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ライナーは、存続を決めた元老院へ新たな権限を与えた。
元老院議員の中から毎年、正副二名の代表者を選出し、
国王へ直接意見を具申する権利である。
「王に過ちあれば、遠慮なく正してほしい。」
それがライナーの願いだった。
記念すべき初年度の代表には、スピリタスの父、大スピリタスと
センプロンが選ばれた。
バルカがなお降伏しない以上、王国は戦時体制を解くことはできない。
大スピリタスは地図を前に静かに進言する。
「王都北部へ二万の兵を。」
「南部にはセンプロン殿の四万。」
「バルカがどちらから現れても対応できる布陣です。」
センプロンもうなずいた。
「異論ありません。」
ライナーは二人を見渡し、静かに頷く。
「承知した。」
「元老院の意見を採用する。」
こうして王都周辺には六万の兵が配置された。
誰もが、それで十分だと信じていた。
――ただ一人、アルペス山脈を越えようとしている男を除いて。
「この中で、決闘を望む者はおるか。」
バルカは、アルペス山中で襲い掛かってきたガレリア人を捕え、捕虜とした。
その捕虜に向かって言った
「勝てば自由と武具を与える。」
「敗れれば、その苦しみから永遠に解放されよう。」
捕虜たちは顔を見合わせた。
凍える山中で飢えに苦しみ、このまま生き延びられる保証はない。
やがて、一人が静かに前へ出た。
続いて、もう一人。
バルカは全軍へ向き直る。
「兵たちよ、よく見よ。」
「彼らは、勝たねば自由を得られぬ。」
「負ければ死あるのみ。」
「戦え!」
二人の捕虜は雄叫びを上げ、互いへ斬りかかった。
その必死の姿を、二万の兵が固唾をのんで見守る。
決着がつき、一人を解放し、
一人にとどめを刺した。
バルカは静かに言った。
「我らも同じだ。」
「アルペスを越えた今、退路はない。」
「勝てばグランの富も土地も、お前たちのものだ。」
「勝利した暁には、子の代まで税を免除する。」
「土地を与え、金貨を与える。」
「奴隷であっても戦う者には自由を与えよう。」
#シェイプシフター
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#戦国時代
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284
#戦国時代
眠狂四郎
196
#軍師
眠狂四郎
153
「さらに一人につき二人のグラン人奴隷を授ける。」
「私は約束を違えぬ。」
山々に兵たちの鬨の声が轟いた。
「ガラリアからの返答が鈍い。」
「やはり勝たねば動かぬか。」
バルカは静かに地図へ視線を落とし、初戦の戦場を探った
「バルカ軍、アルペスを越え、グラン北部、ガラリアへ通じる街道に出現!」
伝令の叫びに、その場の空気が凍りついた。
「何だと……?」
ひと月前まで、敵はスパルーニャにいたはずだった。
「あの山を越えてきたのか……。」
大スピリタスは即座に動いた。
軽装騎兵、軽装歩兵あわせて四千を率い、
ティキスス川へ急行する。
その報を受けたバルカは、口元に笑みを浮かべた。
「来たぞ。」
傍らには、一人の若き王が立っていた。
マシニーサ。
ヌミダス騎兵を率いる王である。
その瞳が鋭く輝く。
「ようやく、わが騎兵の出番か。」
バルカは静かに頷いた。
「まずは奴らに、本物の騎兵とはどういうものか教えてやろう。」
バルカは斥候を巧みに操り、
わざと自軍の姿を大スピリタスへ見つけさせた。
遭遇戦を装い、そのまま戦場へ引きずり込む。
両翼にはマシニーサ率いるヌミダス騎兵。
中央には合流したガラリア軍。
総勢六千。
序盤、グラン軍は数で勝る勢いを見せた。
だが、それはバルカの罠だった。
「始めよ。」
バルカの合図とともに、ヌミダス騎兵が砂煙を巻き上げ突撃した。
「投げ槍、放て!」
グラン軍軽装歩兵は一斉に槍を放つ。
しかし、疾風のように迫る騎兵を止めることはできなかった。
ヌミダス騎兵は槍の雨をかいくぐり、そのまま戦列へ突入する。
「うわあっ!」
歩兵隊形は瞬く間に崩れ去った。
続いて、両軍の騎兵が激突する。
だが勝敗は早かった。
数で勝るヌミダス騎兵は左右両翼からグラン騎兵を押し潰し、
そのまま中央へ回り込む。
「包囲されるぞ!」
大スピリタスは必死に兵をまとめようとした。
その時、一騎のヌミダス騎兵が槍を突き出す。
「ぐっ……!」
槍は大スピリタスを深く傷つけた。
「将軍を守れ!」
グラン軍は辛うじて大スピリタスを救い出し、野営地まで後退した。
大スピリタスの傷は、思いのほか深かった。
血が止まらない。
視界は霞み、意識が遠のいていく。
(まだ……倒れるわけにはいかぬ。)
唇を震わせ、最後の力を振り絞る。
「……センプロンに、使いを。」
副官が身を乗り出した。
「合流し……ここで……止めねば……。」
その言葉を言い終えると同時に、大スピリタスの身体から力が抜けた。
「将軍!」
呼びかけにも応えず、彼は静かに意識を失った。
「バルカ、グラン軍大スピリタスを破る。」
この報は瞬く間にガラリア中を駆け巡った。
南部諸部族は次々と使者を送り、
軍事同盟を申し出る。
兵と食糧、そして馬。
惜しみなく提供された。
それは、長年ティモシーの苛烈な支配へ耐えてきた人々の怨嗟でもあった。
そして、ある夜――。
寝静まったグラン軍陣営で異変が起きる。
グラン軍に従軍していたガラリア兵二千が、一斉に蜂起したのである。
熟睡する兵へ斬りかかり、血の雨を降らせ、
混乱の中を駆け抜け、そのままバルカ陣営へ逃れた。
バルカは大いに喜んだ。
「故郷へ帰り、そして、お前たちの目で見たことを語れ。」
帰郷した者たちは部族長へ口々に訴えた。
「バルカは勝つ。」
「今こそ立ち上がる時だ。」
さらに、彼らはグラン兵を討っている。
もはや後戻りはできなかった。
ガラリアの諸部族は次々と旗を掲げ、
バルカ軍は四万を超える大軍へ膨れ上がる。
その勢いは、なお止まることを知らなかった。
コメント
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第48話、バルカがアルペスを越えた衝撃と、その後の戦略の鮮やかさに引き込まれました。特に捕虜同士を戦わせて「勝てば自由」と示すシーンは、彼の非情さと兵を掴む巧みさが滲んでいて鳥肌が立ちました。大スピリタスを破った報がガラリア中を駆け巡り、蜂起が連鎖していく様子も、長年抑圧されてきた人々の怨嗟が実感できて重厚でした。バルカの勢いが止まらず、次が本当に気になります。