※新しいカプに挑戦してみました。苦手な方はお逃げ下さい。
伊武「ふぅ…」
薄暗い建物の屋上で、伊武は一人煙草を吹かしていた。
伊武「…龍本の兄貴」
生まれて此の方、恋なんてしたことがなかった。この組に入って、青いパーカーのあの人と出会うまでは。
圧倒的な強さに、仁義と仁侠に生きる心。
初めて会ったときから、あの人はずっとそうだ。
だから慕われるし好かれている。舎弟達にも、兄貴達にも。シマで働くカタギ達も、あの人が来てくれたら安心だとよく言っていた。
…その感情と、自分が今抱いているものは違うのだと、伊武は薄々気付き始めていた。
屋上のドアがガチャリと鈍い音をたてた。伊武は体を起こして、音のした方を振り向く。
龍本「やっぱり、ここにいたか」
伊武「龍本の兄貴…」
龍本と呼ばれたその男は同じように煙草を吹かしながら伊武の隣に来る。
龍本「お前がいないときは、大抵ここにいるからな」
伊武「…」
何故、兄貴は俺のところに来たのか。その答えを、伊武は本能的に理解していた。
伊武「兄貴…何かありましたか」
見抜いた気になっていた。けれど…
龍本「こっちの台詞だよ。お前こそ、何を隠してんだ」
人の気持ちを見抜くのと、自分の気持ちを隠すのは苦手じゃなかった。むしろ得意なくらいだ。
伊武「…無理だったかぁ」
伊武はフッと笑った。
伊武「ペーペーの阿蒜っているじゃないですか。あいつがどうも危なっかしくて…ほっといたら死にそうだし、結構心配になるんです。それで少し、精神的に疲れて…」
咄嗟に考えた嘘。本心ではなかった。極道というのはいつ死ぬか分からないものなのだ。若かろうと、老いていようと、それは変わらない。
龍本「ちげぇだろ。お前はそんな甘っちょろい奴じゃねぇ。別の理由があるはずだ」
言いたくない。言葉にすればきっと兄貴に幻滅されてしまうだろう。男が男を好きになるなんて、気持ち悪いと思うに決まっている。
伊武の気持ちに気付いているのかいないのか、龍本は下を向きそうな舎弟の肩を掴み、自分と向き合わせた。
龍本「コラ。こっち向けよ。…ちゃんと、言え」
怒っているような声とは裏腹に、顔は舎弟を本気で心配するような、真剣な表情を浮かべていた。
龍本「この頃のお前はずっとそうなんだよ。他の奴等といるときは普通なのに、俺と話すときだけはずっと目が合わねぇ。態度も明らかにちげぇし
…そりゃ気になるってもんだろ。俺が納得のいくような説明、してもらわねぇとなぁ?」
これ以上嘘をついても、きっとすぐ見破られる。隠すことなどできはしない。伊武は全てを話すことに決めた。
伊武「…俺は…、ずっと、貴方が好きでした。俺が組に入った時から良くしてくれて、鍛えてくれた」
伊武の声がだんだん震えていく。
伊武「でも、貴方は強い。そして良識的で情に厚い人だ。当然、人望もある。
…だから、勘違いしちゃ駄目だって、この気持ちは間違ってるって…そう思ったんです」
見せないようにしていたはずなのに、目から勝手に熱いものが零れてしまう。白い頬が濡れていく。
それを親指の腹で拭ってやると、龍本は一つ疑問を口にした。
龍本「何が駄目なんだ?」
伊武「!…」
龍本「好きな奴を好きだって思うことの、何が駄目なんだよ?」
伊武「…でも、貴方と俺は男同士ですし、男に好きなんて言われて、気持ち悪いって思うんじゃないかって…」
龍本「男が女としか恋愛できねぇなんて、誰が決めた?」
信じられないほど優しい声。信じられないほど柔らかに触れる手。全てが暖かく甘く感じ、それが伊武の涙を助長させる。
龍本「…おい伊武、目ぇ閉じろ」
声が聞こえてきた。意識せずに、伊武はゆっくりと瞼を閉じる。
逆光の二つのシルエットが触れ合う。夜景のネオンが眩しい。
龍本「…な?お前が気ぃ病む必要なんてねぇんだよ」
伊武「ん…すいません兄貴…」
目元を拭う伊武。
龍本(…何て、可愛らしい奴なんだ)
伊武は元より簡単に泣いたりするような奴ではなかった。阿蒜とは違って、舎弟ながらに大人っぽい印象だったはずだ。それが、ひとたび泣いてしまえば、こんなにも愛おしく、いじらしくなってしまうなんて…
龍本「…っ…こりゃ参ったな。俺も、お前のこと好きみてぇだわ」
伊武「!」
伊武が驚いたように頬を赤らめる。そういった仕草一つ一つが何もかも愛らしくて、龍本はもう一度、はっきりと伝えた。
龍本「伊武…愛してる」
伊武は深く頷いた。その目はまだ潤んでいる。よく整った黒い服に、タトゥーの入った逞しい腕が巻かれた。
二人は何度も唇を重ねる。
この町―花宝町の灯りが、消えることはない。
コメント
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わーわーわーわー発狂しちゃ嫌よーー…(/´△`\)😅
はーふーー、発狂すっか フォーーーーーーーーー! !щ(゜▽゜щ)(*^3^)/~☆( ̄* ̄)(・д・ = ・д・) (ノ゜ο゜)ノ(ノ`△´)ノ