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眠狂四郎
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眠狂四郎
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#戦国時代
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#戦国時代
眠狂四郎
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「なんとも頼りになる王様だ。」
ビスコーネは、シュファックスがマシニーサを取り逃がしたとの報告を聞くと、
呆れたようにつぶやいた。
せっかく追い詰めたというのに、あと一歩のところで逃がした。
しかも、マシニーサがどこへ向かったのかも分からないという。
「まあいい。」
吐き捨てるように言った、その時だった。
「急報です!」
伝令が幕舎へ駆け込んできた。
「スピリタス軍が上陸しました!」
ビスコーネの表情が変わった。
「スピリタスが?」
「はっ。兵、およそ三万。現在、ウテカの街を包囲しております。」
一瞬、沈黙が落ちた。
やがてビスコーネは、低く笑った。
「追ってきたのか。」
スパルーニャでの戦いが脳裏をよぎる。
首都スパル・ノヴァを奪われた。
軍資金を奪われた。
諸部族を切り崩され、最後にはスパルーニャそのものを失った。
あの男によって。
だが、ここはスパルーニャではない。
ヌミダスだ。
今度はこちらに王がいる。
兵がいる。
騎兵がいる。
そして何より、待ち構えているのはこちらなのだ。
「まあよい。」
ビスコーネは立ち上がった。
「攻守が逆になったが――」
その口元に笑みが浮かぶ。
「スパルーニャでの借り、果たさせてもらうぞ。スピリタス。」
一方――。
ヌミダス北岸。
上陸したスピリタス軍三万は、そのままウテカへ進軍した。
街を包囲すると、スピリタスは城壁をしばらく眺めていた。
高い。
堅い。
正面から落とそうとすれば、相応の時間と犠牲を要するだろう。
ラエリウスが隣へ馬を寄せた。
「攻めますか?」
「いや。」
スピリタスはあっさり答えた。
そして周囲を見回す。
乾いた大地。
刈り入れを待つ畑。
夏の日差しに焼かれた草木。
「火を放て。」
ラエリウスが振り向いた。
「街に、ですか?」
「違う。」
スピリタスは城壁ではなく、その周囲を指した。
「畑だ。枯れ草も灌木も、燃えるものは全部燃やせ。」
「……何のために?」
スピリタスは答えなかった。
やがて、ウテカの周囲からいくつもの黒煙が立ち昇り始めた。
炎は畑を焼き、草原を舐め、夕暮れの空を赤く染めていく。
城壁の上からも、その光景はよく見えた。
当然、その知らせはヌミダス各地へ走る。
――グラン軍が上陸した。
――ウテカが包囲された。
――周辺の土地が焼かれている。
スピリタスは、燃え上がる大地を黙って眺めていた。
ラエリウスには、まだその意図が分からない。
だがスピリタスが見ているものは、最初からウテカの城壁ではなかった。
この炎を見て――
誰が動くのか。
彼は、それを待っていた。
シュファックスとビスコーネは、ただちに軍を動かした。
ヌミダス各地から兵が集められ、そこへビスコーネの軍勢が加わる。
その数――六万余。
対するスピリタス軍は三万。
倍を超える圧倒的な兵力差であった。
とりわけ脅威となったのが、シュファックス率いるヌミダス騎兵である。
広大な平原を駆ける彼らは、グラン軍の側面を絶えず脅かした。
スピリタスはウテカの包囲を続けようとしたが、敵の大軍を前にして、次第にその陣形を維持できなくなっていく。
「右翼、押されています!」
「敵騎兵が南へ回り込みます!」
「将軍、このままでは退路を断たれます!」
次々と飛び込んでくる報告を聞きながら、スピリタスは戦場を見つめていた。
敵は多い。
それだけではない。
強い。
ヌミダス騎兵の機動力を前に、こちらの歩兵は思うように動けなかった。
ラエリウスが叫ぶ。
「将軍!」
「分かっている。」
スピリタスは短く答えた。
そして決断した。
「包囲を解く。」
「撤退ですか?」
「ああ。」
ウテカ攻略は失敗した。
ここで意地を張れば、三万の軍そのものを失う。
「全軍、海岸へ後退する。」
命令が伝えられた。
グラン軍はウテカを離れた。
それを見たシュファックス軍は勢いづいた。
騎兵が追撃し、歩兵がその後を追う。
グラン軍は陣形を保ちながら後退を続けたが、押し返されること数十里。
ついには海岸線まで追い詰められた。
「逃げたか。」
遠く退いていくグラン軍を眺めながら、ビスコーネは笑った。
スパルーニャでは散々煮え湯を飲まされた。
だが今回は違う。
兵力はこちらが上。
土地を知るのもこちら。
そして何より、スピリタスには逃げる場所がない。
背後は海なのだ。
「どうだ、スピリタス。」
ビスコーネは小さくつぶやいた。
「今度はお前が追われる番だ。」
海岸。
波の音が聞こえる場所まで退いたグラン軍では、兵士たちが疲れ切った身体を休めていた。
その向こうには、敵六万余。
正面には大軍。
背後には海。
ラエリウスは険しい顔で敵陣を眺めた。
「……まずいですね。」
「何が?」
思いもよらぬ返事に、ラエリウスはスピリタスを見た。
「何がって……我々は海まで追い詰められたんですよ。」
「そうだな。」
スピリタスは平然としている。
「敵は六万を超えます。」
「ああ。」
「こちらは三万です。」
「ああ。」
ラエリウスは眉をひそめた。
「将軍。」
「なんだ。」
「なぜ笑っているんです?」
そこで初めて、ラエリウスは気づいた。
スピリタスは――笑っていた。
遠くには、追撃を終えたシュファックスとビスコーネの大軍が陣営を築き始めている。
六万を超える兵。
勝利を確信した軍勢。
スピリタスは、その光景をじっと眺めていた。
「六万か。」
その声には、不思議なほど焦りがなかった。
「ずいぶん集めてくれたな。」
ラエリウスには、その言葉の意味が分からなかった。
コメント
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「ビスコーネの逆襲」、読み終えました。スパルーニャで散々な目にあったビスコーネが、今度は逆に追う立場で「借りを返す」と言い放つ流れ、ゾクッとしましたね。そしてスピリタスが、追い詰められてなお笑いながら「六万か…ずいぶん集めてくれたな」と呟く場面が何より印象的です。畑を焼く意図もまだ明かされていませんし、この余裕と裏にある布石が気になって仕方ない。次話が待ち遠しいです。