純の胸の内を聞いた恵菜は、複雑な思いで、彼の言葉を咀嚼していた。
(谷岡さん…………私が思った以上に、女性関係が派手だったんだ……)
これ以上、純に想いを寄せ続けたら、また辛い思いをしてしまうかもしれない。
元夫の勇人と、純は全然違う、というのは理解している。
独白の最後に、彼は、最近会っている女性は君だけ、とも言ってくれた。
「谷岡さん、どうして私に、自分の印象を悪くする話をしてくれたんですか……?」
率直な気持ちを、恵菜は純に投げると、彼は彼女から再び海へと視線を移す。
「立川で食事した時、恵菜さん、俺に離婚した事や原因を話してくれただろ? まだ会って間もない俺に、過去を話す事って、かなり勇気が要ると思うし、恵菜さんだけが言って俺が言わないのも、フェアじゃないって思ったんだ」
(谷岡さん…………そこまでストレートに話しちゃうんだ……。過去に色んな女性と遊んできた、なんて、大概の男の人って隠すと思うし……)
恵菜は、黙ったまま海を見やっている純の表情を盗み見た。
かつての彼女たちに振られ続けて、次の恋に踏み出すのに臆病になり、ドライな関係を多くの女性と結んできた彼。
不意に、元夫、早瀬勇人の幻影が、純に重なる。
(違う! 早瀬と谷岡さんは…………全然違うから……!)
年齢も見た目も全く違う二人が重なるって事は、恵菜の中で、純と恋人同士になったとしても、彼が他の女と浮気をして、恵菜から離れていくのでは、と危惧しているのかもしれない。
恵菜は表情を苦痛に歪ませながら俯き、強くかぶりを振った。
今にも泣きそうな面差しで、首を横に数回振る恵菜。
彼女の様子を気遣っているのか、純に、大丈夫? と声を掛けられた。
「…………怖い……ん……です……」
「怖い……?」
恵菜は、おぼつかない様子で、ゆっくりと肯首する。
「離婚して…………新たな恋をする事が怖いんです。元夫には不倫されているし、次に好きな人ができて……恋人同士になったとしても……」
彼女は、フゥーッと長く息を漏らした。
この先の言葉を繋げるのに迷いがあるのか、零れた吐息が、どことなく震えている。
「……また他の女に気持ちが傾いて…………私から離れていくんじゃないかって思うと…………すごく……怖いんです……」
俯き加減の恵菜の瞳は、憂いを帯び、視線を砂浜に向けつつ、後ろ向きな言葉を紡いでいく。
「…………元夫が不倫していたのを知った時、すごくショックだったし…………もう、あんな思いをしたくない。だから…………恋愛は……しばらくいいかなって…………」
純に対する想いとは裏腹な事を口にした恵菜は、瞳の奥にピリピリとした痺れを感じ、鮮やかな色彩を纏う空を見上げた。
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