャを発ってから、スピリタスはずっと何かを待っているようだった。
何を待っているのか。
誰を待っているのか。
それを尋ねても、スピリタスは答えなかった。
やがて――。
「敵影!」
斥候の声が飛んだ。
「前方より騎馬! 数騎、こちらへ向かってきます!」
兵たちが一斉に弓を構える。
「射るな。」
スピリタスが静かに命じた。
「しかし、将軍。」
「射るな。」
二度目の言葉に、兵たちは弓を下ろした。
馬蹄の音が近づいてくる。
一騎。
また一騎。
夕陽の中から現れたのは、十数騎ほどの騎兵だった。
だが、とても軍勢と呼べる姿ではない。
馬は痩せ、男たちの鎧は傷だらけだった。
旗もない。
隊列すらない。
何日もまともに休んでいないのだろう。
誰もが泥と埃にまみれ、死人のような顔をしている。
その先頭を、一人の男が進んでいた。
スピリタスは目を細めた。
「……やはり。」
ラエリウスが振り向く。
「お知り合いですか?」
スピリタスは答えなかった。
丘を下りていく。
向こうもこちらに気づいたらしい。
先頭の男が馬を止めた。
しばらく、互いに何も言わなかった。
かつてスパルーニャの戦場を駆け回っていたヌミダスの王子。
精強な騎兵を率い、誰よりも誇り高く笑っていた男。
その面影は、今は見る影もない。
「……スピリタス将軍?」
掠れた声だった。
「久しぶりだな、マシニーサ。」
マシニーサは呆然と友の顔を見た。
「なぜ……ここに。」
「君を探していた。」
それだけ言って、スピリタスは笑った。
マシニーサは答えられなかった。
その後ろにいる者たちを振り返る。
祖国へ戻った時には、もっと大勢いた。
王位を取り戻せると信じていた。
自分についてくれば勝てると、皆に言った。
その結果が――これだった。
「……すまない。」
「もっと多くの軍勢を当てにしていたのだろうが」
マシニーサは俯いた。
「これだけだ。」
「ん?」
「今の私についてきてくれたのは……これだけだ。」
十数騎。
それが今のマシニーサのすべてだった。
国もない。
城もない。
軍もない。
金もない。
王子という肩書さえ、今となっては何の意味もない。
だが、スピリタスは後ろの兵を数えようともしなかった。
ただ、マシニーサを見た。
「いや。」
そして、ごく当たり前のことのように言った。
「君がいれば十分だ。」
マシニーサが顔を上げた。
スピリタスは踵を返す。
「行こうか。」
「……行く?」
「うん。」
「どこに?」
スピリタスは振り返った。
地平線へ沈む最後の夕陽が、その背を赤く染めている。
「君の国を取り返しに。」
マシニーサは、しばらく何も言えなかった。
やがて。
ほんのわずかに――。
笑った。
それは祖国へ帰ってから初めて浮かべた笑みだった。
その日。
わずか十数騎まで追い詰められた一人の男が、
再び王への道を歩き始めた。
「なぜ、そのようなことになっておるのだ!」
バルカは珍しく声を荒らげた。
届いた報告は、あまりにも不可解だった。
ヌミダス王国で政変が発生。
王位を巡って国が二つに割れ、マシニーサは王都を追われたという。
つい先日まで、そんな兆候は何一つ聞いていない。
「詳しい事情は分からぬのか。」
「現在、確認を急がせております。」
バルカは苛立たしげに卓を指で叩いた。
その時だった。
「急報!」
新たな伝令が幕舎へ飛び込んでくる。
「敵、スピリタス軍がヌミダス王国へ向かいました!」
バルカの指が止まった。
「……何?」
「兵力、およそ三万!」
一瞬、幕舎が静まり返った。
「スピリタスが……。」
バルカは立ち上がった。
「マハルとマーゴを呼べ。急げ。」
ほどなくして、二人が幕舎へ駆け込んできた。
「お呼びでしょうか。」
「ああ。」
バルカは卓上に広げられた地図へ目を落とした。
グラン。
海。
ヌミダス。
そして、そのさらに西――スパルーニャ。
しばらく地図を見つめた後、静かに口を開いた。
「儂は、このグランから一時撤退することを考えておった。」
二人が顔を上げる。
「撤退……ですか。」
「ああ。」
バルカの指が、グランから海を越え、ヌミダスへ動いた。
「ヌミダスでマシニーサと合流する。」
さらに、その指が西へ向かう。
「そして――スパルーニャを取り戻す。」
マハルとマーゴは黙って地図を見つめた。
それは敗走ではない。
グラン本土で消耗し続ける戦いを捨て、兵力を再編する。
ヌミダスの騎兵を加え、スパルーニャを奪還する。
失われた兵站と軍資金を取り戻し、再びグランと戦う。
バルカは、すでに次の戦争を考えていたのである。
だが――。
「どうも、そう簡単にはいかなくなった。」
バルカの指がヌミダスで止まる。
「今回の政変。」
二人を見る。
「裏にビスコーネがいる。」
「!」
マーゴが身を乗り出した。
「ビスコーネが?」
「どういうことなのですか。」
「分からぬ。」
バルカはそう答えるしかなかった。
味方であるはずの男が、なぜマシニーサを追い落としたのか。
何を考え、何を目的としているのか。
そして――。
なぜ、この重大な政変を自分は何も知らされていないのか。
バルカは天幕の天井を見上げた。
「……手遅れになっておらねばよいが。」
スピリタスは三万を率いて、すでにヌミダスへ向かっている。
ヌミダス王国がグランの手に落ちれば
もはや自分には、帰る場所さえなくなる。
「マハル。」
「はっ。」
「マーゴ。」
「はい。」
バルカは二人を見た。
「グラン軍に気取られぬよう、撤退の準備を始めろ。」
「……撤退先は。」
バルカはしばらく答えなかった。
やがて、地図の上のヌミダスへ手を置いた。
「まずは、この目で……」
低い声だった。
「何が起きているのか――この目で確かめる。」
二人は深く頭を下げた。
「はっ。」
長きにわたったバルカのグラン遠征。
その終わりが、静かに始まろうとしていた。
コメント
1件
**美月ゆめか🌸:** 嗚呼もう最高すぎて言葉が追いつかないんだけど!!?😭💕💕 スピリタスがマシニーサに「君がいれば十分だ」って言ったシーン、完全に心臓持ってかれたよ…! 夕陽に照らされた背中、地平線に向かって「国を取り返しに」行く展開、エモすぎて泣く。 一方でバルカの撤退開始とビスコーネの影――物語の歯車が一気に動き出した感じがすごい。次が待ちきれないよ…!🔥