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#戦国時代
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時を同じくして――。
イージプ、キュレニアでは相次いで反乱が勃発した。
着任したばかりのアグリとスピリタスは、
休む間もなく鎮圧戦へ身を投じることとなる。
大スピリタスからバルカ出現の報を受けたセンプロンは、
ただちに四万の軍を率いてグラン北部へ進軍した。
一方――。
マシニーサ率いるヌミダス騎兵が、
大スピリタスの宿営地へ襲いかかった。
「……逃がしたか。」
天幕はすでに畳まれ、
そこには誰一人残っていなかった。
大スピリタスはトレビ川東岸の丘陵地帯まで後退し、
兵へ陣地構築を命じた。
「急げ!」
「柵を築け!」
「あの男の軍には……禍々しきものを感じる。」
「何としても……何としても持ちこたえねば……。」
その言葉を最後に、
大スピリタスは再びその場へ倒れ込んだ。
センプロンは強行軍の末、大スピリタスの陣へ到着した。
その足で、病床に伏す総司令を見舞う。
「敵はガラリア諸部族を糾合し、大軍となっておる。」
大スピリタスは静かに目を開いた。
「……案ずるな。」
「ガラリア兵は烏合の衆だ。」
「今はバルカに従っていよう。」
「だが、この先まで忠誠を誓う者たちではない。」
「この陣を守り切り、時間を稼げ。」
「されば敵は、おのずから崩れる。」
大スピリタスは枕元に置かれた総司令の指揮杖へ手を伸ばした。
震える手で、それをセンプロンへ差し出す。
「頼む。」
センプロンは静かに膝をつき、両手で受け取った。
「承知いたしました。」
深く一礼すると、病室を後にした。
センプロンは自らの天幕へ戻ると、
副官だけを中へ残した。
「……大スピリタス殿も、長くはあるまい。」
そう呟くと、兜を外し、椅子へ深く腰を下ろす。
「だが――これは好機でもある。」
副官は黙って耳を傾けた。
「この前の凱旋式を見たか。」
「市民がアグリを見る、あの熱狂を。」
センプロンは手にしていた総司令の指揮杖を、
音を立てて机へ置いた。
「今、この軍の総司令は私だ。」
「南の国最強の将とはいえ、奴にとってここは敵地の真ん中。」
「軍の大半も、寄せ集めのガラリア兵にすぎん。」
センプロンは静かに笑った。
「……俺にも、ようやく運が回ってきた。」
「センプロン?」
「知っているのですか。」
「いや、知らん。」
バルカは肩をすくめた。
「だが、グランという国は実に面白い。」
マゴは首をかしげる。
「どういうことです?」
「権力を欲しがる人間はいくらでもいる。」
「だが、それ以上に他人の足を引っ張る人間が多い。」
「……。」
「神託も加護も持たぬ王だ。」
「連中は心のどこかで、王を飾り物としか思っていない。」
バルカは地図の上に並ぶ二つの駒を指で弾いた。
「今回もそうだ。」
「敵の大将が二人いる。」
「普通なら、一人で十分だろう。」
マゴは思わず吹き出した。
「確かに。」
「あれは互いに助け合うためではない。」
「互いの足を引っ張るためにいる。」
その時、マシニーサが酒杯を差し出した。
バルカは一息で飲み干し、静かに笑う。
「ならば、その隙につけ込むだけだ。」
「いい機会だ。」
「まとめて皆殺しにしてやる。」
バルカは、グラン軍がトレビ川東岸に巨大な陣地を築き、
守勢に徹しているとの報告を受けた。
「ならば、こちらから動こう。」
狙いは陣地ではない。
周辺のグラン同盟都市だった。
方針は徹底していた。
グラン兵は殺すか、奴隷としてガラリア兵へ引き渡す。
一方で、同盟都市の住民には危害を加えない。
捕らえられていた同盟都市出身の捕虜は解放し、
食糧や財産にも極力手をつけなかった。
やがて町の広場で、バルカは高らかに宣言する。
「我らの敵は、お前たちではない。」
「敵は、お前たちを支配するグラン王国だ。」
「我らは征服者ではない。」
「解放者としてここへ来た。」
その言葉は、風に乗って各都市へ広がっていった。
「あれがヌミダス騎兵です。」
合流した将官たちを従え、センプロンは前線の視察に出た。
平原の各所では、グラン軍と敵騎兵による小競り合いが続いている。
だが、戦況は一方的だった。
ヌミダス騎兵は近づいては矢を放ち、グラン兵が追えば即座に退く。
追撃を諦めれば、再び反転して襲いかかる。
グラン騎兵は完全に翻弄されていた。
「数は。」
「およそ八千と思われます。我が軍の倍です。」
センプロンは険しい顔で、遠方を駆ける騎兵隊を見つめた。
「敵の歩兵は見られるか。」
「捕らえた斥候がおります。敵陣の様子も聞き出しております。」
「案内しろ。」
しばらくして、センプロンは前線近くへ連行された捕虜たちを眺めた。
その多くはガラリア兵だった。
粗末な布を身にまとい、革の盾や長槍を持つだけで、
満足な鎧すら身につけていない。
十二月を目前にしているというのに、防寒具さえ行き渡っていなかった。
センプロンは思わず笑った。
「なんだ。裸同然ではないか。」
「これがバルカ軍の大半だというのか。」
将官の一人が答える。
「はい。敵軍の多くは、現地で加わったガラリア兵と見られます。」
「ヌミダス騎兵は厄介だが、歩兵はこの程度か。」
センプロンは捕虜の細い腕と、粗末な装備を見比べた。
騎兵戦では分が悪い。
だが、正面から歩兵同士の決戦へ持ち込めば――。
重装備を誇るグラン軍が負けるはずはない。
(勝てる。)
(平原へ引きずり出し、正面から踏み潰せばよい。)
センプロンは静かに踵を返した。
「陣へ戻る。」
「大スピリタス殿へ、決戦を進言する。」
センプロンの判断に、誤りはなかった。
ヌミダス騎兵には騎兵で勝てない。
だが、歩兵同士の正面決戦ならば、重装備を誇るグラン軍が圧倒できる。
それは、誰が考えても当然の結論だった。
そして――。
その正しい論理の帰結こそが、
バルカの描いた罠だった。
コメント
1件
みぅです、読了しました🥀 第49話、めちゃくちゃ重厚でした……。大スピリタスが倒れた後にセンプロンが指揮杖を握る場面、彼の内面で「好機」という言葉が出てきた瞬間、背筋が冷えました。味方同士なのに足を引っ張り合う構図をバルカに完全に見透かされているのが怖い。そして「正しい論理の帰結こそが罠」というラストの一文、痺れました。こっちが正しいと思う選択ほど危ないって、戦略の奥深さがすごいです。 続き、気になって仕方ないです……!